( 295688 )  2025/06/01 06:02:17  
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Photo:Diamond 

 

 相も変わらず人気商品の転売が社会問題となっているが、何か有効な対策はないものだろうか。転売されるということは、元の価格が安いのだから、値上げすればいいと思うが、そう簡単にはいかない。過去の事例で私が印象的だったのが、ソニーの「プレイステーション5」の転売対策だ。どのあたりが妙案だったのか、コンサル目線で解説しよう。(未来調達研究所 坂口孝則) 

 

● マクドナルドの「ちいかわ」転売でSNS炎上 

 

 「あなたは、ビンボー人の気持ちが分かっていないんだっ!」 

 

 ありがたいことに私は長年、テレビ番組にコメンテーターとして出演する機会をいただいている。近年よく話題になるのが、人気アーティストのチケットやグッズの転売について。そこで私が、「転売されるということは、元の価格が安いともいえます。だから転売されないように価格を上げればいい」とコメントすると、冒頭のキビシイお叱りを受ける。 

 

 つい最近も転売騒動が起きた。日本マクドナルドが人気キャラクター「ちいかわ」とコラボしたハッピーセットを販売したが、わずか3日間で販売終了が発表された。そこで、第2弾はひとり4セットまでの購入制限を行い、転売自粛を呼びかけた。しかし結局こちらも販売するや否や、メルカリをはじめとするフリマサイトに大量に出品されていたことが発覚。わずか1日で販売終了に追い込まれた。ちなみに中国のフリマサイトでも確認されている。 

 

 さらに今回タチが悪かったのが、ちいかわグッズだけを抜き取り、ハンバーガーやポテトを食べることなく店舗に放置する例が散見されたことだ。「おもちゃだけゲットしてハンバーガー捨ててる写真とか見ると胸が痛む」「ひどすぎるよ」「食べ物を粗末にするような人間はクズ」などとSNS上で大炎上。5月30日から予定していた第3弾は実施されず、終了した。 

 

 マクドナルドという最強のブランドが提供したかった「ハッピーな体験」が、本来とは真逆のイメージを与える残念な結果となってしまった。では、転売を抑止する方法はあるのだろうか。 

 

 

● 転売を完全になくす方法はあるか 

 

 ここから先はやや理屈っぽくなるので、ソニーの「プレイステーション5」の転売対策についてだけを早く知りたい方は、速読してほしい。 

 

 まず、商品を購入するというのは、所有権を販売側から購入側に移す行為だ。したがって、所有権移転後の商品を処分するのは自由である。転売は、違法行為ではない。ワインや絵画などはオークション市場が整備されており、目が飛び出るほどの高額で売買されることもあるが、批判は起きない。*ただし転売を反復継続的に行う場合は古物営業法に基づく「古物商許可」が必要だ 

 

 転売は自由な売買行為であるため、絶対的な抑止策はない。ただし、効果的な対策が二つあると思う。ひとつは、購入者のIDを管理すること。購入者の身分証明書を確認し、商品にも個々に独自の番号を振っておく。そして購入者には、転売をしないように契約する(転売するのは自由だが、転売しないように契約するのも自由だ)。 

 

 こうすれば、もし転売された商品を発見しても、出品者も判明する。後は何らかの罰則を課す。実際に高級ブランド時計では類似の方法が採用され、転売の抑止になっている。 

 

 もうひとつは、私が冒頭で発言したように、価格を引き上げることだ。転売が生じるのは、市場が評価する価格よりも安価に販売されているから。もし、転売で2倍の値が付くなら、最初から販売価格を2倍にしておけばいい。 

 

 「いやいや、そういうことじゃない!」と思う人も多いだろう。ファストフードやゲーム機やプラモデルで、ID管理なんて面倒なことできないでしょう、と。価格が何倍にもなったら、お金持ちしか買えなくなっちゃうじゃん、と。 

 

 まさにそのとおりで、低額品の場合はコストとの兼ね合いで難しい。また、転売を撲滅できても、「価格を吊り上げる企業」「ステルス値上げだ」などとネガティブなイメージが付いたら元も子もない。そこで、もっと別の方法を模索する企業が多い。 

 

 

● ソニーのプレステ5の転売対策が秀逸だった 

 

 それでは、もっと簡易的で現実的な転売対策はあるのだろうか。 

 

 私が印象的だったのが、ソニーのプレイステーション5の転売対策だ。家電量販店の一部では、プレイステーションを販売する際に、購入者に対して外箱に自分の名前をサインをするよう求めたのだ。新品のプレミアム感を喪失させることで転売しにくくするのが狙いだろう。さらに、プレステ4の買い取りを前提に、プレステ5を販売する工夫もあった。 

 

 似た方法で、箱にバツ印をつけて販売するものがある。また、会員カードの履歴を確認する手もある。これは同一商品の購入頻度が高い場合に、購入を制限するアプローチだ。 

 

 他にも、トレーディングカードのパッケージをレジで開封することを条件にするケースもある。プラモデルでは、店舗に商品を陳列する時間を、開店時などに限定せずランダム化することで組織的な購入を防ぐ。さらに購入時にも、箱を開封し、一部のパーツを切り離すという。 

 

 一方で、これらの対策は顧客体験を損なう恐れがある。「え、なんで箱を汚さないといけないの?転売なんてしないのに」「パーツを切り離すのもやめてよ!」と憤慨する購入者は一定数いるだろう。企業は転売ヤーは防ぎたいが、一般の愛好家から嫌われてはいけないので、微妙なさじ加減が大事だ。 

 

 また、値上げする手法も突き詰めると、おおげさにいえば「社会的公平性の問題」と衝突する。企業の利益だけを追求すると、市場が求める以上は高値で販売したほうがいい。転売ヤーが手にする儲けは自社に還流され、株主価値は最大化する。 

 

 しかし、ファンにとって感情的な側面が強い商品を扱っている場合、中長期的には嫌悪感や拒絶感をもたらす可能性が高い。顧客満足度の低下、顧客ロイヤルティの喪失につながる。企業イメージが悪化し、ユーザーの信頼を損ねて収益が低下すれば、株主価値もだだ下がりだ。 

 

 だから顧客体験を損なわないレベルで、かつ、価格設定も本来のターゲット層から忌避感を抱かれないよう細心の注意が必要となる。ヒット商品を売るのも大変な時代だ。 

 

 もっとも、転売ヤーが全て儲かるかというと、そうでもない。時間と手間をかけたのに爆死=大損するケースもしばしば報じられる。色んな意味でリスクを伴う行為であるのは間違いない。 

 

 転売を防ぐ試行錯誤の裏で、また新たな限定品をめぐる熱狂と、それを利に変えようとする者たちの攻防が繰り返されていくのだろう。転売問題は企業にとって「完璧な対策」を求めるのではなく、「受容可能なレベルまでの抑制」を目指すのが現実的といえる。 

 

 消費者も、些細なことで企業に怒らないようにしよう。日本企業は頑張っている。転売したいくらい魅力的な商品を出しているということじゃないか。転売対策ばかりに注力して、肝心な商品力が低下してしまったら、それこそ誰もハッピーではなくなってしまう。 

 

坂口孝則 

 

 

 
 

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