( 287376 )  2025/05/01 03:28:41  
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小学生ら子どもの姿が目立つ万博のゲート 

 

 大阪・関西万博を小中学生に楽しんでもらおうという大阪府の子ども無料招待事業が始まっている。事業に対しては、安全面での不安などから参加を見送る学校もあった。実際に万博会場を訪れていた教員に話を聞くと、不安の声が聞かれた。 

 

「こうなることを避けないといけませんが、避けようがないのも事実。それでも万博には行くという決断のようです」 

 

 こう複雑な表情で話してくれたのは、大阪府内の小学校のA先生。5月にも予定されている大阪・関西万博の社会見学の「下見」のため、数人の同僚とともに万博会場の最寄り駅である地下鉄・夢洲駅を視察していた。 

 

 A先生が記者に示してくれたのは、スマートフォンの画面。そこには、夢洲駅にアクセスする唯一の鉄道路線・地下鉄中央線が4月22日に車両故障で一時運転休止となったことを伝えるニュース記事が映し出されていた。中央線は午後9時半から約1時間、運転を見合わせたが、このため夢洲駅では4000人を超す来場者やスタッフが身動きがとれなくなり、大きな混乱となった。 

 

「うちは地下鉄で学校と万博を往復する予定です。朝8時前には出発し、学校に夕方4時くらいには到着したい。次の日も授業があります。もし地下鉄が止まって児童たちが足止めを食らったらどう対応すればいいのか。心配でなりません」 

 

 とA先生は不安げに話す。その後、同僚の先生たちと夢洲駅で、ホームの大きさや幅を見ながら、 

 

「3列で並ぶ? いや4列がいいか」 

 

 などと細かな打ち合わせをしていた。 

 

 A先生の心配は杞憂ではないだろう。この取材の後、地下鉄中央線は4月26日夜にも、全線が一時運転休止となった。 

 

■維新の市議から声がかかって「行くしかない」 

 

 A先生の学校では大阪府の万博子ども無料招待事業を利用して、万博への社会見学が決まった。万博への学校単位での無料招待については、安全面の不安や交通費負担などの理由から、否定的な意見が出ているが、これについてA先生はこう話した。 

 

「うちの地元は維新が市議会の与党です。維新の市議から校長に『ぜひ万博の無料招待に』と何かの集まりで声がかかったようで、『行くしかない』ということです。しょうがありませんわ。万博の入場者数の目標をクリアするには、学校単位の動員が不可欠なんでしょう。なにか子どもたちが利用されているような気もしますが……」 

 

 

■「夏に学校単位で来るのは避けたほうがいい」 

 

 万博会場に入ると、この日は平日ということもあってか、社会見学や修学旅行のため学校単位で訪れている子どもたちの姿が目立った。 

 

 大阪府内の中学校から来たというB先生に話を聞いた。 

 

「朝から来ています。暑いと聞いてはいましたが、想像以上でした。来場してまもなくリングにのぼって散策して、お昼の弁当を食べましたが、午後になると子どもたちの動きがすっかり鈍くなってきた。歩き疲れたんでしょうね。けど、ゆっくり休憩する場所が限られている。お昼時は他の学校とも重なるので、混雑もひどかったですね」 

 

 万博の楽しみはパビリオン見学だが、渋い表情を見せる。 

 

「人気あるところはどこも予約でダメ。そうでないところを2つ見学しただけです。学校まで1時間ちょっと地下鉄でかかりますので、万全を期して2時半にトイレなどを済ませ、全員点呼したところです。最初は笑顔だった子どもたちもくたびれた感じですね。本当は、無料招待は個人で使って、家族で自由に行ってもらうほうがいいように感じました」 

 

 先生の了解を得て、生徒たちに感想を聞かせてもらった。 

 

「リングの上からの景色がよかった。気持ちいい。ただパビリオンがあまり見られず、リングをぐるぐる回ってばかりだとしんどいし、つまらない。もっと見たいから家族で来ます」 

 

「暑くてすぐに持ってきた水がなくなってしまった。ガンダムの前で写真を撮ったから、それだけはよかった。もう万博はええわ、スマホで見てるほうが楽や」 

 

 この日は天気がよく、常に無料の給水スポットが混雑していた。 

 

「無料の水を2回もらった」 

 

 などという子どもたちが何人もいた。 

 

 B先生は、こんな話をしてくれた。 

 

「7月に万博を予定している中学校の先生を知っています。バス手配の都合でその季節しかとれなかったそうです。4月に来て、昼間はこの暑さ。日差しを避ける場所もリングの下か団体用のスペースしかない。熱中症対策を十分にするようにとアドバイスするつもりです。正直言えば、夏に学校単位で来るのは避けたほうがいいと思う。万博会場は広いし、万が一、熱中症で倒れたりしたら、子どもたちの命にもかかわる。それと、メタンガスが発生しているというマンホールのある万博の西側には行かないように注意しました」 

 

 

■「もっと入場者に優しくしないと」 

 

 会場には、旅行会社のツアーの団体もかなりいる。同行していた添乗員に話を聞いた。 

 

「今日は関東からのお客様をご案内しています。比較的、ご高齢の方が多いので、広い万博会場を無駄なく歩いてもらうのに工夫が必要です。それと暑さ対策ですね。30分に一度くらいは水分補給を呼び掛けている」 

 

 修学旅行を案内する予定もあるという。 

 

「当初、修学旅行を担当する予定はいくつもあったんですが、いくつかキャンセルになりました。安全性の不安とかで万博の評判がよくない。奈良や京都、USJ(ユニバーサルスタジオジャパン)に変更という学校がけっこうありました。それに、学校単位でご案内しても、パビリオンはいいとこ3つ4つほどしか入場できないでしょう。リングからの景色は素晴らしいが、炎天下でずっと見ていたら体調を崩しかねません。旅行会社では、団体客用のチケットがけっこう余っているとも聞きます。健康がテーマの万博ですが、肝心なところに配慮が欠けている印象です。プロの目から見ると、もっと入場者に優しくしないと修学旅行には選んでもらえませんよ」 

 

 リングと並んで万博の目玉だった「空飛ぶクルマ」は、4月26日に実施されたデモフライトでプロペラの一部など部品が落下するアクシデントが発生。けが人は出なかったが、デモフライトはしばらく休止することになった。 

 

「開幕直前に商用飛行を実施しないと決めていてまだよかった。商用飛行でこんなアクシデントがあれば、事故として扱われ、警察や国交省なども出張ってきたはずで、もっと大きくニュースになり、ヤバかった。学校単位の万博行きも安全性などでキャンセル続出だったでしょうね」(国際博覧会協会の関係者) 

 

 これでますます安全性に不安が募ることになった万博。子どもたちが事故に遭ったり健康をそこねたりしないことを祈りたい。 

 

(編集部・今西憲之) 

 

今西憲之 

 

 

 
 

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