( 293962 )  2025/05/26 03:15:43  
00

川口市役所 Photo:SANKEI 

 

 近年、埼玉県南部の川口市、蕨市では、在留するクルド人による迷惑行為が問題となっている。頻発する事件や事故に対し、市民は怒りと恐怖を募らせ、市役所には苦情の電話が殺到。市議会もクルド人対策に本腰を入れて取り組もうとはしているが、まだまだ解決の糸口は見えない。「多文化共生」の厳しさについて、実際の事件例とともに考えていこう。※本稿は、三好範英『移民リスク』(新潮新書)の一部を抜粋・編集したものです。 

 

● 「クルド人は帰れ」苦情が噴出 “肩身の狭い思い”をするのは誰? 

 

 2023年1月27日、川口市役所の担当者に、クルド人問題について話を聞いた。市民の苦情が多くなったのは、2年ほど前からだという。 

 

 「ケバブ屋の前でクルド人の解体業者のトラックが長時間止まって、運転手が店の中でケバブを食べている。夜、公園にクルド人が集まっていると、日本人にすれば、ガタイがいい兄ちゃんがたむろっているだけで怖い。税金を納めている私たちがなぜ肩身の狭い思いをしなければならないのか、という感情が強くなっているのをひしひしと感じる」 

 

 「夜に若いクルド人が集まって騒いでいると、川口市はもともと職人の町だから『何とかしろ。クルド人は帰れ。市は何をやっている』ときつい電話が来る。警察にはもっと苦情が寄せられていると思う。クルド人が運転する暴走車が危険だというので、さいたま市に引っ越した会社社長もいる」 

 

 同年3月2日、川口市の市会議員にも話を聞いた。 

 

 「狭い道を暴走族のような車で走る。前川の商店街で車の事故があり、運転者はサーッと逃げた。警察が来て、当事者と思われるクルド人に話を聞くと20人位集まってきた。何かというと集団で行動するところが怖い」 

 

 「クルド人のやっているバーが窓を開けるので騒音がひどい。子供は小学校は行くのだが、中学校から行かなくなって(無免許で)車を運転するようになる。東北道で車がひっくり返ったが、運転していたのは地元では札付きのワルのクルド人中学生だった」 

 

 「解体現場で仮放免者(編集部注:収容令書又は退去強制令書により収容されていたが、請求又は職権により一時的にその収容を停止し、身体の拘束を解かれた外国人)が働いているから、価格がダンピングされている。 

 

 クルド人の間でも経営している者と、使われている者との間で格差ができている。クルド人同士の小競り合いは1カ月に1回はあって、近所の人が心配して連絡をくれる。警察にもっと介入してほしい」 

 

 「JR蕨駅前など、暗くなってから1人歩きしないように女性は気を付けてもらわないと。女性に対する性犯罪未遂みたいなことが頻繁にある。親切を装って雨の日にカサに一緒に入らない?とか言いながら、一見、優しくみえる」 

 

● “外国人取り締まり強化”を 川口市議会が正式決議した理由 

 

 自民党川口市議団は、2023年6月の川口市議会に「一部外国人による犯罪の取り締まり強化を求める意見書」を提出、29日に賛成35、反対7で採択された。 

 

 名指しはしていないが、クルド人による迷惑行為を念頭に置いていることは明らかで、「警察官の増員、一部外国人の犯罪の取り締まり強化」を、衆参両院議長、総理大臣、国家公安委員会委員長、埼玉県知事、埼玉県警本部長あてに求めている。 

 

 共産党、川口新風会(立憲民主党、れいわ新選組)は会派としては反対したが、れいわ新選組の所属議員1人は賛成した。 

 

 

 意見書は「一部の外国人は生活圏内である資材置き場周辺や住宅密集地域などで暴走行為、煽り運転を繰り返し、人身、物損事故を多く発生させ、被害者が保険で対応するという声がある」「現在、地域住民の生活は恐怖のレベルに達しており(中略)その他多くの善良な外国人に対しても差別と偏見を助長することになって」いると訴えている。 

 

 なぜ、この時期に決議が採択されたのか、ある市会議員は説明する。 

 

 「ほかの市会議員も、無保険で運転するクルド人の車に事故を起こされたなど、市民からたくさんの相談を受けていた。そろそろ皆、きれいごとだけではやっていられない、という感じになっていた」 

 

● クルド人100人が殺到 機動隊も出動する騒ぎに 

 

 状況の悪化は看過できないとの意識が高まっていたところに、偶然ではあるが、地域を揺るがす事件が起こった。 

 

 意見書採択から5日後の7月4日、川口市中央部の西新井宿にある「川口市立医療センター」前に、クルド人100人ほどが集まって、機動隊も出動する騒ぎとなり、救急搬送の受け入れが5時間半停止したのである。 

 

 同日夜、トルコ国籍の男性が複数のトルコ国籍の男から刃物で切り付けられた。被害者が搬送された医療センターに双方の親族や仲間が押し掛け、救急外来の扉を開けようとしたり、大声を上げたりした。 

 

 現場は翌日午前1時ころまで混乱し、4人が殺人未遂で、警察官、機動隊員への公務執行妨害容疑で2人が現行犯で逮捕された(2023年7月30日付産経新聞電子版)。 

 

 同センターには埼玉県南部を担当する3次救急医療施設「救命救急センター」が併設されており、重篤な患者を24時間受け入れている。対象になる患者が受け入れ停止の時間にいなかったのは幸いだったが、地域の安全に深刻な影響を与えた事件だった。 

 

 この事件は傷害事件だけをとりあげても、刃物を恐らく常時携行しているという点で問題だが、とりわけ、多数が集まって一触即発の事態になるという展開の異様さは、クルド人に対するイメージ悪化の大きな節目となった。 

 

 在日外国人でも、例えば中国人、ベトナム人の場合、対立するグループがSNSで呼びかけて100人ほどが集合し、諍いになるといった事態はあまり考えられないだろう。 

 

 

● 14歳クルド人少年の 暴走が招いた“異常な連鎖” 

 

 続いて、クルド人問題の特異性を印象づけたのが、少年による次のような事件だった。 

 

 トルコ国籍の男子中学生(14歳)は7月12日、川口市内の商業施設で、大音量で音楽を流し、タバコを吸うなどの迷惑行為を繰り返し、60歳代の男性警備員から出入り禁止を告げられた。 

 

 それに憤慨し「外国人を差別するのか」「爆破してやる」と警備員を脅迫し、いったん立ち去った後に戻ってきて、出入り口付近で火をつけた煙幕花火を投げつけて業務を妨害した(2023年8月3日付埼玉新聞電子版)。 

 

 埼玉県警川口署は、この少年を脅迫と威力業務妨害容疑で逮捕した。地元関係者によると、この少年はクルド人で、少年鑑別所に送られたが少年院送りは免れた。ただ保護観察はついている、という。真偽のほどは確認していないが、そういううわさが流れるほど、地元ではよく知られた存在なのである。 

 

 一連の事件をきっかけに、川口市役所にはクルド人を批判する電話が殺到した。9月29日、市役所を訪ね、この問題の矢面に立っている職員に話を聞くとこんな状況だった。 

 

 「職員3人で対応しているが、7月4日以降、抗議の電話はこれまで全部で300本くらい。今日もさっきまで電話を取っていた。1回でだいたい1時間以上、2時間半話したこともあった。 

 

 多くが県外の人で市民は2割弱。SNSの情報にあおられている。大阪のおっちゃんが『日本人が誰もいなくなるぞ、殺されるぞ』とか。またヤクザと思しき人から『殺しに行くから団体名教えろ、100人位相手にしてやる』という物騒な電話もあった」 

 

● クルド人支援から送還へ… 川口市長が示した“共生の限界” 

 

 川口市の奥ノ木信夫市長は、市内の外国人問題に関して、これまで2回、法相に事態の改善を求める要望書を手渡している。 

 

 1回目、2020年12月23日の上川陽子法相あて要望書は2項目からなり、市内に住む仮放免クルド人が就労を認められず困窮しているとして、就労を可能とする制度の創設と、健康保険などの行政サービスを仮放免者に提供することの可否について国の判断を求めた。 

 

 

 2回目は2023年9月1日で、不法行為を行う外国人に対し強制送還など厳格に対処することなどを求める3項目からなる要望を斎藤健法相に行った。 

 

 川口市内のクルド人の犯罪、迷惑行為への批判が強くなってきたことを受けて、180度姿勢を転換したように見えるが、2回目の要望書の第2、第3項では、「仮放免者が、市中において最低限の生活維持ができるよう『監理措置』制度(編集部注:監理人による監理の下、逃亡等を防止しつつ、相当期間にわたり、社会内での生活を許容しながら、収容しないで退去強制手続を進める措置)と同様に、就労を可能とする制度を構築」することと、「生活維持が困難な仮放免者、および監理措置に付される者について、『入国管理』制度の一環として、健康保険やその他の行政サービスについて、国からの援助措置を含め、国の責任において適否を判断」することを求めている。 

 

 2回目の要望は、基本的に1回目の要望に「厳格な対処」を求める第1項を加えただけだった。しかも、要望書の原案ではこの第1項は第3項だった。 

 

 現状でそうした陳情を行えば世論の強い反発を招く、と関係者が市長に進言した結果、1週間前に順番を入れ替えたという。 

 

 川口市の仮放免者だけを特別扱いすることはできないし、もし全国的に仮放免者の就労を認めろという趣旨ならば、難民申請を繰り返すなどの手段で不法残留する外国人の増加の誘因になる。 

 

 2010年に正規在留者が難民申請した場合、申請6カ月後の就労を一律に認めたことが、申請者の急増につながった前例もある。 

 

 奥ノ木市長の多文化共生への甘い見通しも事態を悪化させている一因ではないか。 

 

三好範英 

 

 

 
 

IMAGE