( 293972 )  2025/05/26 03:28:05  
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日テレNEWS NNN 

 

IQ(知能指数)が平均的な人と知的障害と推定される人の狭間に位置する“境界知能”。先のことを考えるのが苦手、という特性のある人もいます。千葉県内の少年刑務所「市原青年矯正センター」で、闇バイトに加担した境界知能の受刑者たちを取材しました。 

 

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千葉県にある少年刑務所「市原青年矯正センター」。特殊詐欺事件に関わり、逮捕された20代の男性に話を聞いた。後先を考えず、闇バイトに応募したという。 

 

──なぜ闇バイトだった? 

 

受刑者A 

「闇バイトしか分からなかったですね。稼げるものと言われても。(お金は)一発で一気に欲しいので」 

 

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指示役に言われるがまま、犯行に及んだという。 

 

受刑者A 

「新宿駅・池袋駅だったり、ターミナル駅を待機場所に指定されて(指示役から)『行け』と言われて。あとはまた連絡を待つ、待機ですね。案件が入ったら また連絡が来るんですよ。タクシーに乗って、指定された住所があって、そこに行って●●警察官を名乗って」 

 

指示役から、警察官を装うよう携帯電話で指示され、高齢者の自宅へ向かったと話す。 

 

「相手は60歳とか80歳とか、そのくらいでしたね。(被害者に)『(カードが)不正に利用されている』みたいなことを言って、(被害者は)『あ、そうですね』みたいな感じで」 

 

「(キャッシュカードを)預かってそのまますぐ退散というか 。1~2分ぐらいで終わっちゃうので。やりとりが」 

 

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目先の金しか考えず、犯行に及んだという。だまし取った金は総額900万円。うち1割を報酬として受け取ったと明かす。 

 

──お金を手にしたときの心境は? 

 

受刑者A 

「『おお』みたいな。こんなものか、という感じですね」 

 

罪を犯した受刑者Aは、IQが平均よりも低い“境界知能”だという。 

 

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知能検査で測定されたIQの割合を示したグラフ(監修=青山学院大学教育人間科学部の古荘純一教授)がある。 

 

85~115は平均的な人(約68%)で、70未満は知的障害と推定される人(約2%)。その狭間に位置するのが、境界知能だ。知的ボーダーとも呼ばれ、日本の人口の約14%、7人に1人が該当すると言われている。 

 

闇バイトに加担した、境界知能の受刑者たち。なぜ、犯罪に手を染めていったのか。 

 

 

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市原青年矯正センターは境界知能のほか、知的障害などがある若年受刑者に特化した全国初の少年刑務所だ。おおむね26歳未満で、刑期は5年以下。初犯や犯罪歴が少ない受刑者たちを収容している。 

 

この施設の特徴は、受刑者が出所した後の社会生活を見据えた環境にある。受刑者たちは、鍵のない個室で生活する。敷地内は、自由に行き来できるようになっている。 

 

また一般的な刑務所のような行進はなく、それぞれが自分のペースで行動。起床時間は自分で管理している。一般社会に近い環境にすることで、受刑者たちが出所後に自立し、生活していく力を養っていくことを目的としている。 

 

昼食は、音楽をかけた部屋でとる。2025年5月現在で33人が収容され、うち10人が境界知能の受刑者だ。 

 

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教育専門官 

「いつも通りはじめてください」 

 

取材した日に行われていたのは、算数の教科指導だった。出所後の生活を見据え、受刑者たちは小学校の科目を一から学び直している。 

 

体育を除き、勉強についていけなかったという境界知能の受刑者B。「F」の形をした図形の面積を求めようとするが、分からない。 

 

教育専門官 

「分かりにくい?」 

 

受刑者B 

「分からないです」 

 

教育専門官 

「考え方はいろいろあるけど」 

 

受刑者B 

「正方形からFを引こうと思ったんだけど…」 

 

教育専門官 

「F(の面積)を出さないといけないんだよね? この四角形、この四角形、この四角形、3つを足せば面積が求められる。こっちの方が簡単だと思う」 

 

受刑者B 

「ありがとうございます」 

 

面積の求め方を教えてもらう受刑者B。解答時間は、平均よりも倍近くかかってしまう。算数が苦手な境界知能の受刑者は、行動計画や将来設計を立てることも苦手な傾向にあるという。 

 

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自分を理解するためのプログラムも行われている。 

 

教育専門官 

「犯罪をしない生活とは?」 

 

受刑者B 

「犯罪をしないとか、人に迷惑をかけないとか。あとは社会のために役立つとか」 

 

教官の質問に答える受刑者B。すると受刑者Aも、この回答に合わせるかのように「全部言われちゃった」と話す。 

 

境界知能の受刑者の特性について専門家に聞いた。  

 

青山学院大学教育人間科学部の古荘純一教授 

「自己弁護できないから言われた通り、こう答えると自分に不利だということが分からない。例えば立場(が)上の人が言ったりすると、そのまま乗っかったりする」 

 

 

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この施設にいる受刑者の大半が、闇バイトの“受け子”や“出し子”に加担したという。闇バイトの受け子だった受刑者Bも、後先を考えず犯罪に手を染めた。 

 

受刑者B 

「仲が良かった友人から連絡があって、『今何している?』みたいな感じで。お互い『久しぶり』となって、そこから一緒にご飯を食べに行く関係に」 

 

友人から持ち掛けられたのは、闇バイトだった。 

 

──誘い文句は覚えている? 

 

受刑者B 

「その子が受け子をやっていたので、それやったら、それやったらというか、自分もやってみたいなという感じ。毎日仕事するのがアホらしくて、もっと楽に稼ぎたいのと、『お金がすべて』という考え方があったので」 

 

──そんなにお金が欲しかった? 

 

受刑者B 

「お金があったらなんでもできるし、なんでも遊び放題なので」 

 

闇バイトは楽して稼げる─。犯罪だと認識しながらも金もうけに目がくらんだ受刑者B。 

高齢者から現金200万円を受け取ったという。 

 

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──受け子をやったら逮捕されるという認識は? 

 

受刑者B 

「大丈夫だろう、捕まらないだろうという考えもありました」 

 

その後、詐欺事件で逮捕された。古荘教授は、境界知能と犯罪は直接結びつくものではないとした上で、こう語る。 

 

「2つとか3つのことを同時にやることが苦手。今やっていること(犯罪)を続けたらどういう結果が出てくるのか(予想することが)基本的に苦手な方が多いと思います」 

 

「一方で、だますことが得意な人がいて、そういう人(境界知能)たちから搾取(利用)しようという考えも出てきてしまう」 

 

犯罪に利用される危険性があると指摘する。 

 

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受刑者Aも後先を考えられず、目先の金しか考えられなかったという。闇バイトをした理由を聞いた。 

 

受刑者A 

「お金ですね。お金がすべてだという思考になっていて、やるしかないのかなと思ってやりました。やった後のことは考えてなかったですね。やっているときは、仕方がない、こっちもこっちでお金に困っているし。仕方ないなという気持ちでしたね」 

 

──相手の気持ちを考えなかった? 

 

受刑者A 

「はい」 

 

しかし犯行後、ようやく事の重大さに気がついたと話す。 

 

受刑者A 

「1件目は罪悪感がやばくて、自首した方がいいのではないかと迷ったんですけど、結局 (自首)しないでズルズル引きずって、どんどん(犯罪)件数を重ねるごとに、『どうでもいいべ』みたいな感じになっちゃいました」 

 

──最初から受け子や出し子をやりたかった? 

 

受刑者A 

「いや、そういうわけじゃないですけど。何も経験を積んでいないので、そういうものなのかなと思っていました」 

 

犯罪組織の末端として加担してしまった境界知能の受刑者たち。犯罪に関わらないためには、どのような対策が必要なのか。 

 

 

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施設では、受刑者の特性に応じたプログラムを実施している。取材した日は「特殊詐欺の再犯防止指導」が行われていた。 

 

教育専門官 

「今日のキーワードは被害弁償という内容について見ていきたいと思います。一人一人どういう意識を持っているのか、正直に素直な感想でいいのでここでシェアしていきたいなと思います」 

 

受刑者A 

「(被害者への弁償は)するべきなんじゃないですか」 

 

教育専門官 

「理由は?」 

 

受刑者A 

「理由としては、もし自分が被害者だったらと考えたら、もちろん『一括で弁償しろよ』と言いたいところですけど、1か月、少しでも返ってくればいいかな。返済していくべきなのかなと思います」 

 

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「被害者への弁償は必要だ」と話す受刑者A。しかしその方法について問われると…。 

 

「宝くじを爆買いしたので当たるんじゃないかと思ったので、当たっていたら被害弁償して執行猶予で出るつもりでいた。宝くじなんてワンチャン増えるかもしれないじゃないですか? それが一番手っ取り早いです。一括でいけるので」 

 

自分で稼いだ金ではく、「宝くじで当てた金を被害弁償にあてる」と話しだした。 

 

古荘教授 

「やはり確率とか数字の概念というのがないんでしょうね。これ(当選確率)は本当に奇跡的な数字だと、一般の方は簡単にいかないと分かるけど、境界知能の方の一部には身近にとらえるのかもしれないですね」 

 

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境界知能の彼らは、これまでに自分でも“生きづらさ”を感じることがあったという。 

 

教育専門官 

「自分がどういうところに悩んだり不安になりやすいのか?」 

 

受刑者A 

「仕事で理解力がなさ過ぎて、困っていました」 

 

教育専門官 

「理解力がなさ過ぎて?」 

 

受刑者A 

「はい」 

 

教育専門官 

「仕事が覚えられない?」 

 

受刑者A 

「はい」 

 

教育専門官 

「他のみんなは覚えているけど、自分は仕事をあまり覚えられないみたいな? 純粋に自分は覚えられない?」 

 

頷く受刑者Aに対し、教育専門官は「本音が出ていて、いい感じがする」と言いました。 

 

 

 
 

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