( 294147 ) 2025/05/26 06:48:57 0 00 「 クール・ブルー」を立ち上げた協栄電気工業の石本英成社長(中央)ら
ブルーカラーと呼ばれる仕事をかっこよく-。水道管の破裂などインフラ危機が全国で顕在化する中、広島の電気設備工事会社が今春、ある任意団体を設立した。その名も「クール・ブルー」。いわゆる「3K(きつい・汚い・危険)」のイメージを払拭すべく、SNS(交流サイト)で正しい理解に基づく情報を発信。業界を問わず多くの現場で深刻な人手不足の解消につなげる考えだ。
■人材確保難しく
会社は広島市東区の協栄電気工業。昭和44年の創業で、社員は46人。高速道路やトンネルなどの照明設備の施工やメンテナンスを主に手掛ける。
「ヘルメットをかぶって、腰道具を装着して仕事する職人の姿ってむちゃくちゃかっこいいと思うんです」
同社社長の石本英成さん(48)が目を輝かせる。自身も先代の父親の背中を見て育った。AI(人工知能)が台頭しても、専門技能や現場での即応が求められる仕事の重要性は変わらないと信じている。
もっとも、肉体労働を伴うブルーカラー職は若年層に敬遠されがち。保護者の意向も大きい。少子高齢化の影響もあり、高校生の採用が「超売り手市場」の現在、人材は思うように集まらない。
同社に限っても、3年前と一昨年は高卒の新規採用はゼロ。昨年は久々に1人を迎えたが、1年たたずに退職した。今年はまたもやゼロに。学校や就活イベントにブースを出しても「採用と結び付かない難しさ」(石本さん)があるという。
■環境や待遇改善
建設業も同様だ。総務省の労働力調査(令和3年平均)を基に国土交通省が推計した年齢階層別のデータによると、60歳以上の技能者が全体の約4分の1(25・7%)を占める一方、29歳以下は全体の12%にとどまる。
企業側も手をこまねいているわけではない。このご時世、人材確保に向けて多少の差こそあれ、業界として、労働環境や待遇を改善させている。
厚生労働省の統計調査によれば、建設業に従事する男性労働者の賃金上昇率は平成24年から令和元年にかけて18・6%に上る。全産業比で10ポイント以上も優位に。電気設備業の協栄電気工業も昨年度から高卒の新卒採用に関しては、基本給を2万円アップさせた。
各業界で働き方改革が進み、徒弟制度のような厳格な上下関係も今では昔の話。将来を支える人材を育成すべく、企業としても協調的な職場環境づくりに余念がない。
■イメージ根強く
ただ、前向きな変化は広く知られず「3K」イメージも根強い。業種を問わず、現場の担い手が不足する今こそ、攻めの情報発信が必要-。団体を立ち上げるに至った石本さんの考えだ。道路陥没や水道管破裂など日本各地で現在、老朽インフラが悲鳴を上げる現状にも強い危機感を覚えた。
具体的に、団体では開設済みのX(旧ツイッター)などを駆使し、ブルーカラーとして働く人の生の声を届けたり、改善が続く待遇面や職場環境の実情を発信したりする。ほかにも、そうした情報に接し、興味を抱いた求職者と参画企業とのマッチングを支援する。
すでに趣旨に賛同した同業他社など4社の参画が決まっている。「技術者や技能者はすぐには育たない。認識を共有できる企業とともに現状を打破したい」と石本さん。
米国では今、Z世代と呼ばれる若者の間で4年制大学の学位取得にかかる費用や学位の価値に懐疑的な見方が広がり、ブルーカラーへの関心が高まっている。インフルエンサーが自身のブルーカラーの仕事をSNSで格好良く見せ、若者の共感を得ているのだという。
同社工事部長の田丸紅葉(こうよう)さん(34)も団体としての取り組みを通じ「ブルーカラーへの偏見をなくし、社会的に『底辺職』と呼ばれないようにするのが目標」と意気込む。(矢田幸己)
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