( 295108 )  2025/05/30 05:18:45  
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備蓄米めぐり噴出する“JA悪玉論”、本当? 

 

 就任早々、備蓄米の入札を中止し、任意の業者に売る「随意契約」を開始させた小泉新農林水産大臣。農水省は27日、2022年産への申し込みが殺到し、予定の20万トンに達する見込みだとして、すべての受け付けを一時休止。残った2021年産の約10万トンは、これまでの大手小売ではなく、中小のスーパーや米穀店に対象を変え、新たな随意契約として30日にも受け付けを始める方針だ。 

 

 小泉大臣の号令1つで流れが変り始めた“令和のコメ騒動”。任命直後、何度も繰り返したのは「組織・団体に忖度しない判断をすることだと思う。今までの日本の農政を考えたときに、ややもすると組織・団体にあまりにも気を遣いすぎた」。この“組織・団体”を指しているとみられるのが、農業協同組合「JA」だ。農業者を中心とした「組合員」で農家と生活を守ることなどを目的に組織されており、主な事業の1つは「販売事業」。農産物を集めて卸売業者や小売業者に卸したり、直接消費者に販売することで、生産者が販売先に悩むことを解消する重要な役割を担っている。 

 

 しかし今、ネットでは小泉大臣に追随するかのように、備蓄米の流通の遅れや、そもそものコメ価格高騰をめぐってJAへの批判が噴出している。「JAが介入するからコメが流通しないんだろ」「てかJAのせいでコメ騒動が起きたのでは?」「米高騰の元凶JA」。 

 

 果たして、その通りなのか。『ABEMA Prime』で、農家出身で元農林水産省官僚の自民党・進藤金日子参院議員、JA稲敷元理事・大塚則昭氏、令和の百姓一揆実行委員会事務局長・高橋宏通氏、大規模コメ農家・ヤマモト氏の4人を招いて議論した。 

 

米流通と在庫 去年との比較 

 

 これまでの備蓄米は、オークション形式の競争入札で3回出品され、そのほとんどをJA全農が落札。JAグループを含む卸業者を通して小売店に並んでいたが、時間もお金もかかっていたという。今回の随意契約では、小売店に直接売り渡しをすることで金額を抑えながらスピードアップも図り、6月初旬に店頭に並ぶということだ。 

 

 ただ、「米流通と在庫」の去年との比較を見てみると、生産段階は在庫+9万t(生産量+18万t、出荷+14万t、消費・無償譲渡−5万t)、集荷段階は在庫+3万t、(JA系統−31万t、JA外/直販+44万t)、末端への流通は在庫+7万t。在庫合計は去年比で「+19万t」も上回っていた。 

 

 そんな中、備蓄米のスタックはJAに原因があったのか。進藤議員は「その指摘は当たらない。集荷段階でJAには31万t集まっておらず、備蓄米が補給されることで流れていくと思うだろう。卸売段階では4万トンの在庫があるわけだが、ここでは精米や袋詰めなどが発生し、コストがどんどん上がっていく。すでに高い米を持っている卸は、安い備蓄米が来ればブレンドする。卸が意図的に止めているという話ではなく、時間がかかっている」との見方を示す。 

 

 一方、大塚氏は「卸のルートが全然違う」と指摘。「JAは生産者から買い、コープを通じて売っているが、これは全体の3〜4割。6割の民間は、コンビニやファミレスなどと契約している数量を出す必要があって、余った分をスーパーに出している。その順番が違うから、批判はできない」とした。 

 

 

米を収穫してから消費者に届くまで 

 

 価格決定権を持っているのは、JAに出荷する場合は小売店、JAに出荷しない場合は農家と小売店にある。 

 

 ヤマモト氏は、「農協の仮渡金は非常に安くて、農機具の更新ができなかったり、肥料や農薬の高騰でだんだん離れる農家が増えてきたのは事実だと思う」とコメント。また、収穫した米をJAに一切集荷していない理由について、「小売業に直接売っているが、農協に出すよりも7000円/60kgぐらい差があり、4割ほどプラスになる。小規模農家や生産した米の出し先に悩む農家にとって、農協や集荷業者は大切な存在だと思うが、私ら大規模農家はその金額だとやっていけない」と明かす。 

 

 また、“令和の米騒動”が起きた背景として、「今年は全国的に、本当に米がなかった。出せる米がない中で、価格が安い農協には集まらない。卸が直接生産者に買いに走り、高値で買ったことで、令和の米騒動が起きた」との見方を示した。 

 

 仮渡金について高橋氏は、「JAが金額を決めるが、他の農産物と違って米は1年に1回しか穫れない。“売れたら生産してもらう”のが一般の流通だが、1年を通して食べる消費者のために保管して、先にお金を渡すのは必要な機能だ」「米がいっぱい穫れたら相場が下がって豊作貧乏になるし、相場が高い時は不作の状態。農家の収入は収穫量×単価なので、どちらにしろ経営が安定しない。仮渡金は相場全体との釣り合いで決めるが、それはJAの問題というよりは、経済の仕組みとしてお金を持っている買い手のほうが強いことにある。JAも高い概算金を払いたいが、それをすると今度は売りっぱぐれてしまう」とした。 

 

 進藤氏も「卸業者と農協の間に相対取引価格というものがある。卸業者の人たちも消費者の動向を見て、“これぐらいの価格だったら売れる”と決めるわけだ。その相対取引価格から手数料が引かれ、最後に農家に概算金として来る」と説明した上で、「去年、今年で違うのは、他の所に売って価格が上がってきて、農協もある程度上げないと集まらなかった。おそらく1万8500円〜2万円/60kgぐらいで、地元の秋田は2万4000円/60kgと春先から宣言している。相対取引価格から決まってきたのが、今回の事象を踏まえて出荷側から決まりつつある」と述べた。 

 

 

コメ農家は年々減少 

 

 10a当たり平年収量に対する良否を表す作況指数についても、ヤマモト氏は疑問を呈する。「作況指数の測り方が良くなくて、使う網目が細かすぎて、くず米までも全部通してしまっている。そこで勘違いされているのではないか」。 

 

 高橋氏も「作況指数はあくまでも単位面積当たりの生産量で、今問題になっているのは流通出荷量。そこのギャップが大きすぎる。精米したら、胴割れしていたり、虫食いがあったり、高温気象で白く濁った白玉枚は規格外として、二等米に下ろされる。その中で流通量がものすごく減っていて、作況指数が101でも、実際に調べたら95程度だろう。異常気象やカメムシの大発生などで年々差が出てきているのに、昔から同じような統計の取り方で歪みが出てきているのが問題。その一番の影響を受けているのは現場にいる農家で、責任はない」と指摘した。 

 

 ジャーナリストの堀潤氏は、「預けた米を高値で売りに出せるような交渉力を農協には求めたいが、“預かったものは多少安くても全部出す”ということだと困ってしまう」「透明性の高いマーケットを作るべきだというのが一案だが、構造的な欠陥や一部の情報によって取り付け騒ぎが起きるという話と、そもそも米が足りないという話は、国・政府の感覚と現場の感覚ではギャップがある。国と農協が一体化していて、外部のアクセスがすごく悪くなっているのではないか」と投げかける。 

 

 高橋氏は「1つは農家にある程度の価格決定権を持ってもらう仕組み、いわゆる相対取引の推進であり、産直価格だ。農家も価格決定権に関与できるし、買う側も代表者が決定する。その上で、再生産できるかや、消費者が買い続けられるかという話になる。例えば生協の予約米は、田植えの前に手を挙げてもらえれば1年間安定して買えるというもので、関係はうまくいっているし、後継者も育っている。それをJAが妨害しているということもないので、誤解しないでほしい」と述べた。 

 

 なお、番組取材に対してJA全中は、「JAグループは、現在の小売価格による消費者の米離れを非常に憂慮しており、『JAが意図的に価格を上げている』ことはまったくございません」「政府備蓄米の入札において、平均落札価格は、直近の相対取引価格を下回っているほか、必要経費以外は上乗せせず、卸売業者に販売しています」としている。(『ABEMA Prime』より) 

 

ABEMA TIMES編集部 

 

 

 
 

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