( 295833 )  2025/06/02 03:58:41  
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(提供:@419_kankan/左)(提供:@taka_parasleep/右) 

 

 街中でブランドのロゴなどが印字された、不自然なほどに巨大なショッパー(紙袋)を提げて歩く若者の姿を見かけることはありませんか?  

 

 店では、購入した商品にちょうどいいサイズのショッパーが渡されるのが通常です。商品を購入した時、適したサイズのショッパーがたまたま切れており、大きなサイズの紙袋を持ち歩くはめになれば、邪魔に感じることでしょう。 

 

 ところが最近、あえて購入した商品に見合わないサイズの巨大ショッパーを提供するお店が増え、Z世代女子がそれに飛びつくようになっているようなのです。 

 

 その理由について現役女子大生が解説します。 

 

■インフルエンサーを疑似体験 

 

 Z世代の間で「巨大ショッパー」を持ち歩くのがトレンドになっている。街中で目を引くその姿には、インフルエンサーという憧れの立場を擬似体験したいというZ世代の思いが反映されている。 

 

 近年、SNS上では、GENTLE MONSTER、Arencia、JUDYDOLLなどの人気ブランドが、インフルエンサーに限定して、スキンケアアイテム、コスメ、サングラスのパッケージなど“巨大化アイテム”を提供してきた。それを手にしたインフルエンサーたちが自身のSNS投稿をすることで、会社にとってもPRになるのだ。 

 

 しかし、一般人には、こうした巨大アイテムを手にすることは不可能だ。企業がPR案件を依頼するのは、一定数以上のフォロワー数や影響力を持つインフルエンサーに限られている。フォロワーが少ない一般人は、そうした機会が羨ましくても得ることができないのが実情だ。 

 

 こうしたZ世代のニーズをどの程度汲み取っていたのかは定かではないが、商品を買うと、巨大ショッパーの中にその商品を入れてくれる店が増えてきた。 

 

 Z世代女子としても、ブランドのロゴが目立つ巨大ショッパーを繁華街で持ち歩くことで、周囲の視線を集め、あたかも自分がブランドのPRに参加しているインフルエンサーのような気分を味わうことができるのだ。 

 

 

■巨大ショッパーがもらえる店 

 

事例① OLD ORDER 

 2019年よりストリートカルチャーやスケートボーディングへのリスペクトを込めて始動した中国発のハイエンドスニーカーブランド。定番商品の「Turbo GT(ターボGT)」を、大人気韓国アイドルグループaespaのメンバーが着用したことなどから、今、Z世代の間で人気が高まっている。 

 

 2024年11月30日に原宿に店舗をオープンし、日本初上陸を果たした。オープンを記念して、11月29日にはハローキティとの豪華コラボグッズがもらえるスペシャルイベントが先行開催され、4万円以上購入した人には、限定500枚の特大ショッピングバッグがプレゼントされた。 

 

事例② Urban Sophistication  

 2016年にイスラエル出身のElad Yam氏とNeta Yam氏の兄妹によって設立されたブランド。「日常のオブジェクトを再解釈して、ユニークな体験を」のブランド理念のもと創り出されるiPhoneケースやファッションアイテムは、ジャスティン・ビーバーやセレーナ・ゴメス、aespa、TWICE、IVEのメンバーが愛用している。 

 

 2024年7月25日にラフォーレ原宿に世界初の常設展「Urban Sophistication Tokyo」がオープンし、500枚限定で幅約1メートルのショッパーがもらえた。 

 

■企業側にとってもメリットは大きい 

 

 SNS全盛期の今、スマートフォン1つで誰もが発信者になれる時代になった。とはいえ、企業からPR案件を依頼されるのはフォロワー数の多い、ごく一部のインフルエンサーに限られており、多くのZ世代は「企業に選ばれる存在」になることへ憧れを抱いている。 

 

 そうした中、フォロワー数や影響力といった条件に左右されず、「ブランドのPRに自分も参加できた」と感じることのできる、「巨大ショッパー持ち歩き体験」は、Z世代の一般人にとって特別な意味がある。もちろん、それは疑似体験にすぎないが、自己肯定感を上げることに繋がるのだ。 

 

 

 また、お店やブランド側にとっても、この巨大ショッパーは新しい可能性を秘めている。巨大ショッパーを1つ提供するだけで、多数のZ世代たちがSNS上に、持ち歩く自身の姿を掲載してくれるようになるし(それぞれのフォロワー数は多くはないが……)、頼まなくても街に出て人に見せびらかしてくれる。 

 

 これまでのように巨額な広告費やインフルエンサーたちにPR費を払わなくとも、自然と多くの人の目に触れることになり、“歩く広告塔”として機能してくれるという、新しいプロモーション手段となりえるのだ。 

 

 この巨大ショッパーは、ブランドと若者の双方にとってメリットのあるアイテムとして今後、他のブランドにも広がっていくかもしれない。 

 

 現役女子大生たちがレポートしてくれた、「巨大ショッパー現象」はいかがでしたでしょうか?  

 

 タレントさんやインフルエンサーさんの擬似体験をしたい若者が増えているであろうことは理解できても、「巨大ショッパーを街中で持ち歩くのは邪魔ではないか?」と思われる方もいるかもしれません。 

 

 なぜ若者はSNSへの投稿に飽き足らず、街中でリアルに周囲の視線を集めようとするのか?  これにはZ世代におけるSNSの利用法の変化に関係がありそうです。 

 

 最近は炎上やプライバシー意識の高まりもあり、15年ほど前の普及当時と比べ、SNSはオープンなものではなくなってきています。 

 

 私の調査でも、平均するとZ世代は1人あたりXやインスタのアカウント数も、2個近く保有しています。不特定多数に見られても問題ない本垢(表のアカウント。何も投稿しないか、無難なものしか載せていない人が多い)と、親しい人にだけ見せる裏垢(裏のアカウントの意味で、親しい人にしか見られないので自由に投稿することができる)を保有しているのです。 

 

 そして、Z世代の間で利用者が急増しているBe Real.というSNSも、自分が承認した相手としか繋がらないので、Xやインスタの裏垢同様、親しい人にしか投稿が見られないような仕組みになっています。 

 

 これらSNSの人間関係を制限する機能の発達・普及により、炎上や見られたくない人にも投稿が見られてしまうといったリスクが減ってきています。 

 

■リアルな場の重要性が高まっている 

 

 しかし、それは、インフルエンサーの擬似体験をしたい時など、公に見せびらかすことのできる場も減っていることを意味するわけです。 

 

 多くの人に見てもらいたいシーンなどでは逆に「リアルな場」の重要性が高まっており、そうした時に巨大ショッパーは大きな役割を果たすようになっています。そのため、Z世代は、持ち運ぶ時に多少邪魔な巨大サイズであっても喜んで、繁華街で巨大ショッパーを持ち歩きたくなってきているのです。 

 

 今後も巨大ショッパーのみならず、それ以外の大きなサイズのアイテム、あるいは、リアルな街中でZ世代が目立つことのできる広告ツールが、さまざまな企業に求められるようになっていくことでしょう。 

 

原田 曜平 :芝浦工業大学デザイン工学部UXコース教授 

 

 

 
 

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