( 288611 )  2025/05/05 06:26:47  
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※写真はイメージです - 写真=iStock.com/acilo 

 

物価が上昇する中、資産を増やすにはどうすればいいか。マーケットアナリストの田口れん太さんは「現金や銀行預金、国債はインフレにより目減りするリスクが高い。逆に、インフレに強い資産は株、不動産、金、仮想通貨の4つだ」という――。(第1回/全3回) 

 

 ※本稿は、田口れん太『投資の超プロが教える! カブ先生の「銘柄選び」の法則』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)の一部を再編集したものです。 

 

■物価が下がることが当たり前だった 

 

 日本で物価上昇率の低下傾向、いわゆるデフレが始まったのは1992年からです。 

 

 すでにデフレが始まって32年が経過しています。日本の32歳以下の人口は約3500万人ですので、日本の人口の3割は、生まれたときから「物価は下がることが当たり前」の環境で生活してきたことになります。 

 

 金融資産をある程度保有しているお金持ちにとっても、デフレが当たり前です。日本の現在の個人金融資産の総額は約2200兆円。図表1のとおり、1980年はわずか372兆円でした。その個人金融資産は、1990年には1980年の2.7倍の1000兆円に膨れ上がりました。その後2004年に1500兆円を突破し、2021年に2000兆円を突破しました。 

 

■多くの日本人がインフレに無防備 

 

 1975年に日本が参加する第1回の先進国首脳会議(サミット)が開かれました。1979年には日本を称賛する『ジャパンアズナンバーワン』という書籍が出版されています。日本は1970年代に経済的に成功し、その成功を金融資産として実感されるようになったのが1980年代です。日本人は1980年代に金持ちになったのです。 

 

 一方で、日本のデフレは1992年からです。日本人がお金持ちになってからのほとんどがデフレ期にあたります。1970年代のインフレ期には金融資産が少なく、金融資産が増えてからはデフレです。 

 

 32歳以下はデフレしか知らず、金融資産を保有している高年齢層もインフレ経験が少ない。つまり日本人はデフレがマインドセットされていて、インフレに無防備ということです。これは大変危険な状態です。 

 

 

■32年もデフレが続くのは異例中の異例 

 

 そもそもデフレは例外的な事象です。しかも多くのデフレは短期間で終わっています。30年もデフレが続いた事例は世界でも珍しい現象です。本来はインフレが当たり前で、デフレが例外です。 

 

 具体的に日本のデフレの事例を見てみましょう。明治以降の歴史を見ると、松方デフレは1881年から1892年までの12年間です。その後、第一次大戦後の不況と金本位制復帰によるデフレが1920年から1931年までの12年間です。第二次世界大戦後のドッジ・ラインによるデフレは、1949年から朝鮮戦争が始まる1950年までですので、わずか1年です。 

 

 明治時代が始まってから156年間のうち、今回を含めてデフレはわずか4回。1992年以前のデフレ期間を合計しても、25年しかありません。このことからも、本来、デフレは例外であり、インフレが当たり前だということがおわかりでしょう。 

 

 私たちは、非常に例外的な32年間を過ごしたがゆえに、デフレに過剰適応してしまっている可能性すらあります。 

 

 次に、世界のデフレを見てみましょう。イギリスは1873年から1896年までデフレを経験しています。それでも期間は24年です。アメリカでは1929年の暗黒の木曜日から始まった大恐慌がデフレ期です。それでも1933年から物価は上昇に転じているので、期間はわずかに4年です。 

 

 世界の歴史を見ても日本の32年デフレは珍しい現象で、デフレしか知らない3500万人とインフレ経験がほとんどない富裕層が大量に存在しているという、珍しい状況にあるのです。 

 

■新NISAが新たな格差を生む 

 

 これから所得格差と資産格差は大きく広がっていくでしょう。これは他の先進国がたどってきた道で、それを30年ぐらい遅れて日本が追いかけるイメージです。 

 

 たとえば終身雇用が終焉をむかえ、ジョブ型雇用が一般化していくと、能力差が給与格差という形で露骨に反映されることになるでしょう。解雇規制も緩和される可能性があります。会社の業績は良いけど、さらなる好業績を会社が求めて、「人事評価が下位10%の社員は自動的にクビ」などといった、プロ野球チームのような上場企業が誕生するかもしれません。 

 

 新NISAも格差要因です。新NISAを積極的にやる人と「政府の陰謀だ」などと妙な疑いをもって新NISAをやらない人との差も大きく広がっていくでしょう。そして、「インフレに備える人」と「そうでない人」のと差も広がっていくでしょう。 

 

 

■現金や預金は物価上昇に弱い 

 

 ここでは、インフレに強い資産と弱い資産について説明します。 

 

 インフレに弱い資産の典型は、現金です。現金を貸金庫に預けたらなおダメです(盗難被害を受けるかもしれません)。銀行の普通預金や定期預金もダメでしょう。国債や社債もかなり怪しい。 

 

 財務省は個人向け国債を「安心、元本割れなし」とアピールして販売しています。確かに元本割れはないでしょうが、特に満期が10年以上の長期債、超長期債については、インフレで目減りしてしまう可能性大です。これらの金融商品はどれも、インフレにより目減りするリスクが極めて高い商品なのです。 

 

 資産が目減りする感覚を理解していただくために、東京ディズニーランドの例で見てみましょう。東京ディズニーランドの1デーパスポートの料金は2019年には7500円でした。仮に銀行に1万円預金していたとします(あるいは1万円のタンス預金でも構いません)。2019年時点で、その1万円で1デーパスポートを買えば、2500円のお釣りです。 

 

 もしあなたが楽しみを将来にとっておくタイプだったとしましょう。ディズニーに行く機会を数年待っているうちに、2020年に8200円に値上げになりました。コロナ禍もあったので、さらに機会を慎重に窺っていたら、2023年からさらに値上げされ、繁忙期の1デーパスポートは10900円です。 

 

 お釣りどころか、1万円では入場すらできなくなってしまいました。こうして考えると、現金や銀行預金などの商品は物価上昇に極めて弱いことがわかるでしょう。 

 

■100年預けても「すずめの涙」 

 

 インフレが資産を目減りさせることを示す、もっと分かりやすい例があります。 

 

 新潟貯蓄銀行(新潟市、現第四銀行)は1915年に100年定期預金を募集しました。大正天皇の即位を記念したもので、1円を預けた人が多数いたようです(当時の1円は、現在の1万円程度の価値がありました)。 

 

 条件を見ますと、100年定期預金の利率は年6%の複利です。1円預けると、満期の2015年には339円になります。実際、2015年には預金証書を受け継いだ子孫から同行へ問い合わせが数件あったそうです。確かに預けた金額の339倍ですが、1円預けた程度では、受け取れる金額は「すずめの涙」です。牛丼1杯食べることもできません。これはインフレによる価値の目減りの典型例です。 

 

 令和となった今、現金、預金、国債を保有しているということは、1915年の100年定期預金と同様のリスクを負っているといえるでしょう。 

 

 

■インフレになると、株価も上がる 

 

 金利6%複利でもこんな状況ですが、現金に金利はつきません。現在、銀行の普通預金も定期預金も1%に満たない金利でしょう。2025年3月時点で募集中の国債の利回りは1%程度です。かたや、現在の日本の物価上昇率は2〜3%です。すでに目減りは始まっています。 

 

 このように今後、現金や預金、国債は、目減りリスクの高い商品だと思います。 

 

 インフレに強い資産は株、不動産、金、仮想通貨です。私はこの4つの資産を2つに分けて考えています。「①株と不動産」「②金と仮想通貨」です。 

 

 「①株と不動産」がインフレに強い理由は、価格転嫁できるからです。 

 

 株について見てみましょう。インフレで原材料費や人件費が上昇したときに、企業は製品価格を値上げすることが可能です。製品価格を値上げすると、売上が増え、利益が増えますので株価は上がります。 

 

 たとえば、2024年のアルゼンチン株式市場。24年10月現在、年初来で84%上昇して、世界で最も上昇率が高い株式市場です。前年水準と比較すると株価指数は約3倍になっています。高インフレで有名ですが(足元のインフレ率は前年比で2.3倍〔8月〕)、株式市場はそれ以上の上昇率となっています。 

 

 アルゼンチンのような極端な事例でも上記の価格転嫁が行われて、株価上昇につながっています。同様のことはハイパーインフレに見舞われたジンバブエでも起こっています。 

 

■コスト増をカバーできる不動産 

 

 不動産も株と同じように価格転嫁が可能な資産です。だから不動産もインフレに強い資産といえます。オフィスビルや賃貸住宅のオーナーはテナントや住宅の居住者の家賃を引き上げることが可能です。地価や光熱費や管理費の上昇に応じて、コスト増を利用者に転嫁できるのです。 

 

 株と不動産のどちらもインフレに強いのですが、これらにはもう1つの共通項があります。資産の評価方法であるバリュエーションが確立していることです。 

 

 株であれば、本書第2章で説明する4つの評価方法によって「高い安い」の判断がつきます。不動産も同様で、不動産なら年間の家賃収入を購入価格で割り算した「利回り」が一般的な評価方法で、利回りを使って「高い安い」の判断がつく点が特徴です。 

 

 

 
 

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