( 291950 )  2025/05/18 05:57:28  
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コメの価格が2倍近くに跳ね上がっているが、消費者の購入意欲も一因である。

政府の備蓄米の放出効果は限定的だが、値下がりの兆しが見られた。

コメ高騰は南海トラフ地震をきっかけに始まり、放出された備蓄米でも価格が下がらず高止まりしている。

消費者は不満を抱えているが、解除要因に指摘されている。

コメ価格が下がらないことが消費者の購買意欲を高め、これから先も値上がりする恐れがあるとして買いだめする消費者が多い。

(要約)

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スーパーのコメ売り場(撮影 加藤裕則) 

 

 1年前に比べて2倍近くに価格が跳ね上がったコメ。実は高止まりの一因は消費者の旺盛な購入意欲にもあるようだ。政府の備蓄米の放出効果もなお限定的だが、気づかぬところで効果も出始めている。 

 

*  *  * 

 

 総じて物価の上昇傾向が続くが、その中で突出した値上がりを記録してきたのが米価だった。だが、農林水産省によれば全国のスーパーで4月28日~5月4日に販売されたコメの5キログラム当たりの平均価格はその前の週を下回り、18週間ぶりの値下がりを記録したという。 

 

 もっとも、値下がり幅はわずか19円にすぎなかったのも確かだ。ようやく頭打ちの兆しがうかがえるようになったとはいえ、依然として高止まりしているというのが私たち消費者の実感だろう。 

 

「令和の米騒動」とも呼ばれる今回のコメ高騰は、昨夏の南海トラフ巨大地震に関する臨時情報がその発端だった。地震発生に備える買いだめが勃発し、スーパーをはじめとする小売店の店頭からコメが消失。秋から2024年産米が出回るようになれば供給も安定化して価格も下がると言われたが、実際にはその後も高値が続き、今年3月半ばから国が備蓄米の放出を開始してもその効果はなかなか顕在化しなかった。 

 

 こうした状況に多くの消費者がヤキモキしていたわけだが、『日本のコメ問題』の著者で国内の農業問題に詳しい宇都宮大学農学部助教の小川真如さんは、備蓄米を放出しても高止まりしている要因についてこう指摘する。 

 

■政府が備蓄米を放出し続けても高止まりする理由 

 

「まず、放出前の時点から2024年産米がすでに高値で取引されていたことが挙げられます。加えて、もともと備蓄米の放出は流通対策として決まったことでしたが、次第に物価高騰対策として位置づけられるようになりました。こうして政策の目的が変更されているのに対し、手段の変更がされなかったため、効果が限定的になったのです」 

 

 当初における農水省のスタンスは、コメの円滑な流通に支障があると判断した場合に放出するというものだった。いつの間にか石破政権は高騰を抑えるための施策と捉えるようになったが、放出の具体策が流通対策として打ち出された当初案からすぐには見直されなかった。 

 

 

「今回の放出自体は、法改正なしで行えるということで内閣法制局からお墨付きをもらって実施したものです。しかし、法律の拡大解釈と言える内容であり、本来の備蓄米制度が想定していない供給となっているため、流通に時間を要していることも高止まりに結びついています」(小川さん) 

 

 そもそも備蓄米とは、主に政府が凶作時の供給不足に対応することを目的に確保されているものだ。1993年に発生した「平成の米騒動」(冷夏がもたらした大凶作)を教訓に定められた食糧法に基づき、10年に1度のレベルの不作に陥っても供給を安定させるため、100万トン程度を目安に備蓄している。 

 

■先高感でせっせと買いだめすると高止まりを助長? 

 

 一方で、私たち消費者もきちんと現実を直視できていない側面があるようだ。国の備蓄米放出がほとんど成果を上げていないと決めつけるのは、狭い視野による乱暴な判断であるとも言える。 

 

「スーパーなどの小売店で販売されているコメの値段ばかりに目を向ける風潮が強まっているため、どうしても高止まりしているように見えてしまいがちです。けれども、全体を見渡せば、米価は下がっていると私は考えています。備蓄米の放出先は小売店だけに限定されているわけではなく、中食・外食や学校給食向け、病院食向けなども対象になっているのです。備蓄米の流通によって中食・外食の価格が据え置かれていたとしても、消費者の多くはその効果を実感できていないでしょう」(同) 

 

 実は農水省が21万トンの備蓄米を放出すると発表した2月14日の時点で、小川さんはムラ(不公平感)のある値下がりを予想していたという。つまり、中食・外食向けのような業務用が値下がりする一方で、小売店の店頭価格にはさほど変化が見られないという構図だ。消費者にとっては、「備蓄米放出=小売価格が値下がりする」との期待が裏切られた格好になる。 

 

 小売価格がなかなか下がらないことは、むしろ消費者の購買意欲を高める方向に作用している側面もあるという。これから先も値上がりする恐れがあるなら、今のうちに買っておこうと考える消費者が多いのだ。 

 

 

「値段が高くても消費者が買っていることも、高止まりに結びついていると言えるでしょう。高騰しているにもかかわらず、足元の購入量は2024年の秋以降で過去最高水準に達しています」(同) 

 

 もしも、手元に2~3カ月は底を尽きることがない量のストックがあるなら、たとえ先行きに対して不安があっても、さらにコメを買い増すことはしばらく控えたほうが賢明かもしれない。コメを売る側としては、高値でも買ってくれる人が存在する限り、むやみに値下げを行うことはありえない。逆に消費者の間で買い控えの動きが顕在化してくれば、売る側の姿勢にも変化が生じる可能性がある。 

 

■繰り広げられるコメ争奪戦 

 

「売る側としてもコメの消費量が伸びるほど、先々でコメ不足に陥ることへの警戒から、安く大量に販売することを躊躇せざるをえない事情もあります」(同) 

 

  ただ、主食であるコメの価格は他の農産物とは違い、価格の決定方式が特殊で需要と供給のバランス関係が直ちに反映されにくいのも確かだ。スーパーなどの小売店における店頭価格は仕入れ値や需要に左右され、その点は他の農産物と変わらない。これに対し、小売店の仕入れ値(卸売価格)は、全国農業協同組合連合会(JA全農)を筆頭とするコメの集荷業者や卸売業者と生産者(コメ農家)との直接交渉による「相対取引」で決まる。 

 

 市場を通じて売り手と買い手がオープンなやりとりを行うケースとは異なり、個別交渉の「相対取引」ではどのような条件でやりとりが行われているのかが不透明なのである。さらにややこしいのは、コメの取引には他にも「概算金」と呼ばれるものが関わってくることだ。「概算金」とは、JA全農が収穫前の段階で農家に支払う一時金だ。その年におけるコメの生育状況や販売の見通しに基づいて取引価格を推定し、その金額で一時金を支払うという取り決めになっている。 

 

 国内で生産されたコメの多くはJA全農が集荷しており、これまで圧倒的なシェアを獲得してきた。ところが、「令和の米騒動」の前後からコメの集荷における勢力地図に大きな変化が生じ、そのことが価格高騰に拍車をかけているという。高値にため息をつく私たち消費者が知らない場所で、コメ争奪戦が繰り広げられている。 

 

大西洋平 

 

 

 
 

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