( 288251 ) 2025/05/04 05:04:39 0 00 筆者も田植えを手伝って、いかに稲作が重労働かがわかった
政府が備蓄米放出を表明しても、コメ価格は高止まりしたままだ。農林水産省が公表している、4月14日から20日までの1週間に販売されたコメの平均価格は5kgで4220円だった。こうした現状に一部からは「農家が暴利をむさぼっているのではないか」といった意見も出ているが、はたしてそうだろうか。先日、農家の田植えを手伝いする経験をしたネットニュース編集者の中川淳一郎氏が、農家が置かれた状況を踏まえて「日本人とコメ」について考察する。
* * * 正直、コメがどうして高騰しているのか、納得できる説明はありませんよね。コメ農家の人からは、昨年が不作だったことや、海外にコメを輸出し過ぎたからだ、などと言われましたが、理由ははっきりしない。まぁ、「コメが足りない」という報道をした結果、転売目的も含めた買い占めが一斉に発生して高騰した面もあるでしょうが。
先日、私は農家の田植えを手伝いました。ここでコメに対して様々な気付きがあったので報告します。4月29日、この日は佐賀県唐津市の農家・山崎家にとっては年間で最重要な日のひとつ。「この日に田植えをする」という決定をし、手伝ってくれる人をアサインし、実行するのです。田植えの手順をまずは説明します。
【1】ビニールハウスで育てていた苗(横長の容器に入っている)を軽トラックの荷台に乗せる(※重いんだな、コレが。コレ一つで17.5kg分の玄米になる)。この容器は軽トラ1台で30個搭載可能。軽トラに乗せるのはかなりの重労働。
【2】予め業務委託をしていたK氏の田植え機を田んぼにスタンバイしてもらい、この苗を田植え機に移す。一反(約1000平方メートル・50mプールぐらいの大きさ)で20の容器の苗が使われる。
【3】すぐにビニールハウスに戻り、苗の容器を急いで軽トラに乗せる。6つの田んぼに田植えをするため、2台の軽トラをフル稼働させ、「田んぼで田植え機に容器を渡す要員」と「ビニールハウスで軽トラに容器を移す要員」のシフトを組む。
【4】延々とこの作業を続け、すべての田んぼに苗を植える。今回は6つの田んぼだったため、180の容器に入った苗が必要。途中、苗が足りないことが明らかになったら、知り合いの農家へ行き、苗を売ってもらう。
このような手順で山崎家は6の田んぼに無事、田植えを終えることができました。いや~、私のような文筆業にとっては腰が痛くなるすさまじい重労働でした。私の田植え手伝いはこれで終わりですが、ここから除草剤の散布やら、雨が降らない時の給水、台風時の対策など色々あるわけで、収穫まで一切気が抜けない状況が続きます。このようにして全国の農家はコメを各家庭に届けているのです。
今回しみじみと実感したのは、農家は決して暴利をむさぼっていないということです。何しろ農家がJAに卸す金額は決まっており、暴利のむさぼりようがない。昨年から続くコメの高騰について山崎家の家長・Sさんはこう言いました。
「コメが高い、と文句を言う人が多いが、コメは値下がりしたままそれが続いていただけ。他の商品は軒並み値上げをしていたけど、コメは規定の価格があるから上がっていなかった。コメの価格が上がるのは普通のことです。私達はただ作るのみ。市場価格とは関係ないところにいた。むしろ、安過ぎる状況が続いていただけなんですよ。そして、これから下がるかもしれませんが、それは私達がコントロールできる話でもない」
全国のコメ農家は、後継ぎがいないため廃業する例が多いといいます。それは、コメ農家には多額の設備投資が必要で、キツイ割りにはあまり儲からないことの表れでしょう。私も今回半日手伝っただけですが、とにかく体がしんどかった。重労働過ぎるのです。苗の入った重い容器を軽トラに移し、それを田植え機に移す作業ですが、この晩は12時間寝てしまい、翌朝は足が筋肉痛になっていた。
ネットには「風物死」という不謹慎なスラングがあります。毎月何らかの理由で人が亡くなることを面白おかしく表現するものですが、夏の時期は「台風の時に田んぼを見に行って死んだ」というものが入ります。「なんで危険な時に見に行くんだよwwww」などと嘲笑の対象になりがちですが、コメ農家からすると、自身の収入のため、そして消費者のために様子を見に行く行動は必要なものです。何か手を打てないか、あるいは打たないでもいいのか、その判断をするための行動が「田んぼを見に行った」なのです。
色々なことは現場で体験しないと理解できません。コメの高騰について、私は農家を批判する気にはなれません。コメについては複雑な事情がありますよね。思い返すと、昭和の時代は、一部で「コメを食べるとバカになる」という説がまかり通り、学校給食でも炭水化物はパンと麺が中心でした。私が1980年から1984年まで通った川崎市立の小学校は一切コメなし。1984年から1986年まで通った立川市立の小学校では、1週間に1回だけでした。
家ではコメを食べているのになんで学校では食べられないの? と思ったのですが、コメは政治にも教育にも利用されるほど日本人にとって強固な存在なんだろう、と今回の田植えを通じて感じました。
【プロフィール】 中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。
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