( 296148 )  2025/06/03 05:03:57  
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違法民泊摘発のため晴海フラッグに立入調査に入る月島署の捜査員ら 

 

 東京都の一大プロジェクトとして東京2020オリンピックの選手村(中央区)を改修して売り出されたマンション群「HARUMI FLAG(晴海フラッグ)」。2024年1月に入居が開始されたが、一帯にはある異変が起きていた。中国人絡みのトラブルが続出、ヤミ民泊が横行し、それを阻止しようと「禁止」の張り紙が溢れる状況となっているのだ。ジャーナリスト・赤石晋一郎氏がレポートする。【全3回の第3回。全文を読む】 

 

 晴海フラッグにはいくつかの違法民泊グループがあると見られているが、その一つとして警察も注視しているのが、中国系企業Y社だ。 

 

 所在地は上野の雑居ビルの一室。看板はなく小さな共同メールボックスに名前があるだけ。Y社の前代表は中国人、現在の代表は日本人名のX氏となっているが、不動産業者によれば「X氏は中国語訛りの拙い日本語を話す」という。 

 

 ある捜査関係者は「X氏は警察からマークされている」と語る。複数の捜査情報を整理すると、X氏の“違法民泊のスキーム”は次のようなものであることが分かった。 

 

 晴海フラッグでは投資目的で購入された部屋が多数あると社会問題化した。居住実態のない部屋が3割近くあると言われ、こうした空部屋の多くは賃貸募集がかけられている。X氏らはそこに目を付けて、サブリースで10部屋前後を一括で借り上げている。そこで中国人観光客相手の違法民泊を行なっているのではないかと見られているのだ。 

 

「X氏自身も晴海フラッグに2部屋を所有し、そこに居を構え中国人で構成されている違法民泊部隊への指示を行なっている。X氏はロン毛の優男風情で元会社員という経歴。現在はテスラを乗り回すなど、かなり羽振りのいい生活をしているようだ」(前出・捜査関係者) 

 

 4月15日にはX氏が管理する部屋を対象に、月島署と保健所の捜査員約10名がチームを組み、違法民泊摘発のための立入調査が行なわれた。 

 

「捜査員が各住戸を訪ね歩いたがほとんど応答がなく空振り。唯一、扉が開いた部屋も、出てきた中国人に『親戚です』と言われてそれ以上は手出しが出来なかった」(同前) 

 

 違法民泊問題に詳しいマンション管理士の飯田勝啓氏が指摘する。 

 

「違法民泊の利用者には『ハウスルール』という利用の際の規定があり、『外部からの来訪には出ない』や『外部の者と接触する際は“親族”と答える』などと規定されている。ただの訪問ではなく、警察が本腰を入れて捜査を行なわない限り撲滅するのは難しい。違法民泊は5年前に厳罰化(旅館業法違反)され激減した。晴海フラッグのように野放しになっているケースは珍しい」 

 

 

 そこで疑惑のX氏に電話をかけ、中国語で話を聞いた(※以下、すべて中国語でのやり取り)。 

 

──Xさんですか? 

「あー、何ですか?」 

 

──週刊ポストの取材です。晴海フラッグで違法民泊をやってますよね? 

「やってないです!」 

 

──(晴海フラッグに)住んでいるだけですか? 

「そう、そう、そう」 

 

──白タクやレストラン、リネンサービスの店をやってないですか? 

「やってないやってない。何の用ですか? いま海外なんですけど」 

 

──いま中国ですか? 

「はい」 

 

──晴海フラッグで民泊をしている人がいると聞いて、詳細を聞きたい。 

「知らない知らない。そんなのやったことない」 

 

──じゃあお仕事は何関係をしているんですか? 

「ああうぜえ、お前このクソッタレ! どこのクソッタレだよ」 

 

 そこで電話は切られた。 

 

 なぜこんな状況が生まれたのか。石島秀起・東京都議(自民党)が語る。 

 

「売れるならとどこでも売った不動産会社と、違法民泊対策が全くない東京都に問題がある。中央区の中国人人口は2倍強に急増しており、今後も違法民泊が増え続ける可能性がある。東京都に働きかけ、責任ある対応を取るよう訴えていくつもりでいます」 

 

 晴海フラッグ開発を主導した都に対策などを訊くと、概ねこう回答した。 

 

「都は子育てファミリー層向けを中心としたまちづくりをコンセプトとして示している。(違法民泊など)敷地内での違法行為については、住民や管理組合が区や所轄警察署に通報していると聞いています」(都市整備局) 

 

 晴海フラッグの開発・販売に携わった三井不動産、三菱地所、野村不動産に見解を訊くと、3社とも以下の回答を寄せた。 

 

「管理規約は、販売時に民泊禁止を定めた内容で案を作成し、管理組合様にて承認されております。管理規約に反する行為に対しては、管理組合様と管理会社にて相談のうえ対応しております。今後も必要に応じて関係各所とも連携しながら、適切に対応してまいります」 

 

 東京五輪のレガシーを都民の貴重な財産として未来に引き継ぐ──その理念が、チャイナタウン化する街からは跡形もなく消え去ろうとしている。 

 

【プロフィール】 

赤石晋一郎(あかいし・しんいちろう)/ジャーナリスト。「FRIDAY」「週刊文春」記者を経て2019年よりフリーに。近著に『韓国人、韓国を叱る 日韓歴史問題の新証言者たち』(小学館新書)、『完落ち 警視庁捜査一課「取調室」秘録』(文藝春秋)。『元文春記者チャンネル』をYouTubeにて配信中。Xアカウントは【@red0101a】。 

 

取材協力/西谷格(ノンフィクションライター) 

 

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 関連記事『【スクープルポ】旧五輪選手村「晴海フラッグ」がチャイナタウン化 “ヤミ民泊”横行で溢れる「禁止」の張り紙、“白タク送迎”“ヤミ中華宅配”の疑惑…困り果てる住民の嘆き』では、白タクなど中国人絡みのトラブルが続出している現状や違法民泊グループの代表X氏への直撃など、赤石氏のレポート全文を紹介している。 

 

※週刊ポスト2025年6月6・13日号 

 

 

 
 

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