( 294927 )  2025/05/29 07:13:56  
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6月以降、政府備蓄米が一気に小売店に並ぶことになる(写真:風間仁一郎) 

 

 1年前、コメの価格が一気に2倍近くにまで高騰すると予想できた人はいなかっただろう。 

 

 2025年5月時点でコメの小売価格は5キロあたり4000円を超えている。下記は60キログラムあたりの年産平均価格だが、2024(令和6)年産のコメは跳ねがっていることがわかる。 

 

 価格高騰の引き金となったのは、昨夏の記録的猛暑だ。高温障害によるコメの減収に加え、増加した訪日観光客の外食需要が在庫を吸い上げたこともあり需給が逼迫。家庭向けのコメは完全な奪い合いになった。 

 

■3月の 備蓄米放出はなぜ効果ナシだったのか 

 

 政府は打開策として、今年3月に政府備蓄米21万トンをオークション形式で市場に放出した。ところが高値を付けた集荷業者が大半を買い取り、卸売業者を経て精米されたコメが小売に届いた量は全体のわずか7%だった。 

 

 これではとても店頭価格は下がらない。「国が安く仕入れた備蓄米を高く転売し、差益を得ているだけではないか」。消費者だけでなく与党内からも批判が噴出し、オークションによる販売で差益を出した政府には冷たい目線が投げかけられた。 

 

 そこで政府は、備蓄米の放出方法に関して大転換を決断した。 

 

 5月26日、小泉進次郎農林水産大臣は「備蓄米を5キロ2000円で店頭に出す」と宣言した。このプランを実現する切り札として用意したのが、備蓄米をオークション方式ではなく、流通業者に随意契約で放出する新しい販売方法だ。 

 

 今回、価格引き下げを確実にするための仕組みは実にシンプルである。 

 

 第1に、政府は利益を出さない。放出する備蓄米は2022年(令和4)産が20万トン、2021年(令和3年)産が10万トン。売り渡し価格は2022年産を60キロあたり1万1010円、2021年産を1万0080円で固定する(価格はいずれも税別)。そのうえで国が提示した販売価格(2000円)での販売を求める。。 

 

 第2に取引先を年間1万トン以上のコメを扱う小売業者に絞ることで、素早く店頭へ並ぶことを目指す。毎日先着順で受付・契約・販売していく。 

 

 第3に、政府が輸送費を負担して8月末までに売り切ることができる数量だけを契約させる。 

 

 放出される玄米の原価は5キロあたりで計算すると892円。農水省の試算では、精米費用や店頭マージンを足しても税込2160円程度の価格が実現できる見込みという。 

 

■「買い戻し条項」を外した 

 

 

 さらにこれまでの放出では、備蓄米を放出しても同量を翌年度に買い戻して備蓄米を補充する「ローリング在庫」だったが、今回は買い戻し条項を外した。つまり、長期的にもコメが市場に流れ込む量は30万トンが純増することになるため、需給面での安定化を狙うことができる。 

 

 農水省では5月26日に受け付けを開始。大手スーパー、ディスカウントストア、ドラッグストア、通販事業者などが次々に手をあげた。 

 

 外食大手のゼンショーホールディングスが名を連ねているため、すき家などで使うのかと勘違いしている読者もいるかもしれないが、今回の随意契約は小売り販売することが条件。ゼンショーは傘下のゼンショーライスで精米したうえでマルヤ、マルエイ、フジマートなど傘下のスーパーマーケットで販売する予定だ。 

 

 6月上旬には多くの店で5キロ2000円前後の価格で白米が並ぶはずだ。ファミリーマートのように、小分けをして1キロ400円での販売を宣言しているチェーンもある。 

 

 「令和4年産米について、予定数量の上限に達する見込みとなりましたので、令和3年産米及び令和4年産米について、買受申込みを一旦、休止します」 

 

 農林水産省のホームページに設置された「随意契約による政府備蓄米の売渡しについて」には5月27日21時、上記の文言が掲載され、随意契約による売り渡しの受付は一旦停止となった。受付開始をしたのは26日。2日間で、2022(令和4)年産の備蓄米20万トンは完売となったというわけだ。ただし、下記の14時時点の受付状況をみてもわかるとおり、2021(令和3)年産は不人気だ。 

 

■中小スーパーや米穀店にも 

 

 小泉農相は27日夜遅くに、年間販売量1万トン未満の中小スーパーや米穀店にも随意契約で販売すると発表。30日にも申し込みの受け付けを始めることを明らかにした。店頭価格は「5キログラム1800円程度」との見通し。ここに売れ行きが芳しくない2021年産米を充てる。最大10万トン放出する予定だ。 

 

 今回の矢継ぎ早の随意契約による市場放出は、一にも二にも価格を落ち着かせることが目的。が、今後の備蓄米のあり方を変えていくことになるかもしれない。 

 

 

 農水省内では今回の知見や、過去の数字を用いた上で、AIによる需要予測と在庫管理を組み合わせ、気候変動や地政学リスクに即応する次世代備蓄米システムを描く声も出始めているという。 

 

■売れ残るリスクもある 

 

 30万トンの放出は民間在庫の15%に相当する。これだけの量が一挙に消費者市場へ動くことで、一般流通の新米も下がっていくかどうかが6月以降の焦点になる。 

 

 今回売り出されるのは2022年産、2021年産の古いコメだ。新米を好む消費者はソッポを向くだろう。そんな消費者が多ければ、売れ残るリスクもある。そうなると一般流通米(2024年産米)の需給はタイトな状態が続き、高止まりだ。逆に”人気化”して必要量以上に買いだめする消費者が多いと、瞬時に蒸発。この場合にも一般流通米の価格は高止まりする。 

 

 再び価格が上昇するようなことがあれば、小泉農相は「残る30万トンも放出する」と公言している。すべてのカードを切ってでも価格を落ち着かせる覚悟だが、果たしてどうなるか。 

 

本田 雅一 :ITジャーナリスト 

 

 

 
 

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