( 294922 )  2025/05/29 07:07:32  
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与党提出の年金改革法案の中身を見ると、大幅な給付カットも(石破茂・首相/時事通信フォト) 

 

 国民生活を支える年金の大幅カットが進められようとしている。自民党内で大揉めの末に提出された年金制度改革法案だが、新聞・テレビが報じない詳細を検証していくと、元サラリーマン世帯を狙い撃ちにした「大改悪」であることが見えてきた──。 

 

「あんこが入っていないあんパン」──年金改革法案は当初、このように批判された。 

 

 政府は5年に一度行なう年金の「財政検証」(2024年)で、現行制度のままでは基礎年金(1階部分)の支給水準はどんどん低下し、2057年には現在より3割低くなるという見通しをまとめた。あれだけ「100年安心」と宣伝しながら、今になって年金危機は深刻化するというのだ。基礎年金の低下はとくに非正規雇用が多いとされる氷河期世代を直撃するという。 

 

 厚労省はそれを理由に元サラリーマンらが受け取る厚生年金の報酬比例部分(2階部分)などを減額し、その財源で基礎年金を底上げする年金改革案をまとめた。ところが、自民党内では「有権者の反発を呼び、参院選にマイナスだ」との声があがり、いったん法案提出見送りが決まった。それに対して野党が「法案を出さないなら厚生労働大臣の不信任案を出す」と反発すると、やむなく改正案の「あんこ」とも言える基礎年金底上げ案を削除した法案を提出したのだ。 

 

 結局、少数与党の国会審議では、石破政権がこの基礎年金底上げ策の復活を求める立憲民主党の要求に応じて法案の修正を進めるという点が注目を集め、新聞・テレビの報道もそこに集中している。 

 

 だが、真に注目すべき点は他にある。年金制度に詳しい“年金博士”こと社会保険労務士の北村庄吾氏が指摘する。 

 

「法案から基礎年金底上げ策が削られていたことはもちろん大きな問題ですが、今回の法案には元サラリーマン世帯への大幅な給付カットや会社員への保険料負担増が盛り込まれていることを見逃してはなりません」 

 

 そのひとつが、元サラリーマン世帯の“得する年金”として知られてきた「加給年金」の縮小・廃止だ。 

 

 例えば夫が年上の夫婦の場合、扶養される妻が65歳で年金受給が始まるまでの間、夫の厚生年金に年40万8100円の「加給年金」が加算支給される。年金の家族手当とも呼ばれる制度だ。 

 

「しかし、今回の改正では2028年4月の新規受給者からこの加給年金が36万7200円へと10%も削減されます。さらに厚労省は『共働き世帯が増えている社会の変化に合っていない』といった理由で将来的に廃止を進めようとしているのです」(北村氏) 

 

 サラリーマン世帯には大きな打撃だ。 

 

 厚労省がモデルとする夫婦で、夫が厚生年金、妻が5歳年下で専業主婦の場合では現在、妻が60~64歳の期間に加給年金が受け取れるため、夫の年金(年額)は約250万円になる。妻が65歳になると年約41万円の加給年金がなくなるが、それに代わって妻が基礎年金(満額なら約83万円)を受け取れる仕組みだ。 

 

 しかし、3年後からは加給年金が10%減額され、夫の年金は5年分で約20万円も減る。 

 

「将来的に加給年金が全廃されれば、現行制度と比べ、5年間で年金額は約204万円も減らされます。毎月3.4万円も削られる計算で、60代夫婦は生活設計の組み直しを迫られることになります」(北村氏) 

 

 関連記事《【政府の年金制度改革法案「3つの改悪ポイント」を徹底解剖】「加給年金の縮小・廃止」「遺族年金の大幅カット」「中堅サラリーマンは保険料が年11万円の負担増」》では、加給年金の縮小・廃止以外にもある、政府の年金改正案「改悪の3つのポイント」を図解つきで説明している。 

 

※週刊ポスト2025年6月6・13日号 

 

 

 
 

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