( 287981 )  2025/05/03 04:56:14  
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日本の主食、米の価格が高騰しつづけている(写真:gettyimage) 

 

 相も変わらず、米が高い。政府備蓄米の放出後も価格が下がる気配はない。価格が上がる理由はシンプルで、売る米がないのだ。米屋ですら、「米が入ってこない」「廃業寸前」と嘆く。 

 

*    *    * 

 

■米屋も青息吐息 

 

 備蓄米を放出したと政府は言うけれど、米はなかなか買えない。価格も下がるどころか、上がる一方だ。 

 

 この事態に青ざめているのは消費者だけではない。米屋もだ。 

 

「秋まで店がもたないかもしれません」 

 

 そう語るのは、東京近郊の老舗米店の店主、坂本稔さん(仮名)だ。 

 

「問屋(卸売業者)に頼んでも米が全然入ってこない。今日も3軒の問屋に問い合わせましたが、そのうちの2軒は『一粒の米もない』と。残り1軒は『取引のあるスーパーに1回、米を送ったら在庫は全て終わり』だと言っていました」 

 

■入荷するのは注文した量の3分の1 

 

 4月下旬のこの日、店頭には北海道産ゆめぴりかや新潟県・魚沼産コシヒカリなどが並んでいた。商品の数は少なく、10袋にも満たない。 

 

「問屋に注文しても、いつ届くのかまったくわからない。入荷しても注文した量の半分や3分の1なんです。一般のお客さんに売れる米はこれだけです。価格の高い米だけがかろうじて残っている」(坂本さん) 

 

 価格は5キロ4000円台後半から5000円台後半だ。坂本さんは声を落とす。 

 

「在庫が底をついたら店を閉めるか、米屋として国産米にこだわってやってきたのに外国産米を仕入れて並べるか。そんな可能性もある状況です」 

 

■米屋の廃業が相次ぐ 

 

 米不足を背景に米屋(米穀店)の廃業が目立っている。帝国データバンクによると、昨年度、米屋の休廃業・解散は、計88件。前年度から2年連続で増加し、コロナ禍以降の5年間で最多となった。 

 

坂本さんは、今年に入ってしばらくして米の確保に苦慮するようになった。供給が不安定な状況は全国で起こっているとみられ、中小のスーパーの棚に並んだ米はすぐ品切れになってしまう。 

 

「新規のお客さんから『米はあるか』という問い合わせをいただきますが、お断りするほかない。普段買ってくださるお得意さんの分が足りなくなってしまう。本来、米が売れればうれしいのですが、今は在庫が減っていく不安のほうが大きい」(同) 

 

 

■「転売ヤー」は暗躍しているのか 

 

 米が手に入りづらいうえ、価格が高騰している――。そんな状況に目をつけ、昨今、投機目的の「転売ヤー」が農家を訪れ、米を買いあさっているという報道もある。 

 

「転売ヤーに米を売っている農家が大勢いるとはとても思えません」と話すのは、別の米屋の店主、中村真一さん(仮名)だ。 

 

「転売ヤーは米の値段が落ち着いたら、買いにこない『一見客』。私が知るかぎり、農家は信頼関係や長い付き合いを大切にするからです」(中村さん) 

 

■農家と信頼関係を築いてきた 

 

 中村さんは、「もう新米の時期まで米は入ってこない」と、腹をくくっているが、米不足を「恐れていない」。店の倉庫には例年の倍以上の在庫を確保しているからだ。 

 

 昨年秋から米を買い増ししてきた。民間在庫の推移などから、「今年も米騒動が起こるのは確実」と予測したからだ。そして、そのほとんどは問屋から仕入れた米ではなく、懇意にしている農家から直接買いつけたものだ。 

 

 中村さんは20年ほど前から農家との直接取引を増やしてきた。「同じ銘柄の米でも産地や農家によって味が異なります。品質のよい米を作る農家を探して、関係を築いてきました」(同) 

 

 この方針が結果的に奏功したかたちだ。 

 

「米を保管する場所代や空調の電気代はかかりますが、これまでの取り扱い実績からすると、7月までは乗り切れると思います」(同) 

 

■新米の価格はさらに上がる 

 

 懸念するのは、米価格のさらなる高騰だ。 

 

「現段階で、今年秋に取れる米の値段はもう決まっています。まさに『青田買い』です」(同) 

 

 通常、中村さんが農家と米の価格交渉をするのは、10月ごろの収穫時期だが、米の獲得競争が激化しているのだ。 

 

 つい先日も、あるブランド米を「JAが3万3000円(60キロ)で買うと言っている」と、農家から中村さんに連絡があった。昨年秋も高値だったが、今年はさらに大幅にアップした。 

 

「われわれの買い取り価格は4万円以上になるでしょう。そこに経費や利益を乗せたら、控えめに言っても5キロ6000円前後になる。そんなに高い米をお客さんは買ってくれるのか。米離れが心配です」(同) 

 

 

■備蓄米のゆくえは 

 

 3月、政府は備蓄米の放出を始め、全国農業協同組合連合会(JA全農)が9割以上を落札したことが報じられた。 

 

 中村さんは、「備蓄米が米屋の店頭に並ぶことはまずない」と話す。 

 

「備蓄米はJA全農と取引のある大手の卸売業者に流れる。卸売業者は大口の得意先である全国展開のスーパーなどに売る。大手卸売業者と取引のない中小のスーパーや米屋に備蓄米が来ないのは致し方ない」(同) 

 

■外国産米も値上げ 

 

 西友やイオン系のスーパーでは外国産米を扱っているが、米屋に外国産米が並ぶのも時間の問題と中村さんは考えている。 

 

 その外国産米をめぐる入札競争も激しさを増している。昨年11月、西友は台湾産米「むすびの郷」を5キロ2797円(税込み)で販売開始したが、「調達価格が変わった」(西友広報)ことから、3769円(税込み、4月25日時点)と、大きく値上がりした。 

 

 米の品薄が続き、米価格が上がり、米屋が廃業していく――。 

 

 どうすれば、状況は改善するのか。全国商工団体連合会の太田義郎会長はこう話す。 

 

「実際にやってみないとわかりませんが、備蓄米を50万トンほど放出すれば、市場はひとまず落ち着くと思う」 

 

 農林水産省によると、昨年6月までの1年間の米の需要は702万トンだった。ひと月あたり約58万トンで、それとほぼ同量の米を放出すれば、「市場心理は落ち着く」と太田会長は見る。 

 

「米が豊作であることがもう一つのポイント。生産量の多い新潟県や北海道、東北地方で米の出来がよければ、米不足は解消すると思う」(太田会長) 

 

■来年は備蓄米もなくなる 

 

 備蓄米の総量は91万トン(2024年6月末時点)。政府は今年産の米が出回る前の7月まで、備蓄米を毎月一定量放出する予定だ。 

 

 前出の中村さんが心配するのは来年以降だ。 

 

「頼みの綱だった備蓄米は事実上なくなる。もし今年中に米不足が解消しなかったら、トランプ政権の要求をのむかたちで、米国産米の輸入が一気に拡大するかもしれません」 

 

(AERA編集部・米倉昭仁) 

 

米倉昭仁 

 

 

 
 

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