( 296973 ) 2025/06/06 06:25:33 0 00 台湾のTSMCが、日本企業と共同出資して設立したJASM(写真:松尾/アフロ)
「日本は北朝鮮のすぐ下の196位」と聞いて、何の話なのか見当がつく方は多くないかもしれない。種明かしをすると、2023年時点におけるGDPに占める対内直接投資(以下FDI)の割合だ。平たく言えば、対GDP比で、海外企業が日本国内で事業を展開したり、既存の日本企業株式の取得(一般的には10%以上)する割合が北朝鮮より低かったのだ(※)。
※国連貿易開発会議(UNCTAD)調べ
実は4年前、私は同様の主旨の記事を東洋経済オンラインで書いた。当時も日本は北朝鮮に次ぐ196位だったが、依然として196位のまま。2023年時点の累積FDIは対GDP比で5.89%にすぎない。
数十年も前に、19のOECD諸国を対象にした研究で、FDIが多い国ほど生産性の向上が促されることが確認されている。その理由として、ある研究者は、「外国企業の知識は国内企業にとって、しばしば新しいものだから」であることを挙げている。
■政府目標は達成可能か?
日本政府は、2021年、2030年までに累積FDIが80兆円に達すると予測した。そして2023年には、その2030年の目標を100兆円に引き上げた。さらに、まるでオークションのように、石破政権は120兆円というさらに高い目標を検討している。
この後者の目標は、IMFの2030年GDP予測が正しければ、名目GDPの17%に相当する。仮に2023年に17%に達していたとして(現実は5.9%)、日本はようやく199カ国中175位になる。ちなみにトップ10は以下の国・地域だ。
さらに問題なのは、財務省(MOF)がFDI会計の国際ルールを無視して日本の数値を水増ししている点だ。
その結果、財務省は2024年に日本の対内FDIの累積ストックが53兆円に達したと主張している。しかし、IMFとOECDが定めた会計ルールに基づくと、UNCTADのウェブサイトで示されているように、実際のストックは36兆円、つまりGDPの5.9%にすぎないのだ。
この差はなぜ生じるのだろうか?
財務省は、IMFとOECDが明確に計上すべきでないとしているものをFDIの一部として計上している。具体的には、海外の関連会社から日本の子会社への貸し付けだ。これらの貸し付けは、国際収支における資金の流れを分析する際には計上される。だが、OECDのスポークスマンは、国のFDIを時系列で比較したり、他国と比較したりする際には計上すべきでないことを明確に述べている。
真のFDIとは、外国企業による日本への投資を指し、企業内貸し付けではない。だが、時間経過とともに、日本企業内の企業内貸し付けは、財務省が計上する「流入FDI」の割合としてますます大きなシェアを占めるようになった。
2014年の3.2兆円から2024年には18兆円に増加している。実際、2014年から2024年までのFDIの増加分の約半分は、このような計上された貸し付け金から来ているのだ。
■円安が統計的錯覚を生み出す
円建てで測定した場合、FDIの成長率が実際よりも大きく見えるもう一つの要因がある。これば財務省が数字を操作しているわけではない。代わりに、円の大幅な下落によって生じた統計的錯覚なのだ。
投資家は投資を行うために、ドルやユーロなどを円に換算する必要がある。UNCTADやIMFなどは、投資されたドル額を測定している。円が弱含むと、円建てで測定した際の成長率が歪曲されるのだ。
2020年から2023年までのUNCTADのデータによると、対内FDIの残高は実際には約1%減少(250億ドルから247億ドル)している。しかし、その期間中に円が1ドルあたり107円から141円に下落したため、2024年に流入する1ドルは2024年よりも31%多くの円を購入できた。したがって、円建てでは、対内直接投資の残高は27兆円から35兆円に増加したように見えるのだ。
では、もしアベノミクスの政策下で2014年から2024年にかけて円が意図的に弱体化されていなかったら、状況はどのように見えていただろうか?
2014年、国際ルールに従って適切に測定された対内直接投資は、日本の名目GDPの4%に相当した。円安のおかげで、対内直接投資はGDPの5.9%に上昇したように見えたのだ。しかし、もし円が安くなっていなかったら、ドルで流入した金額は円換算でGDPの4.4%に相当し、5.9%ではなかった。
円高となれば、逆の影響が生じる。流入するドルはより少ない円に換算され、円換算でのFDIのGDP比率はそれほど増加しないのだ。円が十分に強くなれば、ドル建てでは増加していても、円換算ではFDIが減少する可能性すらある。
■海外では健全な企業が買収されるが…
2023年、政府はより多くのFDIを誘致するための最新の「行動計画」を発表した。しかし、過去の計画と同様、最も重要な要因が欠落しているのだ。それは、外国人投資家が購入したい企業のほとんどが売却対象になっていないという点だ。
日本政府がFDIを考える際、主に外国企業が日本国内で新規事業を展開することを望んでいる。例えば、熊本のTSMCの半導体工場のようなケースがそうだ。しかし、先進国ではFDIの85%以上が、外国企業が健全な国内企業を買収する形態なのだ。このような買収は日本ではまれだ。
日本は、大規模で裕福な市場、高度な教育を受けた労働力と顧客層、潜在的なサプライヤーやパートナーの高い技術力など、外国企業にとって明らかに魅力的な国だ。2025年の「FDI信頼度調査」で、世界中の経営幹部を対象にした調査では、日本は投資先として4番目に魅力的な国にランクインしたのだ。
メディアには、ルノーの日産への投資やフォックスコンのシャープ買収のような巨額の救済買収の事例があふれている。しかし、外国企業の買収対象となる日本の企業は、通常、救済を必要とする企業ではない。
むしろ、業界の平均的な企業よりも高い利益率、優れた技術力、新しい実践を採用する意欲が高い企業なのだ。外国企業は比較的規模の大きい企業を選択している。1996年から2020年までの間、外国企業は株式市場で非グループ企業に112億ドルを支払っている。
■魅力的な企業は囲われている
残念ながら、最も魅力的な標的は、垂直統合型の企業グループである「ケイレツ」に属しているため、手の届かない存在なのだ。日本の2万6000の親会社とその5万6000の関連会社は、日本の全従業員の3分の1に当たる1800万人を雇用している。1996年から2020年までの期間中、外国企業は企業グループに属するわずか57社しか買えなかった。
一方、非関連企業は約3000社を買えた。国内の買い手は同期間中にほぼ4万社を買収している。国内の買収対象は、救済が必要な小規模企業が多く、例えば買収した上場企業グループの平均価格はわずか170億円だった。一方、外国投資家は平均2650億円の規模で、より大規模で健全な企業を買収したのだ。
リチャード・カッツ :東洋経済 特約記者(在ニューヨーク)
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