( 293812 )  2025/05/25 05:37:48  
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トランプ米大統領の公式写真 

 

トランプ米大統領が23日、日本製鉄による米鉄鋼大手USスチールの買収計画を承認する意向を明らかにした。大統領選などに影響力を持つ全米鉄鋼労働組合(USW)の計画への反対で政治的な壁に阻まれていたが、トランプ氏の審判のてんびんは、米国に巨額投資と雇用をもたらす日鉄の提案の実利に傾いた。 

 

「これ以上に米国の鉄鋼業を強くする道があるとは思えない」 

 

計画の発表から約1年半。この間、日鉄の橋本英二会長はこう述べ、一貫して計画が経済的にも安全保障上も米国にとって最良の選択肢だと主張してきた。国家安保を理由にバイデン前政権が計画阻止を決定した際も、決定の無効を求めて訴訟まで起こした。 

 

トランプ氏は、大統領就任前には労組票を意識して「私なら即座に阻止する。絶対にだ」と計画に反対していた。だが、就任後の4月、一転して対米外国投資委員会(CFIUS)に安保上の審査のやり直しを命じて、流れが変わった。 

 

日鉄にとって焦点は、USスチールを完全に傘下に収める100%買収を勝ち取れるか否かだった。トランプ氏は日鉄の計画を「投資」と呼び出資を評価する一方、米国の製造業を代表する象徴的な企業であるUSスチールは「日本に渡ってほしくない」とも発言し、完全買収には否定的な姿勢を見せていたからだ。 

 

再審査に入っても、日鉄の今井正社長は「出資するからにはリターンがなければならない」として、投資効果を最大限に得られる完全買収を目指す姿勢を変えていない。米政府が正式に承認する計画は明らかになっていないが、日鉄はトランプ氏の決断を歓迎しており、同社の方針が認められる方向とみられる。 

 

トランプ氏が日鉄に歩み寄った背景には、計画を阻止すれば、トランプ氏が掲げる「米製造業の復権」に逆行する現実があった。 

 

トランプ政権は、高関税政策で国内の鉄鋼業界を保護している。 

 

しかし、USスチールの2025年1~3月期決算は2四半期連続の赤字。日鉄に対抗し、USスチール買収に名乗りを上げていた米鉄鋼大手クリーブランド・クリフスも今月、業績低迷で生産設備の休止などの合理化を公表し、「関税だけでは、強い米製造業の復権は難しい」(今井氏)ことが露呈している。 

 

そもそも、緊密な同盟国の日本の企業による買収に安保上のリスクはないと言っていい。日鉄が完全買収にこだわるのも、生産性が高く高品質の鉄鋼を製造できる特許技術などを移転して、USスチールの競争力を抜本的に強化するのが目的だ。日本が技術力で米製造業の復権を後押しする日米鉄鋼連合の実現に本来、トランプ氏が反対する合理的な理由は見当たらない。 

 

 

唯一の懸念は、計画を承認することへの世論の反応など政治的なリスクだったが、日鉄は、米政府との交渉で新たに140億ドル(約2兆円)の投資を提案したとされる。高関税政策の限界を隠し、むしろ巨額投資と雇用創出を呼び込んだと支持者にアピールできるカードを得たことで、トランプ氏には計画の承認が政治的にもメリットがあるとの計算が働いたとみられる。 

 

日鉄は、米政府が承認する内容を見極める必要があるが、念願の買収が実現へ前進することは確かだ。(池田昇) 

 

 

 
 

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