( 285611 ) 2025/04/24 06:26:36 0 00 視聴者がテレビに求めるコンテンツは変化している(@matsu_bouzu/Xより)
バラエティー番組「ダウンタウンDX(デラックス)」(読売テレビ、日本テレビ系列)が、32年の歴史に幕を下ろすと発表された。
松本人志さんが活動休止してから、1年以上が経過した。浜田雅功さんの体調不良により、今後のコンビ活動が見えないなかでの終了発表とあって、視聴者からは驚きの声が出ている。
インターネットを中心に、これまでメディアの変化を見てきた筆者からすると、ダウンタウンDXの終了は「視聴者がテレビに求めるコンテンツの変化」を表しているように感じる。その理由を説明しよう。
■ここ数カ月続いていた「あるじの不在」
読売テレビは2025年4月21日、「ダウンタウンDX」が6月26日の放送で終了すると発表した。
番組は1993年に開始し、少人数のゲストを招いてのトークや、クイズ番組を経て、現在は「ひな壇」に並ぶゲストとのやりとりが中心となっている。
視聴者によるゲストの目撃情報や、スタジオまで着てきた私服やアクセサリーの紹介など、芸能人の日常生活が透けて見えるようなコーナーを通して、ダウンタウンの2人による、ゲストへの「イジり」を楽しんでいる視聴者も多いだろう。
そんな人気かつ長寿番組だが、ここ数カ月は「あるじの不在」が続いていた。松本さんはスキャンダルを受けて、雑誌報道に対する法的措置に注力するため、2024年1月から活動を休止している。
加えて、浜田さんは2025年3月、前年末から体調不良があり、「医師より、当面の間、静養することが望ましい」と助言を受けたとして、一時休養に入った。1カ月ちょっと経過したが、いまなお復帰予定は明らかになっていない。
浜田さんの休養を受けて、番組は代役による司会を立てている。4月3日の放送は「かまいたち」山内健司さんと濱家隆一さん、10日は「千鳥」大悟さんとノブさん、17日は「ロンドンブーツ1号2号」田村淳さん、そして24日の放送は東野幸治さんが担当する予定だ。
■スキャンダル以降、説明が不十分な印象
視聴者からは代役を立てつつ、浜田さんの復帰を待つと思われていたのか、SNSでは突然の番組終了に驚く声が相次いでいる。加えて、「ダウンタウン」を冠する他の番組を心配する投稿も少なくない。
というのも、たとえ浜田さんが復帰したとしても、松本さんの活動が見えない以上は「ダウンタウンの番組」とは言えないからだ。松本さんのスキャンダル報道から、まもなく1年半を迎える。すでに訴訟取り下げからも半年ほどたつが、取り下げ直後の2024年12月に、芸能記者によるインタビュー記事が、大手ポータルサイトに掲載された以外、ほとんど続報は見られない。
この間には、ともに「まつもtoなかい」(フジテレビ系)を担当していた“盟友”である中居正広さんも女性問題を報じられ、芸能界を引退した。エンタメ業界にも「人権とコンプライアンス意識の順守」を求める風潮が高まっている。
報道の真偽を横に置いても、一度スキャンダルが出た人物であるだけで、風当たりは強くなる時代だ。そこで重要となるのが、「誠実に向き合おうとしているか」である。その点において、いまなお本人の肉声で発信していない松本さんは、説明が不十分な印象を視聴者に与えている。
ちなみに浜田さんが休養発表する数日前、読売テレビの松田陽三社長が、「ダウンタウンDX」の今後について触れている。当時は浜田さん1人での進行だったが、「松本人志さんが復帰するかどうかは、視聴者の方に受け入れていただけるかが判断基準になる。先方もある話であり、状況の推移を見守っていきたい」との見解を示していた。
■終わる番組と、終わらない番組
「ダウンタウンDX」公式サイトでの発表では、「弊社として番組の今後について検討する中、ダウンタウンのお二人より、『活動休止によって多くの関係者の方々にご迷惑をおかけしている』との意向も所属事務所を通じていただき、総合的に判断した結果、放送終了に至りました」と、その理由が説明されている。
つまりは、局としての見解に加え、本人からの申し出も判断材料になったということだ。また、両者とも不在になっていることについて、本人たちが心苦しさを感じている点も、この文からは読み取れる。そのため、同様に番組終了となる冠番組が増えるのでは、と気になっている視聴者も多いはずだ。
結論から言えば、おそらく終わる番組と、終わらない番組は、きっちり分かれるだろう。代役では成り立ちにくい「ダウンタウン頼み」のコンテンツは整理され、「企画勝負」のものは代役を立てつつ継続すると予想している。
たとえば「水曜日のダウンタウン」(TBS系)は、2人の言動よりも、「説」と呼ばれる企画の妙が、視聴者の心をつかんでいる。もちろん2人の不在により、その「味付け」には変化が出る。しかしスタッフの発想力と実践力が絶えない限り、コンテンツとしての価値は保ち続けるだろう。
ただ、こうした番組は、おそらく一握りだ。ダウンタウンに限らず、「タレントのMC力」だけに頼る番組は多い。もちろん、起用されるタレントが面白ければ、コンテンツとして成立するし、視聴率も確保できる。しかしながら、世間の移り変わりによって、そうした番組づくりに限界が来ているのではとも感じるのだ。
■「タレント頼み」の番組制作が抱えるリスク
直近で言えば、フジテレビ問題をめぐる、視聴者の受け止めは、まざまざと時代の変化を感じさせる。
第三者委員会の調査対象者に、「とんねるず」石橋貴明さんも含まれていたと報じられると、1980年代〜1990年代の芸風を理由に、批判が相次いだ。一部に「当時のエンタメとしては当たり前だった」との擁護も見られるが、そのかつての隆盛ぶりゆえ、反対に「当時は『嫌いな芸風だ』と言えなかった」との告白も少なくない。
フジ問題では、とんねるずとともに一時代を築いた港浩一氏(フジテレビ前社長)が、時代錯誤の象徴として扱われている。そして、お家芸だった「ギョーカイの内輪ノリ」が、軽薄さにつながり、フジ問題の温床になったとの指摘もある。
この件からも見えるように、タレントと制作スタッフの関係性をベースにして、そこへ視聴者を巻き込む「共犯関係」は、すでに時代の流れに合わないのではないか。そして「タレント頼み」の番組制作は、こうした演者と制作陣の距離感をバグらせる危険性をはらんでいる。
加えて、一連のフジ問題では、有名人の「表になっていないリスク」が、後に掘り起こされて不祥事につながるといった学びを与えた。誰も知らないのか、それとも周囲は知りつつも隠しているのか。それはケースバイケースであろうが、人物ベースでコンテンツを作ろうとすると、そうしたリスクを避けられない。
■テレビづくりの新しい基準
一方で企画ベースであれば、「コンプラ的にNG」が事前にわかりやすい。つまりリスクヘッジが容易なのだ。「リスクはあるが、あえて挑戦する」といった攻めの姿勢も、戦略として取りやすくなる。
その代表例が、まさに「水曜日のダウンタウン」だ。感動モノの「説」もあれば、倫理観がぶっ飛んでいる「説」まで手広く用意する。それは演者よりもアイデアに軸を置き、その発想力に絶大な自信を持っているからこそ、なせる技だ。
このような背景もあり、今後はタレント力ではなく、発想力を重視した番組づくりが主流になると考える。そうなったとき、重要なのが「時流に乗ったアイデアを出せるか」だ。テレビ業界では近年、購買層によるコア視聴率(一般的に13〜49歳の個人視聴率を指すとされる)が主な指標だと言われるが、その世代に「ハマる」内容を提供することが、基本路線となっていくだろう。
いかに最先端の価値観についていき、魅力的と感じさせるコンテンツを生み出せるか。それがテレビづくりの基準になっていく。一連の問題を機に、作り手や演者も50歳以上は「古いセンス」として一掃する可能性もあるだろう。
とはいっても、「タレントベース」の需要がなくなるわけではない。ただそれは、テレビから、より個人の魅力が求められるYouTubeなどの動画配信へと移行していくだろう。
くしくも松本さんは、芸能記者によるインタビューで、動画配信サービス「ダウンタウンチャンネル(仮)」の構想を語っていた。テレビに求められるものが変化するなかで、「タレントベース」のウェブ活動に活路を見いだすのは、意外と時流にフィットするのかもしれない。
【もっと読む】中居正広と松本人志に共通する“不信感”の正体 説明をせず、仕事復帰を宣言できる一体なぜ? では、中居さんと松本さんに共通した仕事復帰宣言について、コラムニストの城戸譲さんが解説している。
城戸 譲 :ネットメディア研究家・コラムニスト・炎上ウォッチャー
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