( 295593 ) 2025/06/01 04:03:08 0 00 兵庫県・斎藤元彦知事
兵庫県の井ノ本知明総務部長(当時)が、斎藤知事の疑惑を告発した元県民局長の“私的情報”を漏洩した問題で、県は「知事が漏洩を指示した可能性が高い」ことを理由に、井ノ本氏の懲戒処分を軽減していたことが分かりました。
斎藤知事は、この軽減された処分を決裁した一方、「漏洩の指示はなかった」としていて、知事の主張に重大な矛盾が生じています。第三者委員会の調査報告書から見えてきた情報漏洩の裏側と、知事の主張による矛盾、県議会の動向について解説します。
ポイントとなる『違法行為』
公務員が職務上知り得た秘密を漏らすことは地方公務員法に違反する行為ですが、第三者委の調査で「斎藤知事及び片山元副知事の指示のもとに行われた可能性が高い」と結論づけられるような情報漏洩は、なぜ起きてしまったのでしょうか。
まず、井ノ本総務部長(当時)は、第三者委の調査に対し「別の幹部職員も同席する場で、斎藤知事から『そのような文書があることを、議員に情報共有しといたら』と指示された」と説明しました。
第三者委が、この「同席した幹部職員」にも話を聞いたところ、『その私的情報があったということも含めて、根回しというか、議会の執行部に知らせておいたらいいんじゃないかという趣旨の発言があった』と証言し、井ノ本氏の説明が裏付けられた形となりました。
食い違う主張
さらに片山副知事(当時)も、この幹部職員から報告を受けていたということです。片山氏は第三者委の調査に対し「『知事から井ノ本氏に、元県民局長の私的情報について議会と情報共有しておくようにとの指示があった』と聞いたので、特に反対もせず、井ノ本氏において根回しをするように指示した」と語っています。
第三者委は、井ノ本氏が県議会議員3人に元県民局長の私的情報を漏洩したと認定。その上で、井ノ本氏、同席した幹部職員、そして片山氏の証言が一致していることから、情報漏洩は「斎藤知事と片山元副知事の指示による可能性が高い」としました。
私的な情報が流出する中、元県民局長は百条委員会に対し「プライバシーへの配慮」を要請しましたが、その後、自ら命を絶ちました。
斎藤知事は「組織の長」としての責任を取る形での給与カットなどの意向を示してはいるものの、「指示はしていない」と全面的に否定。28日の会見では「私自身は漏洩の指示をしていないという認識に変わりはない。情報管理をしっかりしておくように指摘すべきだった」と語っています。
「漏えい」の裏に何が?
井ノ本氏による情報漏洩を、さらに後押ししたと考えられる知事の発言があります。
斎藤知事から「議員に情報共有しといたら」と指示があったとされる同じ時期、井ノ本氏は、「斎藤知事から『風向きを変えたい』という発言があった」と、百条委員会で証言しています(※斎藤知事は否定)。
文書問題の報道が相次ぐ中、井ノ本氏は「この騒がしい状況を早く鎮めたいと推察をして、それを“指示”として受け取った」ということです。
知事に対して「逆らえない空気」か
「議員に情報共有しといたら」「風向きを変えたい」…この2つの発言を受けた井ノ本氏は、県議3人に元県民局長の私的な情報を漏洩しました。議員らは、井ノ本氏が私的な情報を見せながら、元県民局長の人格を否定するような発言をしたと証言していて、文書問題の“火消し”に走ろうとしていたことが分かります。
井ノ本氏による情報漏洩を、単なる知事への“忖度”による行為と捉えるべきではありません。当時の兵庫県には、知事に対して『逆らえない空気』があったと考えられます。
第三者委員会の報告書
文書問題を調査した第三者委の報告書では「知事に不適切な言動があったとしても諌めることはほぼできない、自由活達さよりも異論を許さない雰囲気が職場にはあった」と指摘しています。
処分にギモン
県は、井ノ本氏を『停職3か月』の懲戒処分としましたが、斎藤知事が情報漏洩の指示を認めないことで、重大な“矛盾”が生じています。
兵庫県では、情報漏洩をした職員に対し、懲戒免職、もしくは停職6か月、3か月、1か月の4段階で処分を判断します。『停職3か月』とされた井ノ本氏は、代理人を通じて、不服申し立てをする方針を示しています。
今回の懲戒処分の決定に携わった県幹部への取材で「斎藤知事や片山元副知事から指示を受けていた可能性が高い」という第三者委の指摘を理由に、井ノ本氏の懲戒処分を軽減していたことが分かりました。
この県幹部は「今回の漏洩行為と総務部長という役職を踏まえると、本来であれば『停職6か月』が相当だった」としています。つまり、上司から指示を受けた可能性が高い中での行為であることを考慮して処分を軽減し、その他の事情も総合的に判断した結果、『停職3か月』としたということです。
懲戒処分の内容が適正かどうか議論する県の綱紀委員会には『停職3か月』の案が提示され、委員からは『停職6か月』にすべきだとの異論も上がりましたが、結論が変わることはありませんでした。
この懲戒処分を最終的に決裁をする、いわば最終決定権者は斎藤知事です。斎藤知事は「情報漏洩の指示」を否定する一方で、県職員の処分を軽減する上では「指示をしていた可能性が高い」という指摘を受け入れている、知事の主張は、ここに重大な矛盾をはらんでいます。
刑事告発は「しない」
情報漏洩が認定された中、なぜ県は「刑事告発」の手続きを取らないのでしょうか。県は27日、井ノ本氏の処分を発表した際、停職によって経済的な制裁を受けていることや、知事から指示を受けたと認識していることなどを理由に「刑事告発はしない」と説明しました。
28日、斎藤知事の定例会見で、刑事告発しないと判断した理由について記者から質問が相次ぎましたが、斎藤知事は「(27日に)県職員が答えた通りです」と述べるにとどまりました。
県議会一部も疑問
この点については、県議会の一部議員から疑問の声があがり、最大会派・自民の複数の県議が「知事が指示したかどうかの事実関係が曖昧で、元県民局長が亡くなる原因になった可能性を明らかにするためにも刑事告発をすべきだ」と主張。一部有志の県議で、県の代わりに告発をするという案も出ているもようです
県議会では今後、知事への不信任決議案を出すなどの選択肢もあります。立憲系の「ひょうご県民連合」などは、「今後の知事の態度によっては不信任決議案も検討しなければならない」としています。
兵庫県をめぐる混乱は続く
一方で、最大会派の自民や第2会派の維新は、知事の身の振り方を慎重に見極める姿勢を見せています。約1年にわたって県政が混乱する中「これ以上議会が対抗すべきではない」と対立を収めることを望む声がある一方で「知事自身が辞職を選ぶべきだ」とする声もあります。
また、一部の議員からは、夏に参院選を控える中、自分の政党に有利になるのか不利になるのか分からない状況で「むやみに行動を起こすことはできない」と、選挙への影響を心配する声も聞かれました。
第三者委員会の結論が出そろい、6月議会が間もなく始まろうとする中、兵庫県をめぐる混乱はまだ続きそうです。
(2025年5月28日「かんさい情報ネットten.」より)
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