( 291751 )  2025/05/17 07:01:05  
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 トランプ米政権の関税措置を巡り、日本政府内で日本車メーカーが米国で生産する自動車を日本に逆輸入する案が浮上したと毎日新聞が報じた。またか……。1990年代、GM製シボレーキャバリエにトヨタバッジを付けて日本で販売したがさっぱり売れなかったという事実をトランプ大統領は知っているのか?では、はたして日本車の逆輸入車は、日本で売れるのか、自動車専門誌ならではの視点で考えていきたい。 

 

文:ベストカーWeb編集部/写真:ベストカーWeb編集部 

 

 「アメリカ車がほとんど日本で走っていない……」。石破総理は4月14日、衆議院・予算委員会に出席し、アメリカのトランプ大統領と電話会談した際、トランプ氏から不満の声があったとコメントした。 

 

 第一次トランプ政権の時にも、当時の安倍首相にも同じことを言ったそうだが、安倍首相はアメリカ車のボディサイズは日本の道路事情に合っていない、ドイツ車は右ハンドルを用意し日本の実情に合わせている、アメリカの自動車メーカーの努力が足りないと一蹴。 

 

 これを聞いてSNSでは「またか、日本市場の内情をわかっていないのは相変わらず」「右ハンドル化を含め日本市場で売る努力もしないくせに売れるわけがない」「サイズも排気量も大きく自動車税、重量税が高い」と辛辣な意見が寄せられている。 

 

 さらにトランプ米政権の関税措置を巡り、日本政府内で日本車メーカーが米国で生産する自動車を日本に逆輸入する案が浮上したと毎日新聞が報じた。 

 

 一般的に逆輸入車とは、日本国内で生産され、海外に輸出された後に再び日本に輸入されたものを指すが、海外で生産された日本車を、日本に輸入して販売する場合も逆輸入車として捉えられている。 

 

 前者の場合、日本で売りたければ、わざわざアメリカに輸出したものをまた輸入するのは、並行輸入車ならまだしも正規販売では二度手間になるので現実的ではない。ここでの逆輸入車はアメリカの工場で生産された日本車ということにしたい。 

 

 まずは、2024年1〜12月の輸入新車販売台数(JAIA)を見てほしい。アメリカ車はまったくといっていいほど日本市場で売れていないことがわかる。 

 

■2024年1〜12月の輸入新車販売台数(JAIA調べ) 

1位:メルセデスベンツ5万3195台(シェア16.58%) 

2位:ホンダ4万5107台(シェア14.06%) 

3位:BMW3万5340台(シェア10.99%) 

4位:VW2万2779台(シェア7.1%) 

5位:アウディ2万1415台(シェア6.68%) 

6位:BMWミニ1万7165台(シェア5.35%) 

7位:日産1万4354台(シェア4.47%) 

8位:トヨタ1万4213台(シェア4.43%) 

9位:ボルボ1万2331台(シェア3.84%) 

10位:マツダ9686台(シェア3.02%) 

11位:ジープ9633台(シェア3.00%) 

 

 アメリカ車は、ジープがようやく9633台で11位にランクイン。フランス車、イタリア車を抜いてランクインしているのは大健闘といっていいだろう。ちなみに他のアメリカ車勢はというと、587台でシボレーが28位(0.18%)、449台でキャデラックが35位(0.14%)と、トランプ大統領が嘆くのも仕方ない。 

 

 

 そもそも日米自動車摩擦はいまに始まったことではない。1970年代の石油危機の際にはすでに勃発、低燃費なホンダシビックなどが大人気となった結果ビッグスリーの業績は悪化。1980年には全米自動車労組(UAW)などが日本車の輸入制限を求めて米国際貿易委員会(ITC)に提訴しましたが、同年、日本の自動車生産は米国を抜いて世界一になっていた。 

 

 当時、日本政府と自動車業界は1981年、対米自動車輸出台数を制限する「自主規制」を導入することになり、自主規制は1993年度まで続いた。日本車メーカーは米国での現地生産を加速したが1990年前後には「米国で現地生産するクルマの米国製部品の調達量が少ない」と今回のようにイチャモンがつけられたのだった。 

 

 ブッシュ第41代大統領はビッグスリー首脳らと来日し、当時の宮沢喜一首相との首脳会談を経て、日本車メーカーによる米国製部品購入の「努力目標」が設けられることになった。 

 

 1995年にもクリントン政権の米通商代表部代表が、日本市場の閉鎖性を理由に「レクサス」など日本製高級車13車種の輸入に100%の関税を課すと発表。 

 

 これに対して、当時の日本政府は世界貿易機関(WTO)に提訴する形で応戦するも、トヨタは1996年1月、GM製シボレーキャバリエにトヨタバッジを付けてOEM供給する形で、いわば国家的な外圧により販売された。トヨタはしっかりとプロモーション活動を展開したが、さっぱり売れず、年間2万台の目標販売台数にはまったく届かないまま、予定していた5年間の販売期間を前倒しし、2000年4月に販売終了した。 

 

 このキャバリエのほかにも、1996年にMTでエアコンもオーディオなし、130万円からという(充実した装備のクルマは約180万円だが3AT)という低価格をウリにクライスラージャパンセールスがこの、クライスラーネオンを販売したことがあった。筆者は発売前から「こんな低品質じゃ日本人をバカにしていると思われる、売れるワケがない」と思っていた。 

 

 そしてGMが新たなブランドを立ち上げ、値引きを一切しないワンプライス販売をセールスポイントとしたサターン。約160万円からという低価格がウリだったがまったく売れずに撤退した。リテーラーというサターン独自のディーラーのコンセプトはよかったのだが時代が早すぎたのか……。 

 

 これらのクルマたちは、日本市場に果敢に挑んだのは評価したいが、日本に合うボディサイズのクルマで、価格を安くすれば売れるはず……というビッグスリーの考え方が安易すぎたといっていいだろう。 

 

 当時、この3車種はすべて試乗したことがあるが、特にクライスラーネオンは、安かろう悪かろうのオンパレードでダッシュボード下のバリが取れていなかったり、エアコンの効きがとんでもなく悪いなど、クオリティが低く、これでは売れるわけがないと思ったものだった。キャバリエにしてもあのサイズで2.4Lという余裕の排気量以外に特筆すべきものはなかった。安くて品質のいい日本車があるのに、買う理由がなかったのだ。 

 

 2000年以降、アメリカ車の販売は下降線を辿り、特にヤナセがGMの輸入権を返上してから加速し、2016年にはフォードが日本法人を撤退してからはひどい状況に。そして2017年にはクライスラーも日本市場から撤退、現在はジープ、シボレー、キャデラック、テスラの4ブランドのみだ。 

 

 とはいえ、アメリカ車がまったくダメダメというわけではない。1990年代に比べると、現在のアメ車はクオリティが格段にアップしているし、大排気量V8OHVといった時代から、ハイブリッド車やBEVを積極的にラインナップしているからだ。アメリカ車の特徴ともいえるデカいボディサイズも、日本車やドイツ車のSUVの全幅1850mmは昔ほど大きく感じなくなっている(ランクル300は全幅1980mm)。 

 

 フォードやクライスラーの日本復活はないだろうが、ステランティスジャパンは積極的にジープブランドを展開し、前述したように年間1万台弱を売り上げている。稼ぎ頭のラングラーを筆頭に、レネゲード、コンパス、コマンダー、グランドチェロキー、グラディエーターのほか、BEV&PHEVのアベンジャーやレネゲード4XE、ラングラー4XE、グランドチェロキー4XEなど豊富にラインナップ。特にラングラーは筆者も欲しいと思わせる唯一無二の魅力を兼ね備えていると思う。 

 

 GMは全車電動化に向けて「アルティウム」EVバッテリープラットフォームを開発し、EVラインアップを拡充。キャデラックに関してはドイツ車に匹敵するほどの「ハンドリング」を持っているし、質感や作りに関して遜色がない。キャデラックの試乗車に乗る度にいいクルマだなと感じ、日本人は「喰わず嫌い」なのかもしれないと思ったりもする。 

 

 GMジャパンは、日本市場において2026年末までにBEV3車種を投入する計画を立てており、その第一弾として2025年3月からミドルサイズSUVのリリック、2026年にはコンパクトSUVのオプティック、3列シートSUVのヴィスティックを発売する。GMの本気が感じられる全車右ハンドル、そしてCHAdeMO(チャデモ)規格の急速充電器にも対応するというから見ものである。 

 

 

 1990年代から30年経った今、日本で売れるアメリカ車はなにか?ぶっちゃけ、日本人がアメリカ車に求めるものは、ボディの小ささや燃費のよさではないのだ。しかも低燃費、安全装備、クオリティ、価格……、はっきりいって日本車に勝てるはずがない。 

 

 ここで、並行輸入車も含め、過去日本で売れたアメリカ車(フォードの欧州生産車を除く)を見ていきたい。ジープはラングラー、チェロキー&グランドチェロキー。フォードは、エクスプローラー、マスタング、シボレーはアストロ、タホ、ブレイザー、カマロ、コルベット、キャデラックSLS&STS、エスカレード、クライスラーはボイジャー、PTクルーザー、ダッジデュランゴ、チャレンジャーなど。これらのアメリカ車に共通するのは、「アメ車らしさ」なのである。 

 

 ちなみに筆者が今一番欲しいと思っているアメリカ車は、フォードブロンコ。1966〜1977年の初代アーリーブロンコを復活させたデザインで、2.3L直4のエコブーストターボ(275HP&420Nm)と2.7LV6ターボ(310ps/420Nm)に7速MTと10速ATを組み合わせる。アメリカでは爆発的に大ヒットし、中古車はプレミアム価格で売られているほどだ。日本では並行輸入によって700万円前後ほどから購入できる。ゲレンデヴァーゲン、ディフェンダー、ジープラングラーなどと並び、伝統と新しさを兼ね備えたレトロモダンなSUVである。 

 

 輸入車の販売上位を占めるメルセデスベンツやBMW、VWなどのドイツ車は、日本車を上回る質感の高さやガッチリとしたボディ剛性感、乗っていると羨ましいと思わせるブランド力など、売れている理由が理解できる、という日本人は多いだろう。特に、セダン市場は、レクサス、クラウンといえどもメルセデスベンツやBMW、アウディといった欧州勢に苦戦を強いられている。 

 

 純粋なアメリカ車の販売は難しいのであれば、逆輸入車の日本車であれば売れるのではないかという政府の目測は正しいのだろうか?前項で紹介した、日本市場で失敗したアメリカ車ではなく、かつて日本でもアメリカ産の日本車が日本で販売されたことがあった。ここでは成功例の一部を紹介しよう。 

 

 国産メーカーの逆輸入車の第1号は、1988年4月に発売されたアコードクーペだった。ホンダのオハイオ工場で生産されたアコードクーペは、左ハンドルのまま日本に輸出された。 

 

 当時はバブル期で景気は非常によかったが、それでも一般的な日本人にとって、輸入車はまだ高嶺の花。だからこそ左ハンドルへの憧れは強かったし、国産メーカー車であっても、アメリカの香りのするアコードクーペは、「シブイ」「カッコいい」と、かなりの人気になったのだ。 

 

 アコードクーペはその後、1990年3月から2代目が、1994年2月からは3代目が逆輸入されたが、物珍しさや逆輸入車の特別感は徐々に薄れ、最終的には不況やクーペ人気の下降もあって、1997年をもって逆輸入終了となった。 

 

 その後も1991年からアコードワゴンもオハイオ工場製を日本に逆輸入し、日本ではわざわざ「アコードU.Sワゴン」という車名が付けられた。つまり、積極的に逆輸入車であることをアピールしており、アコードクーペに続いて、半輸入車テイストを狙ったクルマだった。初代アコードU.Sワゴンは、3年間で4万台近くが販売され、逆輸入車としては大ヒットとなった。 

 

 2代目アコードワゴンは「U.S」の名称こそ落とされたものの、相変わらずアメリカからの逆輸入が続けられ、これまたヒット。しかし3代目アコードワゴンは、ついに国内製に。当時はすでに日本国内ではワゴンブームもおおかた去り、オデッセイが大ヒットするなどミニバン時代が到来していたこともあって、販売は急減した。 

 

 その後は、東南アジアから逆輸入されるケースが増え、コルト、マーチ、キックス、ハイラックス、WR-V、トライトンがタイから、フロンクスがインド、オデッセイが中国から逆輸入されている。 

 

 さて、今回浮上した、日米貿易摩擦解消に有効だと浮上した日本車の北米現地生産車、いわゆる逆輸入車の日本での販売はうまくいくのか? 

 

 日本メーカーが米国で生産した右ハンドルの逆輸入車なら日本市場で安定した販売が見込めるとの期待があるため、逆輸入案が浮上したとみられるが、はたしてどんな逆輸入車が売れるのだろうか? 

 

 アメリカには非営利団体の消費者団体であるコンシューマーズユニオンがあるが、各社のモデルを満足度や安全性、故障率など、さまざまな切り口でランク付けしている。 

 

 そのなかから、コンシューマーレポートWeb版に掲載されている「2025年の注目車10選」を参考にしたい。ここでは2025年に高い評価を得るであろうクルマをカテゴリー別に10台挙げているのだが、なんと10カテゴリー中7カテゴリーで、日本車がもっとも注目すべきクルマにあげられているのだ。アメリカ車はたったの2カテゴリーである。トランプ大統領はなぜ日本でアメリカ車が売れないと嘆く前に、なぜアメリカで日本車が人気なのかをいま一度考えてほしいものだ。 

 

 特にBMWやポルシェというプレミアムブランドを押さえて首位に立ったスバルの躍進はお見事というしかない。ちなみに同ランキングでアメリカ車の最上位は、16位のクライスラーである。 

 

●小型車:日産セントラ 

●中型車:トヨタカムリ 

●小型SUV:スバルクロストレック 

●コンパクトSUV:スバルフォレスター 

●燃費のよいSUV:トヨタRAV4 PHEV 

●中型SUV:トヨタハイランダーハイブリッド 

●高級コンパクトSUV:レクサスNX350h/NX450h+ 

●高級ミッドサイズSUV:BMW X5/X5 PHEV 

●EV:テスラ モデルY 

●小型ピックアップ:フォード マーベリック/マーベリック ハイブリッド 

 

 この日本車のなかで、日本で売っていないクルマは、日産セントラ、トヨタハイランダーハイブリッドだけである。これを見て、みなさんはどう思いますか?このデータがすべてはないが、日本車がいかにアメリカ人に人気なのかわかるだろう。 

 

 

 ■日本で販売したら売れそうな北米生産の日本車の候補車 

●トヨタ:シエナ、4ランナー、カムリ、セントラ 

●日産:パスファインダー、ムラーノ、セントラ 

●スバル:アウトバック 

●マツダはCX-50 

 

 まずはトヨタ。どのモデルを入れれば日本で売れるのだろうか?現在、アメリカで販売されているが、日本で販売されていないトヨタ車は、ピックアップトラックのタコマ、タンドラ。SUVはハイランダー、グランドハイランダー、セコイア、4ランナー、セダンはカムリ(2023年末に国内向け生産終了)、ミニバンはシエナ。 

 

 このなかで日本導入すると売れそうなのは4ランナー(旧ハイラックスサーフ)や大型ミニバンのシエナ、そして2023年末に国内販売を終了したカムリの3車種だろう。 

 

 タイ工場で生産されているハイラックスは日本でもスマッシュヒットとなったが、現在は部品調達の関係などにより日本での販売を休止中。三菱トライトンも販売好調のことから、日本市場ではピックアップトラック市場が存在することを証明した。ハイラックスが販売休止中の今、ぜひ日本で売ってほしいクルマの筆頭はタコマやタンドラではなく、4ランナーではないだろうか。 

 

 4ランナーは、1984年からハイラックスサーフとして販売され、2009年の4代目まで日本で販売されていた。パワートレーンは、278ps/430Nmを発生する2.4L 直列4気筒ターボ i-FORCE(アイフォース)と、326ps/630Nmを発生する2.4L 直列4気筒ターボ i-FORCE MAXハイブリッドの2種類をラインナップする。 

 

 4ランナーはハイラックスして販売すれば人気が出るかもしれない。ただ、4ランナーは、日本の田原工場で生産され、北米に輸出する形をとるモデルのため、今回の日米貿易摩擦解消を解決するクルマになるのか……。 

 

 続いて日本で売れそうなクルマといえば、セダンのカムリと大型ミニバンのシエナかもしれない。カムリは2023年末に国内販売終了となったのが記憶に新しいが、2025年モデルの北米仕様のカムリを見ると、12.3インチの大型ディスプレイや第5世代の2.5Lハイブリッドシステムを搭載、ハンマーヘッドデザインもなかなかカッコいい。 

 

 大型ミニバンのシエナはトヨタ「シエナ(Sienna)」は、後席スライドドアを備えた7/8人乗りのミニバンだ。現行モデルは2020年10月に登場した4代目。ボディサイズは全長5169mm×全幅1994mm×全高1740mm、ホイールベース3061mmアルファードよりも、全高以外はひと回り以上大きなサイズだ。 

 

 シエナのインテリアは、3列シートで家族がゆったりと快適に過ごせる設計。2列目シートには「スーパーロングスライド・キャプテンシート」が装着され、ゆとりのあるスペースを確保されており、上級グレードには内蔵式の冷蔵庫が標準装備となっているほか、内蔵バキュームによって食べ物のくずやゴミなどを素早く掃除することもできる。 

 

 アルファード&ヴェルファイアの存在があるので売れるか心配なのと、この巨大なサイズ感、はたして日本人に受け入れられるのか……。 

 

 

 
 

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