( 286716 )  2025/04/28 05:30:09  
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BYDが日本の軽自動車市場への参入を発表。その性能は“低め”に推定しても国産車を凌駕しているようだ Photo:JIJI 

 

 日本独自の「ガラ軽」市場も蹂躙されてしまうのか――。世界を席巻する中国の自動車メーカー・BYDが、日本の「軽自動車」セグメントに本格参入を表明。しかも、その軽EVは“低め”に推定しても価格と性能で国産首位の日産「サクラ」を凌ぐ可能性が高いようです。これまで日本市場では苦戦してきたBYDですが、なぜ今「軽EV」で勝負を挑むのでしょうか。価格、航続距離、バッテリー技術…日本車との違いを徹底比較した結果、見えてきた圧倒的な性能差とは。(百年コンサルティングチーフエコノミスト 鈴木貴博) 

 

● BYDの軽自動車参入 日本メーカー、大丈夫? 

 

 中国の自動車最大手になったBYDが2026年末までに日本市場に軽自動車を投入することを発表しました。 

 

 「中国車でしょう?まあ売れないよ」 

「信頼性や耐久性が心配だしね」 

「そもそもEVが日本では売れないのを知らないんだろうね」 

 

 というのがこれまでの日本でのBYDの評判でした。この状況が変化することになるのでしょうか。日本の自動車市場は、来年出現することになる安価な中国車にどう翻弄されることになるのでしょうか。記事にまとめてみます。 

 

【後編】BYDの「ガラ軽」市場参入は「3つの壁」で阻止される…だが、その翌年に日本を襲う「本当の黒船」の正体 

 ちょうど1カ月前のダイヤモンドオンラインにBYDの2024年12月期決算についての記事を書きました。売上高が前年比26%増の7770億元(約16.1兆円)で、ライバルであるアメリカのテスラの977億ドル(約14.7兆円)を上回りました。日本車メーカーでは日産(今期売上予想12.5兆円)を上回り、ホンダ(同21.6兆円)超えも視野に入ってきました。 

 

 そのBYDも日本市場参入には予想通り苦戦しています。世界販売台数が427万台であるにもかかわらず、2024年の日本での販売台数は2223台に過ぎません。これまでは中国車の評判を覆すべく高級車戦略を取り、SUVやスポーツセダン、今年はプラグインハイブリッドの高級車投入と日本市場では高価格セグメントでの展開を主戦場としてきました。 

 

 一方で、あえて中国市場で売れている小型車の投入を自制してきたのがこれまでのBYDでした。今回のニュースはその戦略の大転換と言えるでしょう。 

 

 

 先に中国市場での状況を紹介します。中国の自動車市場では新車に占める新エネ車(EVとPHEVの合計)の比率は昨年夏頃から自動車販売全体の5割を越え始めました。直近ではその約6割がEV、約4割がプラグインハイブリッド車(PHEV)で、BYDはその両方で高い市場シェアを誇っています。 

 

 では車種別でどのブランドが売れているのかというと、2025年1〜3月期の上海における販売データで販売台数1位なのがBYDの「シーガル」という日本では未発売のコンパクトカーです。日本車でいうとトヨタの「ヤリス」や日産の「ノート」、ホンダの「フィット」と同じようなサイズと言うとイメージしやすいでしょうか。EVの走行距離305キロの下位グレードの現地価格が7万3800元(約150万円)と非常にお安いのが特徴です。 

 

 2位は同じくBYDのプラグインハイブリッド車の「ソングプラス」。かなり大きめのSUVです。そして3位に競合メーカーの五菱が発売する「宏光ミニEV」という軽自動車に近いサイズのコンパクトカーが入ります。 

 

 日本でも直近年度の乗用車の販売台数ランキングではトヨタの「ヤリス」がトップに入り、軽自動車を加えるとホンダの「N-BOX」が1位になります。台数ベースでの売れ筋が小型車という観点では日本も中国も消費者ニーズは似ています。 

 

 ただ、中国市場ではこれまで大型車は新エネ、小型車はガソリン車に寄っていたところから、2024年後半あたりから急激にコンパクトカーセグメントでもEVが台頭してきた点が日本とは異なります。実はガソリン車を含めた全乗用車ブランドの中でもBYDの「シーガル」が販売台数1位になっているというのは、中国市場における消費需要の大きな変化だと思います。 

 

● 海外勢の参入を阻止してきた 日本独自の「ガラ軽」市場 

 

 さて日本市場に視点を移します。2024年の国内新車販売台数の総計はおよそ442万台で、このうち約35%にあたる約156万台を軽自動車が占めます。今回、BYDはこの軽自動車市場でシェア40%を狙うそうです。台数にすれば年間約60万台超。そんなことができるのでしょうか。 

 

 

 そもそもこの軽自動車というのは日本独自のガラパゴス規格です。ボディサイズは全長3.4m以下、全幅1.48m以下、全高2.0m以下、エンジンの排気量は660cc以下と決められていて、定員は最大で4名です。 

 

 この規格に該当する外国車はほぼありません。外国車で小型車というとBMWの「ミニクーパー」をイメージする人も多いかもしれませんが、「ミニクーパー」は全長3.865m、全幅1.755mですから、軽自動車よりもずいぶん大きいのです。 

 

 軽に近いサイズの外国車ではメルセデスの2人乗りの「スマート」(生産終了)がありましたが、全幅1.5mとぎりぎりで軽には当てはまりません。私が以前所有していたクラッシックの「ローバーミニ」は全長3.075m、全幅1.440mとサイズは軽のカテゴリーに該当しますが、エンジンが1リットルと大きすぎます。 

 

 中国には現役で軽に近いコンセプトの売れ筋EVがあります。先ほど上海市場で3位に入っていると紹介した五菱の「宏光ミニEV」です。車としてのコンセプトはまさに軽自動車で、一番安いグレードの価格は2万8800元(約60万円)、エアコンが装備される上級グレードでも3万8800元(約80万円)という日本人から見れば驚きの安さです。 

 

 この60万円の宏光ミニEVがもし日本市場に入ってきたら?と発売前に警戒されていたのですが、実際に発売されてみると全幅が1.493mとわずかに日本の軽規格に入らないことが判明しました。要するに最初から日本市場は狙っていなかったのです。 

 

● コスパも走行距離も桁違い… BYD「軽EV」の性能を“低め”に推定 

 

 そこで今回のBYDです。日本の軽自動車の規格に合わせた独自車体をすでに設計済で、2026年後半に日本市場に投入するというのです。いったいどのような形態で、BYDの黒船は日本に上陸するのでしょうか。 

 

 これを迎え撃つ日本車でも軽のEVは売れています。それが日産のサクラです。2024年度の国内販売台数は2万台を超え、国内EV販売台数では3年連続の首位を走っています。税込販売価格は約260万円で満充電での走行距離は180kmです。 

 

 

 ではBYDの軽EVはどのようなスペックになるでしょうか。BYDはブレードバッテリーという縦型のバッテリーを床に高密度で敷き詰める独自の技術を持っています。そのためコンパクトカーのシーガルでも低価格モデルの走行距離は305km、高価格モデルは405kmとEVとしてはかなりの長距離走行スペックを誇っています。 

 

 このシーガルの床面積(=全長×全幅)と日本の軽自動車規格ぎりぎりに合わせた車の床面積を比較すると単純計算で78%になります。そこからBYDの軽の走行距離性能を推測してみます。保守的に新型軽のブレードバッテリーの量はシーガルの75%になるとして計算すると、BYD製の軽は低価格モデルで230km、高価格モデルで300kmは狙えそうです。言い換えるとサクラを上回るスペックが実現できそうです。 

 

 EVのコストの大半はバッテリーの量で決まります。そこからの類推で仮に新型軽のコストを保守的にシーガルの8割だと仮定してみます。中国でのシーガルの価格は低価格モデルが日本円にして約144万円、高価格モデルが約175万円です。さらにドルフィンのケースでは中国での価格と輸送費や関税を含めた日本での販売価格は約1.6倍の差があります。 

 

 それらの要素を総合して推定すると、BYDの新型軽の販売価格は低価格モデルが185万円、高価格モデルが225万円という数字が算出できます。 

 

 もう一度比較してみましょう。日産サクラが260万円で180kmであるのに対して、BYDは185万円で230kmの標準モデルと225万円で300kmの長距離モデルの2タイプをぶつけてくる可能性があるということです。これは計算する前から予想された結果です。BYDの軽は価格およびコストパフォーマンスの観点では日本車を凌駕する存在です。 

 

 とはいえコスパがいいからと言って日本企業がうろたえる必要はまだありません。BYDには日本車と比較して劣位な点が3つあります。日本での信頼性や品質のイメージと、日本市場への知識、そして日本での販売チャネルです。この3つの障壁はコンサルタントの視点で見るとBYDにとってはかなり高く、その視点でみれば今回の黒船は日本車メーカーにとってそれほどの脅威にならないかもしれません。 

 

この圧倒的な性能差がありながら「日本メーカーはうろたえる必要はない」とは一体どういうことなのか……。【後編】《BYDの「ガラ軽」市場参入は「3つの壁」で阻止される…だが、その翌年に日本を襲う「本当の黒船」の正体》はこちらからご覧いただけます。 

 

鈴木貴博 

 

 

 
 

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