( 290121 )  2025/05/11 05:21:31  
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オープン当初のトリキバーガー大井町店(筆者撮影)  

 

 創業40周年を迎える鳥貴族ことエターナルホスピタリティグループ。外食不振のコロナ禍から業績も徐々に持ち直し、アメリカや韓国などの海外出店にも本腰を入れ始めている。最近では社長の大倉忠司氏と、その息子でありアイドルの大倉忠義氏との「禁じ手コラボ」で話題を集めるなど、華々しい展開に今後の躍進に期待がかかる。 

 

 ……と思いきや、2021年に大倉氏の肝いりで始まったチキンバーガーの新業態「TORIKI BURGER」(以下、トリキバーガー)が風前の灯火だ。 

 

 2021年8月に東京の大井町に1号店をオープンし、その後2022年3月に渋谷井の頭通り店を、2023年8月には京都に伏見稲荷OICYビレッジ店を出店するも、2023年11月には渋谷井の頭通り店は閉店。現存する店舗は2店舗だ。  

 

 当初は3年で10〜20店舗の直営店を展開したい考えだったが、4年が経った2025年現在、思うような展開ができていない。  

 

 売り上げについても1店舗につき年商2億円程度の目標を掲げていたものの、直近2024年7月期の業績では売上高は1億1200万円。現状は2店舗しかないことを考えると遠く及ばない。結果、1億9700万円の営業赤字を出している。 

 

■トリキバーガー専属子会社が消滅  

 

 そんな中、組織編制の変更が発表された。トリキバーガーの運営会社、TORIKI BURGERが鳥貴族西日本に組み込まれるということだ。  

 

【画像11枚】大きな話題となった「トリキバーガー」。すっかり名前を聞かなくなった現在のメニューや価格 

 

 今後、エターナルホスピタリティグループでは海外展開は各国の現地法人、国内の展開は東西に分かれて鳥貴族東日本と鳥貴族西日本、加えて「やきとり大吉」のダイキチシステムに分かれる。TORIKI BURGERはこの鳥貴族西日本に組み込まれるというのだ。専属の子会社がなくなり、トリキバーガー事業は縮小していくことを示唆しているのだろうか。 

 

 

 鳴り物入りでオープンした新業態が、どうしてこうなったのか。  

 

 筆者は久しぶりにトリキバーガーを訪れてみた。  

 

■メニューは縮小、季節メニューの投入も途絶える  

 

 以前、筆者はよく渋谷井の頭通り店を利用していた。チキンバーガーは手頃な価格でおいしいし、プリンやエッグタルトのスイーツも程よいサイズでお気に入りだった。  

 

 店内はWi-Fiと電源完備。なにより、人でごった返す渋谷の中心部でなぜかガラガラの店内は快適で「穴場」として重宝していた。なので閉店してしまったのだろうか……。 

 

 現在、都内で営業するトリキバーガーは1号店の大井町店のみ。筆者はオープン以来に行ったきりの同店に行ってみた。 

 

 メニューを見ると、メインとなる商品はバーガー4品と「じゃがころチキン」なるジャガイモと鶏肉の品のみ。以前と比べて品数が減っていた。 

 

 以前は白いバンズを使ったサラダチキンのバーガーや、コッペパンを使ったドッグメニュー、スイーツ系バーガー、お得なモーニングメニューもあったのに。頻繁に投入されていた季節メニューも最近は途絶えつつある。業績が芳しくないことがうかがえてしまう。 

 

 価格はバーガー単品が500円均一になっていた。以前は単品390円、ドリンクとポテトをセットにすると590円だった。 

 

 物価高の影響もあり値上げは致し方ないが、現在はドリンクやポテトのセットはプラス400円で、さらにデザートを付けたり、ドリンクをサイズアップする場合も考慮するとトータルの単価は1000円前後になる。 

 

 ちなみに京都の伏見稲荷OICYビレッジ店ではバーガーは700円。こちらは観光客も見込んでの値段設定だろう。 

 

 なお、筆者は「つくねチーズバーガー」とドリンクとポテトの「トリキセット」で、900円のお会計だった。 

 

■老若男女に国籍をも問わない幅広い客層  

 

 大井町店は1階に注文カウンターと厨房、2階が客席フロアになる。スタッフが常駐していない2階もすみずみまで清掃が行き届いており、現場の意識の高さを感じた。  

 

 筆者が伺ったのは休日の昼12時ごろ。客席は7割がた埋まっており、地域の人が中心か。街の憩いの場として愛されているように感じた。 

 

 

 印象的だったのが客層の幅広さだ。家族連れから女性グループ、若いカップル、高校生、パソコン作業する人、高齢者の集まりまで老若男女。さらにヒジャブ(髪を覆うバンダナのようなもの)をしていることからムスリム(イスラム教徒)と思われる女性もいてグローバルだ。 

 

 イスラム教は豚肉を食べられないが、チキンバーガーならOKということだろう(厳密に言えば鶏肉もハラル認証されたものでないといけないが、気にしない人もいる)。 

 

 このように幅広い層に受け入れられているのを見る限り、国内はもちろん海外含めあらゆる立地に展開できるポテンシャルはありそうなのだが。  

 

■トリキバーガーで鳥貴族一本足打法を脱却する予定だった  

 

 そもそも、なぜ鳥貴族がトリキバーガーを始めたのか。  

 

 チキンバーガーは、もともと大倉氏がコロナ禍以前から温めてきたアイデアだったという。鶏肉を得意としてきた同社のノウハウを生かし、鳥貴族とは別のもう一つの柱をつくるべく開発した。 

 

 鳥貴族一本足打法では、夜の居酒屋需要が激減したコロナ禍のような事態で甚大なダメージを喰らってしまう。チキンバーガーなら、非常時も居酒屋と比べて需要が落ちにくい食事業態。 

 

 さらに、テイクアウトやデリバリーにも向く。ムスリムがいたように鶏は宗教上の制限も少なく海外展開も狙える。そうした狙いで始まったものだった。  

 

 TORIKI BURGERの社長には日本マクドナルド出身の髙田哲也氏を起用。その知見を生かし、まさにマクドナルドのような、老若男女、グローバルに愛される業態をつくろうとしたのではないだろうか。 

 

■「あの鳥貴族のチキンバーガー!」が裏目に出たか  

 

 トリキバーガーが思うような展開ができていないのは何故か。筆者が思うに「鳥貴族ブランド」を打ち出し過ぎたことが裏目に出てしまったのではないだろうか。  

 

 ご存じの通り、鳥貴族は夜にお酒と焼鳥を楽しむ居酒屋だ。対してトリキバーガーは1日を通して利用できるファストフードの食事業態であり、利用シーンがまったく異なる。  

 

 しかし“トリキ”バーガーという名前からしてブランディングでは鳥貴族を全面に打ち出している。オープン当初あった「焼鳥バーガー」(現在はない)や、「つくねチーズバーガー」など焼鳥を想起させるメニューも多く、鳥貴族のおなじみマスコットキャラ「トリッキー」も店内の至る所に顔をのぞかせている。赤と黄色のカラーリングも鳥貴族そのものだ。 

 

 

 「あの鳥貴族が始めたチキンバーガー」という触れ込みが先行し、多くのお客は鳥貴族ブランドのイメージで来店してしまったのではないだろうか。  

 

 日常で使うファストフード業態として開発したものの、お客は「鳥貴族が始めたチキンバーガー」という物珍しさを楽しむイベント感覚で来店してしまう。イベントは一度体験したら満足なので、リピートにつながらない。  

 

 実際にオープン当初、トリキバーガーを「お酒に合う!」と紹介しているメディアや個人ブログ、SNSの投稿を少なからず見かけた。 

 

 しかし、トリキバーガーでは酒類を提供していない。テイクアウトして自前で酒を用意し、つまみとして楽しむのもアリといえばアリだが、あまり本筋ではない。紹介した側は、居酒屋である鳥貴族のイメージが強く刷り込まれてしまい、そのような感想が出てきてしまったのではないだろうか。ここに大きなブランディングミスがあった。  

 

 その真逆で成功したのがスシロー(FOOD & LIFE INNOVATIONS)が展開する、すし居酒屋「鮨 酒 肴 杉玉」だ。 

 

 同業態は2017年のスタート当初、完全に「スシロー」の名前を隠して展開していた。それ以前の開発段階から、社内でもその存在を知る人は限られていたという徹底ぶりだ。  

 

 確かに、スシローは回転ずし、一方の杉玉は酒とともにすしをつまむ居酒屋だ。利用用途は異なる。スシローのイメージで来店してしまうとそのギャップに戸惑う人もいるだろう。  

 

 杉玉はじわじわと出店を進め、今年4月にオープンした麻布十番店で100店舗を達成した。仮に最初からスシローの名前を大々的に打ち出していたらここまで広がっていなかったかもしれない。初動こそは「あのスシローの居酒屋?」と注目を集めるかもしれないが、その後のリピートはわからない。 

 

■他社も苦戦、チキンバーガー市場の難しさ  

 

 トリキバーガーが登場した同時期の2020〜2021年は大手外食企業がこぞってチキンバーガーを出店していた。  

 

 唐揚げバブルや韓国ブームと相まってチキンバーガーないしフライドチキン専門店が乱立し、あわやチキンバーガー戦国時代の幕開けか……と思われたものの、うまくいっている例は少ない。 

 

 「焼肉ライク」などのダイニングイノベーションの「DooWop(ドゥーワップ)」は短命に終わってしまったし、ロイヤルホールディングスの「Lucky Rocky Chicken(ラッキーロッキーチキン)」も一時は複数店舗あったが、現在は代々木八幡店の1店舗のみに。 

 

 

 
 

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