( 285594 )  2025/04/24 06:07:17  
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サッカー日本代表がバーレーンに勝利し、8大会連続8回目の本大会出場を果たした。

FIFAが2026年のワールドカップにおいて、日本の放映権販売の代理店を電通以外で調整していることがわかった。

これまで電通が担当してきたが、FIFAは博報堂と交渉を進めている。

FIFAは2026年の放映権収入を拡大する目標を掲げており、日本でもワールドカップ放映権は1大会あたり約300億円だったという。

また、動画配信の普及によりスポーツビジネスに変化が起きており、FIFAの姿勢も変わりつつある。

(要約)

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サッカー日本代表はバーレーンに勝利し、8大会連続8回目の本大会出場を勝ち取った(写真:Kenta Harada/GettyInages) 

 

 あの「4年に一度のサッカー祭典」で、権利ビジネスをめぐり異変が起きている。 

 

 国際サッカー連盟(FIFA)が、2026年に北中米で開催予定の「FIFAワールドカップ2026」において、日本での放映権販売の代理店を電通以外で調整していることが、東洋経済の取材でわかった。 

 

 これまでの男子ワールドカップでは、FIFAは電通と国内での代理店契約を結び続けてきた。しかしFIFAは目下、同社のライバルである博報堂と交渉を進めているとみられる。 

 

 今年3月にアメリカ・ダラスで開催された、2026年大会に向けた放映権ビジネスのワークショップ。「日本からはNHKと博報堂が参加した」(FIFA)とする一方、電通は参加がかなわなかった。「電通からの参加要請をFIFAが断ったようだ」(代理店関係者)。いったい何が起きているのか。 

 

■FIFAと電通にすきま風 

 

 電通はワールドカップが開催されるたびに、FIFAから放映権を預かり、国内のテレビ局に販売。さらに、その広告枠の買い上げから、数限りあるスタジアムでの撮影ポジションの調整といった“ロジスティクス”まで、多岐にわたる業務を担ってきた。 

 

 こうした実務を、博報堂がそう簡単に回せるのか。FIFA関係者は「大会現場でのロジなど、多少の慣れが必要な部分はあるが、放映権の販売に特別なノウハウは要らない」と明かす。 

 

 1998年から約17年にわたってFIFA会長を務めてきたゼップ・ブラッター氏を筆頭に、FIFAと電通は良好な関係を築いてきた。そして、その背後で立ち回ってきたのは、東京オリンピック・パラリンピックのスポンサー契約に関連して、受託収賄などの罪で起訴された高橋治之元専務である。 

 

 しかしFIFAでは2015年に汚職事件が発覚してブラッター会長が事実上、解任された。電通においても2022年に高橋氏が逮捕され、両社の関係性は以前ほど強固ではなくなってきた。 

 

 今回、東洋経済はFIFAから公式コメントを得ることができた。電通外しについて具体的には触れないものの、冒頭の放送権ビジネスのワークショップに、NHKと博報堂が参加したことは認めた。 

 

 そのうえで「FIFAは2026年のFWC(FIFAワールドカップ)に向けて、デジタル活用と革新を非常に重視することで、テクノロジーとビデオ消費の進化に適応していく」と述べた。 

 

 

 FIFAは2023〜2026年の4年間、放映権収入を42億6400万ドル(約6000億円)へ拡大する目標を掲げている。2019〜2022年の放送権収入34億2600万ドル(約5000億円)より、約25%も増やす必要がある。 

 

 2026年大会は出場国が48カ国に増加(2022年は32)、試合数は6割増の104試合を予定する。 

 

 世界のスポーツビジネスには、動画配信の普及というゲームチェンジが起きている。そして、巨大資本を擁するネットフリックスやウォルト・ディズニー、アマゾン・ドットコムといったプラットフォーマーの間では、新規会員の獲得競争が激化している。 

 

 すでに韓国では「(放映権のパートナーを)放送局のコンソーシアムから、デジタルとリニア放送の両方に強みを持つ、JTBCという1つの企業に移行した」(FIFA)。電通外しはワールドカップ放映権に関する、FIFAの全世界的な改革の一端にすぎないのだ。 

 

■FIFAが抱く懸念 

 

 当然、変化の余波は、依然としてテレビ局のメディアパワーが強い日本にも押し寄せている。FIFA関係者によれば「日本におけるワールドカップ放映権は、1大会あたり2億ドル(約300億円)程度」だったという。 

 

 2022年の前回大会も開幕まで1年を切る中で、放送局ではNHKとテレビ朝日、フジテレビが放送を決めた。ただし注目試合に限られ、地上波での放送枠は減ってしまった。 

 

 結局、全試合を「ABEMA」を擁するサイバーエージェントが無料配信するとの契約を締結。同社はメディア事業において、開催期間の四半期に93億円もの営業赤字を計上した。 

 

 前回大会における電通の放映権の取り扱いのパフォーマンスも相まって、FIFA側は「一極集中によって、電通におごりがあるのではないか」(FIFA関係者)という懸念を深めていったようだ。 

 

 ただ、ここに来て博報堂は壁にぶつかっている。テレビ局への放映権販売について、事前交渉がまとまらないというのだ。 

 

 というのも、電通はテレビ各局に「局担」と呼ばれる広告枠の担当者が半ば常駐するなど、局内に深く入り込んでいる。博報堂がテレビ局に放映権販売を持ち掛けても、「電通が“うまくできるはずがない”などと横やりを入れているようだ」とFIFA関係者は困惑する。 

 

 当然、テレビ局はFIFAの事情を詳しく知るはずもない。ならばFIFAと博報堂の交渉が破談し、電通がより低い水準で放映権を押さえると聞けば、そのほうが好都合と考えてしまいかねない。 

 

 

 放映権の代理店契約を結ぶ場合は、FIFA側に相応の保証金を支払うことが想定される。その回収に必要なテレビ局との話がつかないまま、博報堂が社内決裁を通すことは容易ではなくなる。 

 

■日本代表は本大会出場を決めたが 

 

 ワールドカップ2026年大会は、来年6月11日から7月19日まで開催される。このまま膠着状態が続くとどうなるのか。 

 

 残念なシナリオとしては、FIFAが電通、博報堂とテレビ局の硬直化した環境にしびれを切らし、放映権を“直販”に切り替えてしまうことだ。開会式や主要試合はNHKで放送し、それ以外は資金力の豊富な有料配信サービスに放映権の大半を直販する可能性も否定できない。 

 

 早くもサッカー日本代表は、8大会連続8回目のワールドカップ出場を勝ち取った。本大会で奮闘する選手たちの姿を、はたして多くの国民が目にすることはできるのか。開幕が約1年後に迫る中、放映権ビジネスをめぐるタイムリミットが刻一刻と迫る。 

 

本記事はダイジェスト版です。詳細記事(有料会員限定)は「東洋経済オンライン」のサイトでご覧いただけます。こちらではFIFAと電通の蜜月関係の歴史、世界で起きているスポーツビジネスをめぐる「ゲームチェンジ」、博報堂が下克上で得ることができる“果実”なども詳報しています。 

 

森田 宗一郎 :東洋経済 記者/前田 佳子 :東洋経済 記者 

 

 

 
 

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