( 291972 ) 2025/05/18 06:18:56 0 00 シニア向けスマホに思わぬ落とし穴も(イメージ)
一般的なスマホと比べて、操作が単純でわかりやすいとされる「シニア向けスマホ」。“スマホデビュー”に最適かと思いきや、意外な落とし穴もあるという。スマホの専門家2人が事例をもとに解説する。
NTTドコモ・モバイル社会研究所の「一般向けモバイル動向調査」(2024年)によると、携帯電話所有者のうちスマホ利用者は全体の約97%。70代男性の92.9%がスマホを所有と回答した。
特にこの数年は、3G回線を用いた「ガラケー」サービスがau、ソフトバンクと相次いで終了したことで、スマホへの乗り換えを選ぶユーザーが急増している。
その際の選択肢の一つとなっているのが「シニア向けスマホ」だ。情報ネットワーク・情報セキュリティが専門で、スマホの活用術に詳しい岡嶋裕史・中央大学国際情報学部教授が言う。
「シニア向けスマホは2012年にNTTドコモから発売されて以降、各社が参入して累計数千万台が売れています。デザインや機能がシンプルなのが特徴。シニア層に多い『老眼で見えにくいから文字を大きく』『新しい機能はいらない。電話ができればいい』といった要望に応えており、ガラケーからの買い替え時の受け皿になっています」
一方で、岡嶋氏は購入者からの不満を耳にする機会も多いという。
「購入後に、『普通のスマホにすればよかった』とこぼす人が意外と多い。操作に困った時、子供や孫に解決法を質問しても、シニア向けスマホ独特の仕様に慣れておらず『わからない』と困惑されることが多いそうです」
岡嶋氏が言うように、シニア向けスマホの見逃されがちな落とし穴として存在するのが、「使い方を周囲に相談できない」こと。離れて暮らす80代の母親の相談に手を焼いたという50代男性が語る。
「母は数年前にガラケーからシニア向けスマホに乗り換え、LINEのメッセージのやりとりで友人たちと交流を楽しんでいた。ある時、『LINEの調子が悪い』と落ち込んだ様子で電話をしてきた。どういう状態かを聞くと、『LINE電話をかけても相手の声が聞こえない』と言う。私はiPhoneを使っているため、アプリのリロード(再読み込み)などを指示しようとしても、画面での表示などが違うから話が噛み合わない。
シニア向けスマホの再インストールなどの手順を調べたのですが、電話ではうまく伝わらず、結局、『駅前の携帯ショップで聞いて』と言うしかありませんでした」
一般的なスマホから機能が“引き算”されただけという印象を持ちがちだが、“別物”のように異なる点は少なくないという。『世界一簡単! 70歳からのスマホの使いこなし術』の著者でスマホ活用アドバイザーの増田由紀氏が言う。
「多くのシニア向けスマホでは、よく使われる機能だけがホーム画面に表示されているので、新たにアプリを追加してもホーム画面の特定の場所に入ってしまう。私の講習会でも基本アプリだけでなくフェイスブック、インスタグラムなど『SNSを楽しみたい』という年輩者が増えていますが、いざ始めようという時に、『ダウンロードしたアプリが探せない』と困る人が多い」
一般的なスマホであれば、ホーム画面をスワイプ(指を触れたまま、特定の方向に滑らせる操作)することでダウンロードしたアプリを探せる。それがシニア向けスマホでは「メニュー画面」を表示し、さらにそこから「追加したアプリ」の欄を表示しなければ確認できないことが多い。
最初の画面がシンプルに整理されていることは、“使いやすさ”につながる一方、追加した目当ての機能に辿り着くまでの手数がかかってしまうことがあるわけだ。シニア向けの利便性のための機能も、人によって“合う・合わない”があることは見逃せない。
「画面を軽くタップ(一瞬触れて離す)しただけでは反応せず、グイっと強く押し込まないとダメな機種もあります。これは、加齢により皮膚が乾燥しやすくなった人の指ではタップ操作やスワイプ操作で反応しにくいことがあることから考えられた仕様で、『指圧』で操作できるようにした“親切設計”。ただし、講習会では一部のユーザーから、『いちいち強く押すのが疲れる』『イライラする』といった声を聞きます」(同前)
また、文字が大きく表示される特徴についても、「大きいのはありがたいが行間が広すぎて文章は読みにくい」(60代男性)という声も聞こえてきた。
増田氏はシニア向けスマホの利点は認めつつ、違和感を覚えた人は「機種変更を検討してもいい」と語る。
「広く普及したことで、年齢にかかわらずスマホに慣れてきた方が多い印象です。そうなると、どのスマホが使いやすいかは本人次第。最初に手にするスマホは重要で、シニア向けでも一般のスマホでも慣れれば『それが当たり前』となります。操作方法を相談できる相手を身近で確保するためにも、まずは家族の誰かと同じ機種を選ぶことをおすすめしています」
生活に欠かせないアイテムである以上、「シニア向け」ではなく「自分向け」を見極めたい。
※週刊ポスト2025年5月23日号
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