( 290106 )  2025/05/11 05:02:04  
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【池上解説】コメの値段がさがらないのは「ルール」のせいだった!? 

 

 私たちの生活に欠かせないお米。不足、と言われる状態は解消しているはずなのに相変わらず値段は高いままですよね。実はその裏にはある「ルール」が関係していると言われています。今回は実は知らない米にまつわるルールを解説してまいりましょう。 

 

なかなかお米の値段、下がりませんよね。スーパーに行くたびにびっくりしている方、多いのではないでしょうか。4月2週目の時点で比べると、去年の同時期のなんと倍以上の値段となっています。高いと思うわけです。 

 

今回のコメの値上がり、そもそも何がキッカケかは覚えていますか?そもそもは異常気象によるコメ不足です。一昨年2023年、猛暑の影響などで品質が低下し出荷量が減ってしまった。結果去年の夏ごろには品薄となってしまったわけです。それに追い打ちをかけたのが宮崎の地震でした。南海トラフ巨大地震に関しての臨時情報が出ました。ここで防災の備えとしてお米や水などを買いだめする人が増え、結果さらに不足したのです。 

 

ここまでは理屈としてわかります。でもその後新米が登場しても値段は下がりませんでした。むしろ上がる一方です。一体なぜでしょうか。実は知らない「ルール」の変更が影響しているんです。 

 

ここでお米の流通について、昭和の時代から振り返ってみましょう。 

今ではスーパーはもちろん、ネット販売や直接生産者から買ったり、と色々な方法があります。でも昔は違いました。覚えていらっしゃいますか? 

 

昭和の時代は、お米は米穀店、いわゆるお米屋さんでしか買うことができませんでした。昔はお米は国が流通をガッチリ管理していたんです。それができたのは「食糧管理制度」というルールがあったから。当時農家は自由にコメを売ることはできませんでした。国が買い取り価格を決め、すべて農協を通じて買い取っていたんです。農家からは高く買い、国民には米穀店を通じて安く売る、税金で差額を補ってまで、コメの価格を安く安定させていたんです。 

 

しかしその後コメの生産量が増える一方で国民のコメ離れが進み消費量は減っていくように。国の負担が大きくなり大赤字となっていきます。負担を減らすため、自主流通米として国を通さず売る制度もできました。しかし徐々に赤字に耐え切れなくなっていきます。 

 

そして1995年に食糧管理制度は廃止されます。その後も徐々に規制が緩められ、2004年からは米の流通が完全に自由化、誰でもコメの仕入れや販売ができるようになったのです。どこの店でもコメが買えるようになったのはこの頃からです。意外と最近ですよね。結果、農協を通すコメはどのくらいになったと思いますか? 

 

なんと農協を通じて出荷されるコメは全体の39%にまで減ったのです。これが今回の値上がりの原因の一つと言われているんですが、なぜかわかりますか? 

 

今回一昨年の猛暑がキッカケで不足が始まったお話は先ほどしました。その後何が起きたのか。流通過程での買いだめです。お得意さんに「お米ないの?」と言われないよう、色々な人がすこしずつ在庫を増やしていったんです。 

 

昔は農協から米屋さん、そして消費者とシンプルな流通でしたから、在庫を増やしてもさほどの量にはなりませんし、滞ることもありません。でも今は生産者から消費者にわたるまで様々なルートがあって様々な業者が入っています。 

 

それぞれがちょっと多めに在庫を抱えようとすると、ものすごい量になってしまいます。さらに流通ルートが複雑化しすぎて、どこが原因となっているのか、それを探すのに大変な時間がかかるようになったんです。その結果、今回のような値上がりを引き起こしたとみられているわけです。 

 

 

さらにそもそも最近はコメ不足が起きやすくなっている、と言われています。最近まで減反政策、お米を作る量を減らす政策を取っていたことはご存知でしょうか?米を作る農家に「お金を上げるから米を作らないでください」とやっていたわけです。こうしてコメの値段が下がりすぎないようにしてきたのです。つまり色々計算してギリギリの量しかお米を作らないようにしていたわけです。 

 

でも最近その計算があわなくなってきました。インバウンドの増加です。 

最近街でも外国人をよく見かけますよね。日本人だけ、と考えていた需給計画に見込み違いが生まれてきていると言われています。さらに外食産業でのコメの消費が増えていることも拍車をかけていると言われています。 

 

20年前に比べて外食・中食(持ち帰り)が倍以上になっています。家庭であれば、コメが高ければうどんにしよう、パスタにしよう、などほかの選択肢もありますが、 

飲食店だとそうもいきません。牛丼屋や和食店にお米は欠かせません。コメ不足によりなりやすい状態になってきているんですね。 

 

今年3月以降政府は3回にわたって備蓄米を放出しています。でもコメの値段は下がっていないですよね。これはなぜでしょうか。先ほどの不足原因と同じ、流通の問題ももちろんあります。地方の倉庫から運ぶため、輸送に時間がかかったりドライバーが足りなかったりするのです。結果、4月13日時点では小売店にほとんど届いていません。でもそれ以外にそもそも、という「ルール」の問題があるんです。 

 

備蓄米の放出には「入札」が行われるルールです。公共工事の入札といえば安い金額を提示した会社が落札となりますが、備蓄米の場合は高い金額を提示したところが「勝ち」です。それでは安くなりませんよね。そして入札に参加するための条件も大変厳しいものになっているので、大手しか参加できません。最初2回の入札では約9割が農協によって落札されています。その後卸会社同士で転売できるようになる、などいくつかのルールが変更されてきてはいますが、まだコメの値段が下がるだけの効果が出ていないのが実情です。 

 

でもここでギモンなのが、去年からコメは不足していたのに、なぜ備蓄米放出は最近まで行われなかったのでしょうか。ここにも「ルール」がありました。 

そもそも備蓄米とは大震災や深刻な不作など大きな問題が起きた時に対応するためのもの。今回は不足、とはいっても少量の不足から始まっています。そもそもコメの値段、流通は自由にしよう、と政府は手を引いてきたのに、値段が上がったからとすぐに手を出すのはちょっと、という思いもあったと言われています。でもあまりに値上がりが激しいためやっと放出に至った、というわけです。 

 

お米をめぐる政策は戦後から昭和を経て大きく変わってきました。でもその結果今回のようなコメの値上がりを招くこととなりました。果たして米をめぐる政策はこのままでいいのか、改めて見直す必要があるのではないか、一度考えてみる必要があるのかもしれません。 

 

(池上彰のニュースそうだったのか!!5月10日OAより) 

 

実は知らない身近なルールについてのもっと詳しい池上解説はTVerへ! 

 

テレビ朝日 

 

 

 
 

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