( 295733 ) 2025/06/01 06:50:36 0 00 国交省で開かれた「国内航空のあり方に関する有識者会議」の初会合=25年5月30日 PHOTO: Tadayuki YOSHIKAWA/Aviation Wire
JALが国内線に投入するA321neoのイメージ(同社提供)
ANAのE190-E2(イメージ、エンブラエル提供)
国土交通省航空局(JCAB)は5月30日、コロナ後の生活環境の変化や円安影響を受け、国内線の事業環境が急激に悪化していることから、「国内航空のあり方に関する有識者会議」を立ち上げ、初会合を開いた。国内路線網の維持・拡充につながる方策を、2026年春をめどに取りまとめる。
◆公的支援なしでは赤字
航空局によると、全日本空輸(ANA/NH)と日本航空(JAL/JL、9201)、スカイマーク(SKY/BC、9204)、エア・ドゥ(ADO/HD)、ソラシドエア(SNJ/6J)、スターフライヤー(SFJ/7G、9206)の国内6社は、旅客数はコロナ前と同水準まで回復している。一方で、営業損益はコロナ影響を受けていない2018年度を100とした場合、2023年度は7.3、2024年度は-15.7と、公租公課の軽減効果を除いた実質的な営業損益では赤字に転落しており、特に国内線専業と言えるスカイマーク、エア・ドゥ、ソラシドエア、スターフライヤーの4社は、経営の厳しさが増している。
大手2社も、現在は国際線事業が旺盛なインバウンド需要の恩恵を受けているものの、数年に一度起きる世界規模の感染症や紛争、自然災害による需要の急減があり、コロナ前は国内線事業が営業利益の約4割を占めていたことなどから、国内線単独の収益性を改善しない限り、価格上昇が今後も続く機体やエンジンなどの設備投資が厳しくなる可能性が高まっている。
航空各社では、ANAとJALによるグランドハンドリング業務の資格共通化、エア・ドゥとソラシドの共同持株会社設立、離島路線の系列を超えたコードシェアなどの取り組みがなされてきた。また、大手2社が発注してた国内線機材を見ると、JALが中型機ボーイング767型機の後継としてエアバスA321neo、ANAは従来保有していなかった100席クラスのリージョナルジェット機としてエンブラエルE190-E2を発注するなど、今後の機材更新時に小型化を進め、需給バランスの適正化を進める。
会議に先立ち、航空局の平岡成哲局長は「オンライン会議の普及などで、国内線事業は大きな成長が期待できない」と現状を指摘。「航空会社は多くの費用がドル建てで非常に厳しく、航空機も、燃料も、整備も、部品も、いずれも価格が上がる。新幹線との競争もあり、運賃を上げてイールドを確保することも難しく、国内航空自体の構造改革をしなければならないので会議を設定した」と趣旨を説明し、「どうすればネットワークを維持していくことができるか、という観点で御議論をお願いしたい」とあいさつした。
◆新幹線好む訪日客
大手2社は旺盛なインバウンド需要を取り込んでいるものの、訪日客が日本滞在中に国内線を利用する比率は最大でも4%程度と、国際線から国内線への接続需要の取り込みにつながっていない。
訪日客には、新幹線が物珍しさや利便性の点で好まれている傾向がみられる。国内線で新幹線との競合路線が多い大手2社にとっては、国内線市場での競争による運賃引き上げの難しさに加えて、新たな課題となっている。
ANAの松下正・上席執行役員は「国際線は約5年に1度のイベントリスクがあり、ボラティリティの高い国際線に依存できない」とした上で、「コロナでテレワークが定着し、国内線のビジネス需要が減少してコロナ前の76%までしか回復していない。燃油費など費用が不可逆的に増加している。賃上げで人件費や外部委託費が増加しているが、人的投資を行わないと、人が集まらない」と説明した。
JALの小山雄司・執行役員経営企画本部長も「(コロナ前の国内線は)営業利益全体の4割を占めていた」と、コロナ前の国内線は事業として成立していたが、コロナ後はビジネス需要減少や為替影響、物価上昇に伴い「公的支援がなければ実質利益はない」状況に陥っていると説明。「外貨建て費用が大きく増加し、燃油費は(公的支援を受けて)134%、緩和措置がないと160%くらいまで上がる」と、コロナ前の2018年度を基準とすると、大幅に増加していると述べた。
航空各社に共通する点としては、航空機やエンジン、部品などが世界的な需要増加で値上がりが続いており、調達価格を抑えることが年々困難になっている。
◆高騰するホテル代
有識者会議の委員を務める慶應義塾大学の加藤一誠教授は「グランドハンドリングや保安検査は他業種との競争もあり、賃金を上げないといけない。気になっているのは伊丹路線で、幹線はちょっといいが、ほかは全滅だ」と、大手の伊丹発着路線が一部を除き赤字に陥っている点も、羽田発着の地方路線の厳しさとともに指摘した。
同じく委員の東京科学大学(旧東京工業大学)の花岡伸也教授は「賃金上昇や人口減少は終わることがない不可逆的な変化。一時的な問題とは言えないので、国内航空市場の構造改革を委員会で考えた方がよいのでは」と議論の方向性に言及した。
一方で、「大手2社が国内市場は供給過多と認識されている。本当に供給過多なのか、数字を見て議論した方がいい。競争によって供給が調整される部分もある」(花岡教授)と、国内線を担う航空各社の競争領域と協調領域といった今後のあり方を議論する以前に、路線や地域ごとの需給バランスなどを精査する必要性にふれた。また、「(JRの訪日客向け運賃)ジャパン・レール・パスは、値上げしても航空にシフトしていない」と、訪日客の国内移動手段などを分析した上で、政府が掲げる年間訪日客数6000万人といった目標と国内航空のあり方に目を向けるべきだと述べた。
航空局の有識者会議で委員長を数多く務めてきた東京女子大学の竹内健蔵教授は「経営が厳しいところを集約すると、JALとANAの2極体制に先祖返りしてしまう。規制緩和の趣旨や精神を失ってはいけない」と、2000年の航空法改正にふれた。
インバウンドについては、大手2社から国内のホテル代の高騰が旅行者の旅行費用に大きな影響を与えていると指摘。竹内教授も「せっかくお金を払おうという人(訪日客)がいる」と、外国人価格なども含めた運賃のあり方にも言及し、財源を確保しつつ恒久的な支援策を検討していく必要性を強調した。
航空局の蔵持京治次長は「航空業界が厳しい状況にある、というのがほとんど理解されていないのが現状」と述べ、今後は大手2社以外からも意見を募り、1年ほどかけて対応策を協議していく。
Tadayuki YOSHIKAWA
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