( 289391 )  2025/05/08 06:57:54  
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写真はイメージ(photo gettyimages) 

 

 新NISAの拡充策として浮上した「こども支援NISA」。若いうちから投資を始めれば長期積み立ての効用が大きくなる可能性がある。過去に不人気で廃止となった「ジュニアNISA」の教訓をいかした制度になるのか。 

 

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 4月下旬から、突如として取り沙汰されるようになったのがNISAのさらなる改正・拡充構想だ。岸田文雄前首相が会長として主導した自民党内の資産運用立国議員連盟が「資産運用立国2.0に向けた提言」を石破茂首相に提出したのがそのきっかけで、金融庁も検討を進めているという。高齢者向けの「プラチナNISA」に加え、もう一つの柱となっているのが「こども支援NISA」だ。 

 

 65歳以上のシニア層向けに創設を提言している「プラチナNISA」とは違い、「こども支援NISA」は現行制度の「つみたて投資枠」の利用対象者を未成年にも拡大するというものだ。18歳以上という制限を撤廃し、未成年者もNISA口座で積み立て投資を行えるようにする。 

 

 この構想について、NISA活用の第一人者であるファイナンシャルプランナーの菱田雅生さんは次のように評価する。 

 

「年齢制限の解除自体は望ましいことだと思います。未成年のうちから取り組めば、『長期、分散、積み立て』の効用がいっそう高まることが期待されます。たとえば5歳の頃から始めたら、50年間以上の長期投資を実践したとしても、まだ60歳に達しません。ただ、未成年はこうした膨大な時間を費やせるだけに、つみたて投資枠だけにとどまらず、成長投資枠でも年齢制限を撤廃しても差し支えがない気がします。こうしてあらゆる世代が長期の資産形成に取り組めば、資産運用立国の実現がさらに近づくことになるでしょう」 

 

■かつての「ジュニアNISA」とは何が違う? 

 

 もちろん、未成年者の大半はまだ社会に出て自ら収入を得ていない。「こども支援NISA」構想には、若年世代への資産移転(贈与)を促すという意図も秘められている。シニア層が保有している金融資産は日本の全家計の約6割を占めると言われており、その一部が「こども支援NISA」を通じて投資に回るだけでも、金融市場や日本経済全体にも少なからぬインパクトを及ぼしうる。 

 

 祖父母や親からの贈与を念頭に置いた未成年者向けの非課税枠付き投資と言えば、過去にも「ジュニアNISA」と呼ばれる制度が設けられたことがあった。2016年に創設されたもので、0~19歳を対象に年間80万円までの投資で得られた運用益が非課税になるという仕組みになっていた(当時は20歳未満が未成年)。だが、なかなか期待通りに口座数が拡大せず、新NISAの開始と同時に廃止となった。 

 

 

「口座数が伸び悩んだ一因は、原則として口座の名義人が18歳に達するまで換金が不可能だったことにあります。おそらく金融庁もその失敗を教訓にしているはずですから、再び未成年者にも門戸を開いた場合には『ジュニアNISA』のような換金に関する制限を設けないでしょう。その前提に立てば、利便性は高まりそうです。子ども名義で進学資金作りの運用を行う一方、親は自分たちの老後に備える運用をそれぞれ別々の非課税枠を通じて有利に進められます」(菱田さん) 

 

 周知の通り、ここ数年の物価上昇は家計に大きな打撃を与えている。預貯金の利息程度では実質的な価値の目減り(物価上昇に伴う現金価値の低下)を食い止められない。「子どもが生まれたら学資保険に入るのが正解」はもはや過去の成功体験であり、前年比プラス2~3%の水準に達している物価上昇には打ち勝てないのがシビアな現実だ。そういった観点からも、NISAにおける年齢制限の撤廃は大きな意味を持ってくる。 

 

■複雑な仕組みになりそうなら、声を大にブーイングを! 

 

 新たな非課税枠の設置をはじめ、今回のNISA改正・拡充構想はまだ全貌が明らかになっておらず、今後の議論の行方を注意深く見守りたいところだ。「プラチナNISA」において毎月分配型を選択肢に加える是非をはじめ、新たな非課税枠の設定や「こども支援NISA」の生涯投資可能枠拡大など、今後の議論で焦点となってくるテーマも多い。 

 

 複数の識者から意見を聞いたところ、現段階の構想に対しては否定的な見解が少なくないのも確かだ。しかしながら、画期的な制度改革だと称賛された新NISAも、当初に浮上していた見直し案は複雑な仕組みでわかりにくく、かなりの批判を浴びた。そういった声に耳を傾けて練り直し、大幅にブラッシュアップされて誕生したのが現行の制度なのだ。 

 

「制度はシンプルな仕組みで、多くの人にそのメリットや活用法を理解されやすいのが一番です。そういった意味でも、○△NISAなどといった名称の付随制度を創設するのではなく、現行のものを誰もが利用でき、より利便性が高くて有利な運用が可能となる方向へ見直していくのが最善でしょう」(同) 

 

(金融ジャーナリスト 大西洋平) 

 

大西洋平 

 

 

 
 

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