( 293002 ) 2025/05/22 06:10:43 0 00 5月16日より発売されたハッピーセットの特典「ちいかわ」のおもちゃ(画像:日本マクドナルド公式サイトより)
マクドナルドが5月16日から販売を開始した「ちいかわ」「マインクラフト ザ・ムービー」のおもちゃ付きハッピーセットが物議を醸している。
当初、22日まで販売予定だった「ちいかわ」は、わずか3日間で販売終了が発表されるという異例の事態となったのだ。
売れ行きがよいのは本来歓迎すべきことなのだが、不測の事態も起きた。メルカリなどのフリマサイトで、特典のおもちゃが相次いで出品されており、転売目的での買い占めが行われた疑惑が浮上している。
ハッピーセットのメニューらしき商品が大量廃棄されている写真もSNSで拡散されており、食品ロスの問題まで起こっている状況だ。
5月23日からは第2弾、30日には第3弾が販売開始する予定だが、マクドナルドは第3弾を実施しない可能性もあることを発表している。
■特典の争奪戦は“古くて新しい”問題
特典に人気が集中して品薄になってしまうというのは、過去にもいくつも事例がある。
1971年に発売された「仮面ライダースナック」は、特典のカードを集めるために、小学生が大量購入して、スナックが捨てられる事態が発生して問題になった。
1980年代に流行した「ビックリマンチョコ」では、特典シールだけ取ってチョコレート菓子を捨てるという子どもたちの行動が問題になった。
2010年代には、アイドルグループAKB48のCDを握手券や総選挙の投票券を付けて販売したが、ファンが1人で複数枚のCDを購入するという現象が起きた。この手法は「AKB商法」として批判を集め、券を抜いたCDが大量廃棄されたり、二次流通市場に流れたりする事態も起きた。
特典のほうが商品より価値を持ってしまうのは本末転倒ではあるのだが、消費市場が成熟した社会では、消費者はモノの機能的な価値よりも、付随的な価値やストーリー性で商品を購入するようになるのは、一般的な傾向だ。企業側も、後者を訴求するようなマーケティング活動を行うようになる。
企業としても、多少の弊害が想定されても、成功する可能性が高い企画をお蔵入りにすることは機会損失を招く。
このたびのハッピーセットで起きた事案は、「特典の転売」という新たな問題が加わっている。さらに、その事実がSNSを通じて拡散され、企業側が批判される事態も起きた。これは、フリマサイトやフリマアプリ、SNSが普及しているデジタル時代ならではの現象だ。
今回のような特典争奪戦は、古くて新しい問題と言えるだろう。
■想像以上に深刻な「特典争奪戦」の弊害
短期的には売り上げが伸びるかもしれないが、悪影響も出てきてしまう。具体的には、下記のようなことが起きている。
1. 店舗の混雑を招く 2. 買い占めが起きることで、既存顧客が商品を購入できなくなる 3. 食品ロスが起こる 4. レピュテーション(評判)リスクが顕在化する 反響が大きければ大きいほど、その反動で新たな問題が発生してしまう。ハッピーセットは子ども向けの商品だけに、大人の「転売ヤー」が買い占めて本来の顧客が購入できなくなってしまうのは本末転倒だ。
ハッピーセットを購入する顧客が殺到して、スタッフ側のオペレーションに影響が出たり、他の顧客の待ち時間が長くなったりするという問題も発生する。
新規顧客を獲得するよりも、既存顧客を維持するほうが、費用対効果が高いというのは、マーケティングの基本的なセオリーだ。特典目当ての「一見さん(いちげんさん)」への対応で、リピーターが不利益を被ってしまうことは、中長期的な企業の利益を損なうことにもつながりかねない。
食品ロスの問題も大きい。マクドナルド自身が廃棄しているわけではないのだが、大量廃棄の問題は、数多くの社会貢献事業を行っているマクドナルドとしては、悩ましい問題に違いない。
転売を行っている人はごく一部なのかもしれないが、SNSで食品が廃棄されている画像が拡散されたり、マクドナルドの対応が批判されたりする事態が起きると、企業のレピュテ―ション(評判)にも悪影響をおよぼしてしまう。
■マクドナルドに非はないが…
「需要を見越して供給ができなかったのか?」という疑問を抱かれる方も少なからずいるだろう。
筆者は広告会社でキャンペーンの企画に携わっていたことがあるが、事前に需要を予測するのはそう簡単ではない。万が一、供給過剰になってしまうと、食品ロスはなくとも、特典の在庫をどう処理するのかという問題が生じてしまう。
さらに、キャラクターの権利元との契約、生産ラインの制約もあるので、需要に合わせて生産することは意外に難しい。
今回がどうだったのかはわからないが、短い期間に限定して、3回に分けてキャンペーンを実施していることを考えると、さまざまな制約があったのではないか。
マクドナルドは、「1人4セットまで」と購入に制限を設けていたし、公式サイトなどでも「転売または再販売、その他営利を目的としたご購入はご遠慮ください」と呼び掛けていた。
需要が大きいこと、転売の可能性があるという点は、マクドナルドも事前に読めていたはずだ。ただ、ここまでの規模で転売が起き、問題視されることになるとは、さすがに予想外だったのではないだろうか。
同社としては、子どもたちに喜んでもらおうと思って企画したはずであるし、購入できた子どもたちは喜んでいるに違いないとも思う。
今回のケースは、あきらかに転売ヤー側に非がある。マクドナルドを批判するのは適切ではない。
ただし、上記のようなさまざまな問題が起きてしまった以上、マクドナルド側も何らかの対抗策を講じる必要がある。
■マクドナルドが取りうる「対策」
転売や食品廃棄の問題は、法律的にもグレーゾーンのようだし、法律で利用者の不適切な行動を抑制していくことは、実効性を考えても困難であるだろう。
フリマサイトやフリマアプリ側が転売防止の対策を取ることは重要ではあるものの、これまでもさまざまな転売防止対策が取られてきたが、イタチごっこになっている状況を考えると、プラットフォーム側で完全に防止できるかどうかはわからない。
転売ヤーはさほど儲かっていない――という報道もある。特典4種が揃ったセットの転売価格はさまざまだが、2500円程度で落札されているものが多かった。一方、ハッピーセットは最安で510円。アプリ利用料や送料を差し引くと、ほとんど利益は出ていないようだ。
これが事実だとすると、転売目的で購入して、食品を廃棄して特典だけ入手するやり方は費用対効果が悪く、文字通り「おいしくない」方法ということになる。
経済合理性という点から、今後は転売が抑制されていく可能性も高い。
マクドナルド側も、購入できる上限を4セットから1、あるいは2セットに制限する、あるいは対象者を子連れに限定するといった、比較的シンプルな対応を取ることで、十分な効果を上げる可能性もありそうだ。
筆者は飲食チェーン数社の株主で、店舗で株主優待券を利用することも多い。店舗によっては、スタッフが十分に対応できないことも多いのだが、マクドナルドの店舗は上手く対応してくれることが多い。
多数の店舗がある中、それぞれで適切な対応を取るには、オペレーション上の課題も大きいとは思うが、それが実現できれば、マクドナルドの評判を上げることができるのではないだろうか。
今回は反響が大きかっただけに反動も大きかったのだが、筆者としては、第3弾は中止せず、うまく対応して、反響を最大化しつつ反動を最小化して乗り切ってほしいと願っている。
西山 守 : マーケティングコンサルタント、桜美林大学ビジネスマネジメント学群准教授
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