( 290161 )  2025/05/11 06:09:22  
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管理職になることが、ある意味で「罰ゲーム化」している日本社会の中で、さらに男女間でみていくと、結婚や出産などライフステージの変化が大きくある女性は特に影響を受けているという。 

 

組織・労働をテーマに調査や研究を行うパーソル総合研究所の小林祐児さんの著書『罰ゲーム化する管理職 バグだらけの職場の修正法』(集英社インターナショナル)から、なぜ女性からするとさらに罰ゲームなのか。そんな現状でもなぜ管理職のなり手が現状いるのか、を一部抜粋・再編集して紹介する。 

 

管理職は「特に誰にとって『罰ゲーム』に見えるのか?」という視点について、さらに解像度を上げてみると、「罰ゲーム化」のさらなる悪影響が見えてきます。 

 

会社のメンバー層の中で「罰ゲーム」の状況に最も影響を受けるのは、他でもない「女性」です。 

 

ここまで見てきた管理職の負荷をめぐる状況の多くは、性別に限らず一般的に起こっている現象です。しかし、それでもこの「罰ゲーム化」現象は、男性よりも女性の活躍をより阻むことになります。 

 

なぜでしょうか。 

 

86年の男女雇用機会均等法施行から40年近くが経過し、「女性活躍推進」の名のもとに、企業は自社の女性管理職の比率を上げるための施策を様々に実施してきました。今、注目が集まる人的資本開示の中でも、ジェンダー・ギャップの指標開示は大きなポイントの一つです。 

 

そこでも「女性管理職比率」は極めて重要な指標になっています。しかし、「罰ゲーム化」した管理職は、職場のジェンダー・ギャップ縮小の大きなハードルになってしまうのです。 

 

今、女性活躍を課題に掲げる企業に話を聞くと、企業は口をそろえて「女性に意欲が無いので困っている」と言います。 

 

管理職の女性比率は会社によって違いますが、パーソル総合研究所の「女性活躍推進に関する定量調査」でも、あらゆる段階の企業に共通して見られたのがこの男女の意欲格差の問題でした。 

 

企業の昇進レースから、女性の側から徐々に抜けていき、いざ数少ない女性候補者を登用しようとしても、本人から断られてしまって打つ手なし…。 

 

日本企業の女性活躍は、このようにして行き詰まります。 

 

しかし、これを意欲の低い女性のせいにするのは、まったくもって論理の倒錯です。 

 

今の管理職は、女性にとって「意欲を必要としすぎる」ものになっている。そのことを直視する必要があります。 

 

 

この問題を、もう少しデータを見ながら考えてみましょう。 

 

日本は、男女の家庭内役割規範がいまだにとても強い国です。その影響で、「結婚」「出産」というライフイベントを機に、男女の就業意識がそれぞれ全く別のものになることがわかっています。 

 

例えば、ライフステージごとの就業意識のデータで男女のギャップを見れば、育児期間における「給与」と「勤務時間」の重視度で男女差が最も大きくなります。 

 

未婚の期間は、男女の働く意識はあまり変わりませんが、結婚後には男性は「お金」重視に、女性は「時間」と「休み」重視へと大きくシフト・チェンジするのです。 

 

男性の立場から見てみましょう。若い頃は「出世なんて興味ないよ」と冷めた目で昇進レースを眺めていても、結婚した男性は、この管理職という「罰ゲーム」に乗り出し、戦う「覚悟」を決めていきます。 

 

「結婚」というライフイベントをきっかけとして、家庭の領域は「守るべきもの」になり、「家計の大黒柱にならなければならない」という意識が強くなります。 

 

実際、データを見ても、既婚後の管理職意向は上がり、女性との格差が開きます。また、社会学者の山田昌弘氏が指摘する通り、「仕事ができる」ということは男性にとって異性からモテるための一つの要素です(※1)。 

 

管理職の適齢期になってもなお昇進しないことは、男性としての異性からの魅力を減じてしまう可能性があります。一方、男性から見た女性の魅力度に、「仕事ができる」ということは想定的にはあまり関連しません。 

 

このようなプライベートな性愛意識を含んだ意識の違いによって、管理職意欲のジェンダー・ギャップが、結婚というライフイベントをきっかけに再生産されてしまうのです。 

 

負荷が上がりすぎた管理職ポジションは、女性にとって「罰ゲーム」を超えた「無理ゲー」になり、逆に男性にとっては「覚悟を決めて挑む」そう簡単には「降りられないもの」となっていきます。 

 

こうして、管理職への男女の意欲の差は入社後に徐々に大きくなっていきます。「女性に意欲が無い」問題の背景には、このような意欲差を生んでしまう構造が厳然と存在しているのです。 

 

 

女性は管理職になったあとも、女性ならではの苦労に苛まれることが多くあります。管理職と、家庭の家事育児の両立に苦労する声は圧倒的に女性から多く聞かれますし、社内でも女性のロールモデルがいないことでやりにくさを感じています。 

 

実際の声を紹介しましょう。 

 

「女性の管理職者がほとんどいなくて、周囲の目が気になっていた。特に男性社員から蔑視(比較)されることが多々あるため、仕事のやりにくさを感じる」(48歳、女性、卸・小売業) 

 

「女性として、家庭と仕事のバランスを保って維持するのが大変である」(41歳、女性、金融・保険業) 

 

逆説的に言えば、「罰ゲーム化」してもまだ管理職のなり手が現れてきているのは、日本社会に残っているこうした大きなジェンダー・ギャップのおかげだ、という言い方もできます。 

 

つまり、性別役割分業意識を背景に、仕事を通じて女性にモテたり、妻子を経済的に支えようとする、マッチョで男性的な規範があることによって、たとえ管理職が「罰ゲーム化」しても、「大変だが、やってみよう」と覚悟を決めていく男性が現れてくれるからです。 

 

しかし、ここまで述べてきたように管理職が「徐々に大変になっているのに、報われない」ポストになっていることを考えれば、男性にいつまでも期待はできません。 

 

いまや「趣味のサーフィンのために海沿いに家を買うので、マネジャーにはなりません」「副業で稼いでいるので、会社で管理職なんて絶対にやらない」と言い切る男性が、続々と現れてきています。 

 

「男性なら会社での昇進を目指すのが当たり前」という意識も薄れていっています。 

 

これからより一層ジェンダー・ギャップが埋まり、「罰ゲーム」に「覚悟」を決める男性が少なくなっていくとき、管理職の次のなり手は現れるでしょうか。 

 

そのとき、会社は女性側に「覚悟」を求めるのでしょうか。 

 

小林祐児 

パーソル総合研究所主席研究員/執行役員 シンクタンク本部長。労働・組織・雇用に関する多様なテーマについて調査・研究を行っている。専門分野は人的資源管理論・理論社会学。 

 

(※1)山田昌弘、2016、『モテる構造-男と女の社会学』、筑摩書房 

 

小林祐児 

 

 

 
 

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