( 295126 )  2025/05/30 05:42:07  
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OJTには限界があり、OJTだけに偏った企業では若者の定着率が低い。

政府発表の中小企業白書によると、OJTとOFF-JTの組み合わせ効果が効果的であり、育成期間を長めに設けることも有効だという。

OJTのみではなく、体系的な教育も重要であると著者が指摘している。

教える際には体系的な理解、言語化能力、教え方の技術が必要であり、「とりあえずやってみて」というだけでは成果が出ない。

成長実感を得られない若者が定着しない最大の理由であり、時代に合わせた多面的な人材育成が求められている。

(要約)

( 295128 )  2025/05/30 05:42:07  
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OJTにも限界がある 

 

 「『まずはやってみろ』と言われても、やり方を先に教えてほしいのに……」 

 

 Z世代の若者社員が悩んでいた。 

 

 「うちはOJTで育てる」と胸を張る企業がある。OJTとはOn-the-Job Trainingの略で、現場で実務を通じて部下を育てるやり方だ。一見すると効率的で理にかなっている。しかし、このOJT偏重の企業は、実のところ若者の定着率が低いようだ。 

 

 なぜ「OJT」に偏っている企業では、若者が定着しないのか?  

 

 そこで今回は、OJTの問題と部下育成について解説する。若者の定着率に悩む経営者やマネジャーは、ぜひ最後まで読んでもらいたい。 

 

著者プロフィール・横山信弘(よこやまのぶひろ) 

 

企業の現場に入り、営業目標を「絶対達成」させるコンサルタント。最低でも目標を達成させる「予材管理」の考案者として知られる。15年間で3000回以上のセミナーや書籍やコラムを通じ「予材管理」の普及に力を注いできた。現在YouTubeチャンネル「予材管理大学」が人気を博し、経営者、営業マネジャーが視聴する。『絶対達成バイブル』など「絶対達成」シリーズの著者であり、多くはアジアを中心に翻訳版が発売されている。 

 

 OJTとはOn-the-Job Trainingの略で、文字通り業務をしながら学ぶトレーニング方法だ。一方OFF-JTとはOff-the-Job Trainingの略で、通常業務から離れて行う研修を指す。外部セミナーへの参加や社内での集合研修などがこれにあたる。 

 

 政府が発表した中小企業白書2024によれば、人材育成の取組を「増やした」企業では中核人材・業務人材の定着率が高い傾向にあったという。この調査結果は、育成強化が定着率をアップさせる可能性を強く示している。 

 

 とりわけ注目すべきは、OJTとOFF-JTの組み合わせ効果だ。社員の定着率が5割以上の企業では、「OJTのみ」よりも「OJT+OFF-JT」と回答した企業が多いという。社外研修などの「OFF-JT」の重要性が近年高まっている証拠である。 

 

 また、定着率の高い企業ほど育成期間を長めに設けるという。これらの調査結果は、計画的かつ多面的な人材育成が若者の定着率をアップさせることを物語っている。 

 

 

 「OJT」という言葉は多くの日本企業で重宝されている。しかし、その本来の意味が誤解され、形骸化している企業も多い。 

 

 上司の最も大きな勘違いは「OJTさえやっていれば、部下は育つ」という思い込みだ。なぜなら自分自身もそのようにOJTでしか仕事を教えられていないからだ。 

 

 何事もそうだが、「私たちの世代がこうだったんだから、今の世代だって同じでいい」という発想は極めてリスキーだ。本質的な考えや、原理原則はそうであっても、「やり方」は時代に合わせて変えたほうがいい。 

 

 ある新入社員が、こんな悩みを私に打ち明けた。 

 

 「入社してから3カ月、上司から『OJTで育てるから』と言われましたが、実際には何も教えてもらえません。たまに『誰に教えてもらった?』『そんなことも分からないのか?』とダメ出しされますが、あれがOJTなんでしょうか?」 

 

 私は返す言葉が見つからなかった。 

 

 「とりあえずやってみて」 

 

 「自分なりに考えてみて」 

 

 このような言葉を上司から投げかけられた経験は、誰でもあるだろう。何の基礎知識も技術も教えないまま現場で実践させようとするやり方は、今なお多くの職場にまんえんしているのだ。 

 

 そもそも誰かに何かを教える場合、教える人には次の3つの要素が不可欠だ。 

 

 

1. 体系的な理解 

2. 言語化能力 

3. 教え方の技術 

 

 第1に、「体系的な理解」である。 

 

 教えるテーマについて全体像を把握し、論理的に整理されていなければならない。例えば営業のやり方を教えるなら、アプローチから契約、アフターフォローまでの流れ、そして各段階で必要なスキルなど、全体像をしっかり把握している必要がある。 

 

 第2に、「言語化能力」だ。 

 

 いくら自分ができても、それを言葉にできなければ教えられない。例えばラジオ体操をやる時、音楽に合わせて体は自然と動く。しかし「右手を上げながら、左足を45度開き、同時に……」と言葉を使って説明するのは難しい。こうした言語化能力も教える側には求められるのだ。 

 

 第3に、「教え方の技術」である。 

 

 どんな順序で、どんな例を使い、どのように伝えれば相手が理解しやすいか。特に「順序」が最も重要な要素だ。ある程度の基礎的な知識・スキルが身に付いてもいないのに、次のレベルのことを教えてはならない。実績のある上司でも、教え方が下手な人は多い。相手の理解度に合わせて説明の仕方を変える柔軟性も必要だ。 

 

 ここで私自身の経験を振り返ってみたい。 

 

 30歳前後のころに絵を習いたくて、絵画サークルに通ったことがある。ところがそのサークルでは、先生から「自由に描いてみなさい」「あなたの思うように描けばいいんです」と言われるばかりで、筆の持ち方や色の付け方といった基礎を何も教えてくれなかった。 

 

 結果として描かれたのは、恥ずかしくて誰にも見せたくないような絵ばかり。先生や他の生徒からフィードバック(いわゆるこれがOJT)はあっても、そもそも基礎的な知識がないのだから、上達しようがない。結局、私は3カ月でスクールを辞めてしまった。 

 

 

 企業でも同様だ。OFF-JTと称される体系的な教育がなく、「とりあえずやってみなさい」という指示だけでは、いつまでたっても成果が出ない。 

 

 例えば企画書や提案書の作成において、どんな順序で、どんな内容を盛り込むべきかといった具体的なノウハウが伝えられないまま実践させると、提出された書類は「なんとなく違う」とか「誰に教えてもらったのか」という批評を受けるだけ。 

 

 最近こんな光景を目にした。 

 

 入社したばかりの若手社員が、初めて企画書を作成することになった。しかし上司は「どんな企画書を書いたらいいか、自分で考えてみて」と言うだけで、具体的な書き方や構成を教えなかった。案の定、出てきた企画書は散々なできばえ。上司は「こんなのダメだ」と一蹴し、若手社員は落胆するばかりだった。 

 

 会社がOJTだけに頼る原因は「社員教育は上司がするもの」という古い思い込みにある。しかしこの発想は時代にそぐわなくなってきている。 

 

 現代の教育環境を見てみよう。中学生や高校生は学校だけで勉強しているだろうか? 答えはノーだ。ほとんどの生徒が塾や予備校に通い、オンライン教材やYouTubeなどの動画を活用して学んでいる。 

 

 さらに注目すべきは学校側の変化だ。かつて「塾は敵」と考えられていた時代もあったが、今では「この塾の問題集がおススメ」「あのYouTuberの解説が分かりやすい」と教師自身が外部リソースを積極的に推薦するようになった。教育の複線化が当たり前になっているのだ。 

 

 企業も同様の変化が必要である。「うちの会社はOJTで育てる」と言いながらも、実は上司が適切な指導をする時間も能力も持ち合わせていない場合が多い。そんな上司が若者に対して「ダメ出し」を続けても、成長は望めない。 

 

 上司に頼るのではなく、外部の専門家による研修、オンライン学習、サブスクなど、複数の教育チャネルを組み合わせるべきだ。「社員教育は会社の責任」という原則は変わらない。その方法は時代とともに進化させる必要がある。 

 

 

 若者が「OJT」だけの企業に定着しない最大の理由は「成長実感が得られない」ことだ。特にZ世代と呼ばれる若者たちは、個人の成長と自己実現を重視する傾向が強い。 

 

 彼ら彼女らが求めているのは、体系的に学び、着実に成長していく実感だ。教えるプロでもない上司からのOJTだけでは「今の自分がどのレベルなのか」「何を学べばさらに成長できるのか」が分からない。将来のキャリアも十分に描けないため、成長機会を求めて転職を考えるようになる。 

 

 OJTの限界を認識し、上司も一緒に学ぶ姿勢が求められている。 

 

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ITmedia ビジネスオンライン 

 

 

 
 

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