( 289636 )  2025/05/09 06:02:00  
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星野リゾートが弟子屈町に撤退方針のメールを送った約1週間後に行われたオンラインプレス発表会では、開業準備中の一覧に「2026 界テシカガ」と明記されていた(写真中央上部)。 

 

ゴールデンウィーク目前の4月下旬、「星野リゾート撤退」のニュースで騒然とした北海道・弟子屈(てしかが)町の川湯温泉地区再整備計画は、撤退を避けるための協議を継続していくことでひとまず落ち着いた。 

 

5月1日に開かれた星野リゾートと弟子屈町、環境省との話し合いの結果、3者は協議を継続していくことで合意した。 

 

「(撤退の)判断に至った経緯をご説明する中で、あらためて『世界水準のナショナルパーク』の実現に向けて3者が協力し、具体的な推進方法を協議していくことで合意しました」(星野リゾート広報) 

 

それにしても、突然降って湧いたようなこの撤退騒動はなぜ起こったのか。星野リゾートら関係者への取材から、「撤退メール」に至った経緯と理由が見えてきた。 

 

4月下旬、地元メディアが相次いで報じた中には、星野リゾートが突然、弟子屈町に一方的にメールを送り付けてきたという印象を与えるようなものもあった。 

 

しかし、実際には、そこに至る前に両者の間で数カ月にわたる話し合いが行われてきたという。 

 

「2024年秋ごろから、川湯広場の管理運営をどうするのかという話が(再整備計画に関する)協議会で話題に上っていました。その中で、川湯広場だけでなく再生まちづくり(再整備計画)全体の進め方について、星野リゾートから町に対して改善の提案があったんです」 

 

そう話すのは、環境省・釧路自然環境事務所が所管する阿寒摩周国立公園管理事務所の田中準所長だ。 

 

田中所長は環境省の代表として、町の関連協議会で星野リゾート、地元関係者らとともに再整備計画やそれに伴うまちづくりについて検討してきた当事者でもある。 

 

川湯温泉地区の再整備はそもそも、インバウンドや富裕層などの観光客誘致を狙って国立公園のブランディングを推進する環境省の「国立公園満喫プロジェクト」の一環として進んでいる。 

 

環境省と町は2019年から川湯温泉地区にある廃ホテル・旅館の解体撤去工事を実施。跡地を再整備するため、環境省は2022年に新たな宿泊施設の建設・運営者を公募し、星野リゾートが落札した。 

 

その後、2023年2月に環境省と弟子屈町と星野リゾートの3者が協定を締結し、協議会の場で議論を重ねてきた。 

 

一方、星野リゾートが町に提案した改善内容をめぐっては、同社と町が水面下で協議を続けていたという。 

 

「星野リゾートと弟子屈町は昨年末ごろから何度も協議を重ねていた。それでも意見の食い違いが埋められなかったようで、星野リゾートが撤退の方針をメールで送ったということだったんです」(田中所長) 

 

 

星野リゾートは今回のプロジェクトに関し、「環境省の『世界水準のナショナルパークを目指す』というビジョンに深く共感し、マスタープラン(阿寒摩周国立公園弟子屈町川湯温泉街まちづくりマスタープラン)推進に精一杯取り組んできた」(同社広報)と説明する。 

 

それも当然のことだろう。星野佳路代表は以前から、「自然観光」の重要性を繰り返し主張してきたからだ。 

 

大まかに言えば、国立公園をはじめ日本各地にある豊かな自然遺産を活かしていかなければ、インバウンドの増加によって加速している大都市集中型の観光を是正することも、国が当初目指していた「観光立国」による地方振興も実現できないというものだ。 

 

実際、同社は十和田八幡平と富士箱根伊豆の2つの国立公園内で運営するホテルをはじめ、全国各地で自然環境の保護と観光客の自然体験を両立させる「エコツーリズム」を推進。2025年4月には山岳観光のブランド「LUCY」を新たに立ち上げ、その第1弾のホテルを同年9月に尾瀬国立公園の玄関口・鳩待峠で開業すると発表したばかりだ。 

 

弟子屈町の再整備計画では、阿寒摩周国立公園内に同社の高級温泉旅館ブランド「界」シリーズの「界 テシカガ」の開業を目指している。オープン予定は2026年だ。 

 

ところが、開業予定が来年に迫っているにもかかわらず、建設予定地は更地のままで、まだ着工すらされていない。同社によると、当初予定より工期が約1年半後ろ倒しになっているという。 

 

「プロジェクト進行の遅れの主な要因は、弟子屈町エリア一帯の開発計画(マスタープラン)の策定段階で、『世界水準のナショナルパークを目指す』という目標に対し、町との間で認識のずれが生じたことにあります。 

 

『界 テシカガ』は、マスタープランに基づき進行する計画のため、マスタープランの遅延に伴って開業準備が遅れている状況です」(星野リゾート広報) 

 

星野リゾートによると、同社が弟子屈町にメールを送ったのは4月14日。 

 

「弟子屈町が考える進め方には課題の解決が難しい点があり、打開策を提案し続けていましたが、解決に向けた議論が進まなかったことから、苦渋の決断ではありましたが、やむを得ず撤退の意向を表明させていただいた次第です」(星野リゾート広報) 

 

ただ、弟子屈町からはその意向を受け入れるという返事がなかったため、撤退が決まったという認識ではなかったという。 

 

星野リゾートが提案し続けてきた打開策とは一体何だったのか。 

 

5月1日の3者協議後のぶら下がり会見で、星野リゾートは「外部の専門家の採用を提案してきたが受け入れられなかった」と説明したという。 

 

その真意について星野リゾートに確認すると、次のように説明した。 

 

「『世界水準のナショナルパークを目指す』という目標達成のためには、多様な分野の専門家の知見が不可欠です。ついては、プロジェクトの各段階において、これらの専門家を適宜招聘(しょうへい)し、意見を伺いながら進めていくべきだと考えています」(星野リゾート広報) 

 

湯田陽子[編集部] 

 

 

 
 

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