( 295763 ) 2025/06/01 07:23:27 0 00 事故現場(21年9月・北海道苫小牧市)
2021年9月、北海道苫小牧市の交差点で、白バイと衝突し、警察官を死亡させた罪に問われた大型トラックの運転手の上告審で、最高裁は23日、運転手側の上告を棄却する決定をしました。禁錮1年、執行猶予3年とした1、2審判決が確定しました。
この事故は、2021年9月13日、苫小牧市柏原の道道の信号機のない丁字路交差点で、谷口訓(さとし)被告57歳が運転していた大型トラックが右折しようとした際、反対車線を直進してきた白バイと衝突し、白バイに乗っていた男性警察官(当時32)を死亡させたものです。
事故をめぐっては、札幌地検は22年3月に谷口被告を不起訴としましたが、男性警察官の遺族から札幌検察審査会に申し立てがあり、再捜査の結果、23年5月に検察は谷口被告を過失運転致死の罪で在宅起訴しました。
谷口被告側は「時速120キロという高速バイクの接近を予見し、回避することは不可能。サイレンは鳴ってないし、赤色灯もドラレコでははっきりと確認できない。右折の仕方には問題あったが、道交法違反の刑事罰は無関係」として、無罪を主張していました。
1審と2審の判決では、制限速度が60キロの道路を時速118キロで直進してくる白バイを予見する義務はないとする被告側の主張に対し、白バイが時速60キロから80キロで直進してきたとしても右折を完了することはできなかったなどと指摘。
被告に禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決が言い渡され、被告側は上告していました。
【裁判の経緯】
公判で、被告側は「結果は重大だが、時速120キロという高速バイクの接近を予見し、回避することは不可能。サイレンは鳴ってないし、赤色灯もドラレコでははっきりと確認できない。右折の仕方には問題あったが、交通法規違反にとどまり、道交法違反の刑事罰は無関係。被告に過失はない」として、無罪を主張。
これに対し検察は「当時、白バイは警ら中で、赤色灯を点灯させながら118キロで走行していたが、トラックを見つけて88キロまで減速した。サイレンを鳴らさず、118キロ出していたのは、違反車両に存在を察知させないためとも言えて、違法性はなく、責められることもない。被告の『見えた』という表現は信用できず、右折先の反対車線に停止していた車両の“内側”を進行しようとして安全確認を怠り、事故が起きた。刑事責任は重い」として、禁錮1年2か月を求刑。
一方、公判では、北海道警察が事故防止に向けて、白バイに「最高速度を100キロ」とするよう通達していたことも判明しましたが、検察は、通達を18キロも超える速度で走行するほどの緊急性が白バイにあったのかどうかは、説明していませんでした。
去年8月29日、札幌地裁の吉戒純一裁判長は、下記のように指摘した上で「白バイが高速度だったことが重大な結果に及んだことも否定できないが、被告の刑事責任は軽くない」などとして、禁錮1年、執行猶予3年の有罪判決を言い渡しました。
■判決理由(1審・吉戒純一裁判長)
・右折の開始時、車両の有無と車両間の距離を確認すべきで、予見は可能だったし、予見義務もあり ・白バイが高速度で来ていたとしても、直ちに予見可能性から否定されるまでもない ・事故後と公判供述の変遷などから「跨線橋のところに“影”が見えた」は信憑性が高くない ・右折の確認は6秒も前で、意識的に確認していたとは言い難く、注意義務を果たしたとは言い難い ・白バイは高速度で走行していたが、警官の職務に従事中で、さしたる過失はない ・被害結果は重大で、家族の喪失感も深く、処罰感情が重いのも理解できる ・白バイが高速度だったことが重大な結果に及んだことも否定できないが、被告の刑事責任は軽くない
なお、1審の公判で、事故現場に唯一、居合わせた乗用車の男性の証言、被告人質問などは、下記のようになっています。
■事故現場に乗用車で居合わせた男性の証言(1審)
・白バイの赤色灯は点いていたが、サイレンの音は聞いていない ・ドライブレコーダーでは、トラックがウィンカーを点けていたようだが(自分は)見えなかった ・トラックは、真っ直ぐ行くだろうと思った ・太陽がトラックの背にあり、白バイを照らしていた ・衝突の瞬間は見ておらず「バチャーン」という音で気づいた ・トラック運転手は事故直後「白バイを全く確認できていなかった」と自分に話した
■谷口被告への被告人質問(1審)
<弁護人とのやりとり> ・直進の車両を2~3回、確認する中で、遠くに自転車やバイクのような“影”が見えただけ ・あの距離なら曲がれると思って、右折した ・(白バイと認識は?)ありません ・(赤色灯は?)見えません ・(サイレンは?)聞こえません ・事故直後、気が動転していて、警察に「白バイに気づいてなかった」と話した ・帰宅して落ち着いたら、遠くに見えていたことを思い出したので、証言を変えた ・検察からは「見えなかったんだろ?見えた、見えないは、どうでもいい」などとまくし立てられたが「最初は見えた」と話した ・事故直後の状況は、はっきりとは覚えていない ・あの日は仕事で、苫小牧市から雨竜町に向かっていた ・週に1回ほど通る道、時速60キロほどで走行し、右折時は40キロほど ・右折先の乗用車が停止線から出ていて、曲がり切れなさそうだと思い、やむなく内回りしたが、不適切だった
<検察とのやりとり> ・(影を確認してから、どれくらい?)4~5秒あった ・(影を見てから、ずっと影を見続けた?)ずっと見ていたわけではない ・(影が見えた場所は?)橋があって、カーブがあったところの先 ・(対向車の速度は?)わからない ・(対向車との距離は?)わからない ・(実況見分で、白バイが2回見えた旨の説明した?)覚えていない ・(先に曲がろうとしたのは、なぜ?)影が見えて、あの距離なら曲がれるだろうと思った
<裁判長とのやりとり> ・(影のようなものは、どのように確認?)パッと見ではなく、正面を見て ・(ハンドル切る直前の確認は?)記憶がないです…
【控訴審】 谷口被告側は、過失を認定した地裁判決について、事実誤認や法令適用の誤りがあるとして控訴。
今年2月20日、札幌高裁の青沼潔裁判長は「右折6秒前に前方確認し、影のようなものが見えたという被告の供述を信用するとしても、車両の速度や種類は確認できておらず、注意義務は果たせていない」と指摘。
また、「右折開始の直前に前方確認する義務を尽くしていれば、結果を回避する可能性があった」として、弁護側の控訴を棄却しました。
北海道放送(株)
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