( 292282 )  2025/05/20 03:46:22  
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リユースランドセルを背負ってみる=米倉昭仁撮影 

 

 5月にピークを迎える来年度入学向けのランドセル商戦。ランドセルの購入価格は年々高くなる一方で、リユース(再利用)のランドセルを求める保護者が増えてきている。 

 

*   *   * 

 

■リユース品の無償譲渡会 

 

「すごい! めちゃくちゃきれいなランドセルじゃないですか」 

 

 色とりどりのランドセルを前に、家族3人で会場を訪れていた30代の母親は感嘆の声を上げた。 

 

 4月末、神奈川県川崎市の介護施設で開かれたランドセルの譲渡会。 

 

 9個ほど並んだランドセルは、新品と見間違うほど状態がよいが、実はすべてリユース品だ。 

 

 母親はこう話す。 

 

「ランドセルは新品を買うと、とても高い。うちは祖父や祖母もランドセルを買ってくれる状況ではないので、助かります」 

 

 男の子は青いラインで縁どりされた黒のランドセルを選び、うれしそうに帰っていった。 

 

■中古でもきれいな品が多い 

 

 譲渡会を開いた学生服リユースショップ「さくらや」川崎店のオーナー・金川知美さんは、こう説明する。 

 

「最近はランドセルにカバーをつけて使うお子さんが多い。高学年になると、ランドセルではなく、リュックサックを使うお子さんもいる。なので、きれいな品が多いんですよ」 

 

 さくらやは学生服のリユースショップだが、ランドセルの譲渡活動を始めて12年になる。すべての店舗でランドセルの譲渡を行っているわけではないが、直近の6年間で全国で1022個のリユースランドセルを譲渡した。 

 

■今年度の平均購入価格は6万円 

 

 いま、ランドセルの中古市場が活気づいている。 

 

 ランドセルは高額だ。ランドセル工業会の調査によると、2025年度の新1年生のランドセルの平均購入価格は6万746円で、今年初めて6万円を超えた。6万5000円以上のランドセルを購入した人は全体の43.8%を占める。 

 

 だが、高額で購入したランドセルも小学校の6年間でおおむね「用済み」になる。 

 

 子どもが小学校を卒業した後、処分に困ったランドセルを製造会社やNPOなどが回収する仕組みは以前からあった。だが、そうして回収されたランドセルの多くは発展途上国に送られ、国内で流通することはほとんどなかった。 

 

 その状況が、いま、大きく変わりつつある。 

 

 

■天使のはね約7600円、ララちゃん7900円 

 

 中古ランドセルの最も大きな市場はフリマアプリだろう。 

 

 たとえば、「メルカリ」の昨年のリユースランドセルの取引数は5650件で、14年と比較して、約25倍に伸びている。 

 

 価格は、新品を店舗などで購入する場合と比べて数分の1。ブランド別で見ると、「天使のはね」(セイバン)は平均価格約7600円(新品・未使用品を含むすべての商品)。「ふわりぃ」(協和)は同約5800円。「ララちゃん」(羅羅屋)は同約7900円。「土屋鞄(かばん)」(土屋鞄製造所)は同約1万1900円。「フィットちゃん」(ハシモトBaggage)は同約9600円。 

 

 名古屋市のように、リサイクルセンターに持ち込まれたランドセルをメルカリで販売する自治体もある。こちらは1個500円程度と、かなり安価だ。 

 

「ブランド・コラボ・ランドセル」など、限定デザインの商品は「子どもがすぐに飽きてしまい、ほとんど使用せずに出品される」ことがある。そのため、質の高いものがかなりお手ごろな価格で購入できるという。 

 

■リユースする意識の広がり 

 

 10年ほど前は、メルカリで取引される品物は高級バッグのような資産価値のあるものが大半を占めていたという。しかし、次第に日常生活で使用する品物が増えてきた。ランドセルもその一つだという。 

 

 リユースランドセルの市場が大きく拡大している要因としては、もちろん新品の価格高騰が挙げられる。 

 

 だが、それに加えて、「リユースランドセルを使うことへの抵抗感が薄れている」こともある、とメルカリの担当者は分析する。 

 

 見栄を張らず、新品にこだわらない。リユース品を使うことは、限られた資源を大切にすることにもつながる。 

 

「特にミレニアル世代の保護者には、できるだけリユースしていこう、という意識の広がりを感じます」(メルカリの担当者) 

 

 確かに、冒頭の譲渡会を取材した際も、譲渡会を訪れた人々の間に「恥ずかしい」「みじめだ」といったネガティブな空気は微塵も感じなかった。子どもたちはうれしそうにランドセルを抱えていた。 

 

 

 それにしても、中古の学生服の買い取りと販売は「事業」なのに、なぜランドセルは無償譲渡にしたのか。さくらや創業者の馬場加奈子さんに話を聞いた。馬場さんは、「ランドセルの譲渡は、それを必要としている人に届ける『活動』」だと話す。 

 

■ランドセルは「必需品」ではないのに 

 

「実は、法令や規則でランドセルを使えと定められているわけではないんです。必要なものではないのに、高いお金を払う必要があるのか、ずっと疑問でした」 

 

 事業ではないため、基本的に広報活動は行っておらず、譲渡会を開催する店舗がSNSやブログで発信するスタイルだ。 

 

 中古ランドセルは、活動に賛同した人々から集めている。制服とは違い、買い取りは行わず、すべて無償だ。だが、不満が寄せられたこともない。 

 

「みなさん、私たちの活動を応援してくれていて、次々にランドセルが持ち込まれます。置く場所がなくなり、お断りする店舗も多いほどです」(馬場さん) 

 

■リユースのさまざまなニーズ 

 

 リユースランドセルには、「あと少しで卒業なのにランドセルが壊れてしまった」子どもたちのニーズもあるという。 

 

 記者の息子はあと3カ月で卒業というときにランドセルの底が抜けてしまった。当時は、「リユース」という選択肢を思いつかず、無理やり自分で修理したものの、見栄えが悪く、息子に泣かれてしまった苦い経験がある。 

 

 金川さんによると、リユースランドセルを選ぶ際のポイントは、ベルト類や側面についた「ナスカン」と呼ばれる金具に傷みや破損がないか、確認することだという。 

 

「中は多少汚れていても、気にされる方はほとんどいません。小学校に通うようになったら、保護者はランドセルの中なんて、まず見ませんから」 

 

 わが子のために、こだわり抜いた高価なランドセルを選ぶのもいいだろう。だが、善意で寄せられたであろうリユースランドセルにも、子どもの健やかな成長への願いが込められているのだ。 

 

(AERA編集部・米倉昭仁) 

 

米倉昭仁 

 

 

 
 

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