( 286176 )  2025/04/26 05:48:42  
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自民党の農産物輸出促進員会。トランプ大統領との交渉で「国益を損なわないように」と声も出た=24日午前8時、東京・永田町、加藤裕則撮影 

 

  コメの高騰とトランプ関税で揺れる石破政権。輸入米拡大の議論も取りざたされる中、自民党の農林族は支持基盤の農協を意識してか猛反発している。農業団体からは「コメの関税を下げて外国産米が入るようになれば(自民)党は吹っ飛ぶ」との声も出ている。 

 

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「国益を損なってはいけない」「米国としっかりとした交渉を」 

 

 4月24日午前、東京・永田町の自民党本部の7階の会議室は朝からヒートアップしていた。 

 

 会合の名前は「農産物輸出促進対策委員会」。自民党の国会議員が集まり、農産物の輸出策のほか、トランプ米大統領による関税措置について話し合った。議員からは、「国益を損なわないように毅然とした態度で」などと石破政権に対する要望が出たほか、農林水産物の輸出で影響が出始めているとの訴えも出た。 

 

 農林水産省の担当者も出席し、牛肉などで日本からの輸出に対し、現地の顧客らからキャンセルが出ているとの報告もあった。 

 

■「コメの関税700%」発言で波紋 

 

 4月2日(現地時間)に公表した米国の「相互関税」は、日本の農政を大きく揺さぶっている。特に、トランプ大統領がボードを持ちながら「日本のコメの関税は700%だ」と言い切ったことで、政府内に「700%ってなんだ」と戸惑いが広がった。 

 

 実は米政権のレビット報道官も3月11日に記者会見で700%という数字を示していたが、大統領がテレビ中継の前で発言したことで波紋が一気に広がった。江藤拓農林水産相は3日、記者団に対し「理解不能だ」と述べている。 

 

 日本のコメに対する関税は1㌔あたり341円と決まっている。農水省の担当者は「何%とは言えない。この数字は国や地域、時期などによって大きく違う」と説明する。 

 

 実際は米国産米で約200%程度という見方があるが、トランプ大統領の700%はどこから出てきたのか。 

 

 今の日本のコメの輸入制度は、約30年前に妥結したガット・ウルグアイラウンド交渉の枠組みを基本にしている。このころに農水省が一例として「778%」という関税率を産出したことがあり、これをトランプ政権が丸めて使っているという見方が広がっている。 

 

 ただ、その後、米国の狙いはコメだけではなく、牛肉や大豆などの農産物全体にあることも分かってきた。 

 

 16日にあったトランプ大統領と赤沢亮正・経済再生担当相との交渉では、米国から肉類やかんきつ類、ジャガイモやコメについて言及があったといわれる。米国は「700%」を口実にコメを突破口にし、多様な農産物の市場開放を求める狙いとみられている。 

 

 日本政府はどう動くのか。 

 

 

 事態を複雑にしているのが、昨年からのコメの高騰だ。1年間でコメの価格は2倍に跳ね上がり、関税を払ってカリフォルニア米を輸入しても日本国内のコメの値段とさほど変わらないようになった。日本の商社による輸入拡大が本格化している。 

 

 財務省も15日にあった財政制度等審議会の分科会で、コメの安定供給を目的に「ミニマムアクセス米」と呼ばれる輸入枠について弾力的な運用を求めた。 

 

 石破政権も米国と交渉のカードとして、コメの輸入を拡大する方向で検討しているとの報道が相次ぐ。 

 

■農相「国内産の減少は国益か」 

 

 この動きに危機感を強めるのが自民党農林族だ。江藤農相は、農林族のドンの一人だ。23日の記者会見でコメの輸入について、「国民の中にカリフォルニア米を輸入して店頭に並べて欲しいという声がある。その気持ちはよく分かる」としながら、食料自給率を上げることを訴え、「大事なことは食料安全保障。海外に頼る体制を築いてしまい、日本の米の国内生産が大幅に減少してしまうということが国益なのか」と述べ、コメの輸入拡大に慎重な姿勢を見せ、国内の農家や農業を守る構えを見せた。 

 

 背景には、全国の農協の大半が自民党の支持基盤となっていることがある。全国約500の農協の多くは、選挙のときに幹部らが自民党候補の陣営に入り、集票には欠かせない存在となる。 

 

 「仮にコメの関税を下げて外国産米が大量に入ってくるようになれば、(自民)党は吹っ飛ぶ」と農業団体の首脳は断言する。 

 

 コメの価格の高騰は止まらず、消費者の我慢が限界にきていることも間違いない。政権の実力が試されている。 

 

(経済ジャーナリスト 加藤裕則) 

 

加藤裕則 

 

 

 
 

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