( 291291 )  2025/05/16 03:15:44  
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徐浩予氏 

 

 5月上旬のとある日、東海道新幹線の熱海駅前に、待ち合わせていた男性がやって来た。乗ってきた高級車には大きく自分の公式サイトのURLが書いてある。 

 

「初めまして! 徐(じょ)です」 

 

 来年9月に実施予定の熱海市長選への出馬を表明している徐浩予(こうよ)氏(32)だ。中国出身で、10年前に来日。一昨年12月に市長選に出ることを宣言したが、目下、保守系の団体などが反発して騒ぎになっている。徐氏がSNSで〈靖国神社は閉店すべきだと思います〉などと発信したからだ。それにしても、なぜ熱海に住み、市長になりたいのだろうか。 

 

「私は内モンゴル自治区出身です。子供の頃から川端康成の『伊豆の踊子』や夏目漱石を愛読していて日本文化が好きでした。また、日本のアニメや漫画も身近で、親しみがあった」 

 

 日本行きを決断したのは大学時代。 

 

「中国では学業と並行して金融の仕事をしていました。松下幸之助のような経営者になるのが夢だったのです。ところが仕事が行き詰まってしまい、それをきっかけに留学を決めました」 

 

 東京・高田馬場駅の近くにある日本語学校に入学するが、授業についてゆけずにリタイア。中国人観光客を相手にしたビジネスを始めたものの、そこへコロナ禍が襲う。鬱々(うつうつ)としていた徐氏が熱海を訪れたのは2021年のこと。『伊豆の踊子』の舞台からそれほど遠くない街をすっかり気に入り、民泊ビジネスの起業を決意する。 

 

「ところが引っ越して1週間後に、あの土石流災害が起き、民泊のために買った家も被災してしまいました。でも、土石流が襲ってきたとき、たまたま買い物に出かけていて難を逃れた。私は運が良かったのです」 

 

 避難所生活を余儀なくされた徐氏は、地元の老人会や市議らと交流するうち問題意識を抱くようになる。 

 

「熱海は駅前こそにぎわっています。でも、観光以外の産業はなく、ホテルの従業員も多くが市外に住んでいる。少子高齢化のスピードは他より速い。市長になったら市立大学の新設などで、若者や高度人材を呼び込みたいのです」 

 

 

 心意気は分からなくもないが、地方選挙に出馬するのに、わざわざ靖国神社の批判をSNSで書く?  

 

「確かに票を減らしてしまいかねない主張でした。でも、思ったことは黙ってられないのが私の性格です」 

 

 そんな徐氏の帰化申請を保守系政治団体は不許可にするように求めている。市長選は日本国籍を持っていることが前提のはずだ。 

 

「現在の私の身分について具体的なことは言えませんが、選挙に出ることは大丈夫。問題ありません!」 

 

 そう片言まじりで熱弁する徐氏。バイタリティーだけはひしひしと伝わってくるのであった。 

 

「週刊新潮」2025年5月15日号 掲載 

 

新潮社 

 

 

 
 

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