( 297138 )  2025/06/07 04:55:04  
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小泉進次郎農水相 

 

【全2回(前編/後編)の前編】 

 

 昨年の総選挙惨敗で選挙対策委員長を辞して以来、鳴りを潜めていた小泉進次郎氏(44)が“コメ担当相”として表舞台に復帰した。連日、メディアで備蓄米は「5キロ2000円」だと連呼。父親譲りのワンフレーズでアピールするが、専門家らは疑いの目を向けるのだ。 

 

 *** 

 

 大臣に就任して以来、小泉進次郎新農水相の姿がテレビに映らない日は一日たりともない。着任の2日後、5月23日にはNHKのニュースウオッチ9に冒頭から出演。父親同様の歯切れ良い口調で、 

 

「政府の新たな随意契約による備蓄米は5キロで2000円。2000円台ではなく2000円、こういった価格で売り渡しをしていきたい」 

 

 と述べ、店頭に並べる備蓄米の価格を現在のコメ流通価格の半額程度に設定する方針を強調したのである。 

 

石破茂首相 

 

 前任の江藤拓農水相(64)は“コメは買ったことがない”との失言の責任を取って5月21日に辞任した。だが、官邸は当初、江藤氏を留任させる方針だった。 

 

「森山裕幹事長(80)は同じ九州地方の出身で農林族の江藤氏を最後まで擁護する姿勢でした。石破茂首相(68)もその意向をむげにはできなかったのです」 

 

 とは政治部デスク。 

 

「流れが変わったのは20日午後です。その日の午前中の参院農林水産委員会で、江藤氏が“宮崎弁的な言い方”と失言を重ねた。結果、国民民主党も強硬姿勢に転じて、5野党による江藤氏の不信任決議が現実味を帯びたのです。20日夕刻には辞任の流れが出来上がっていました」(同) 

 

 20日夜、森山幹事長が進次郎氏に農水相の就任を打診。進次郎氏自身が、その時のやり取りを記者団にこう明かしている。 

 

「森山幹事長から打診を受けた際に“この局面で大事なことは、組織団体に忖度しない判断をすることだと思うが、よろしいですか”といった話をさせていただいた。族とか非主流派とかそういったことを抜きに、今誰もが思っていることは、コメの価格の高騰と、そして今マーケットに足りているかどうかという不安を解消したい」 

 

 前出のデスクの解説。 

 

「進次郎氏は自民党の農林部会長時代の2016年にJAグループの改革に取り組んでいます。農林族のドン・森山幹事長とは農水行政に関する考え方で隔たりがあるのは重々承知している。だからこそ、JAや農林族に遠慮せずに米価対策に取り組むため、あらかじめ森山幹事長に確認したのでしょう。森山幹事長も“問題ない”と応じたそうです」 

 

 

 だが、一筋縄ではいかないのが森山幹事長である。 

 

 自民党関係者が明かす。 

 

「森山幹事長は進次郎の祖父・小泉純也元防衛庁長官が同郷の鹿児島出身だった関係から進次郎には目をかけていて、昨年の総裁選でも支援に回っています。決して関係が悪いわけではないのですが、農政改革派である進次郎が農水相に就任するとなると話は別です。森山幹事長の意中の候補は、齋藤健前経産相(65)や宮下一郎元農水相(66)といった農水相経験者で進次郎ではありませんでした」 

 

 続けて言うには、 

 

「進次郎の起用に前のめりだったのは石破首相なんです。コメ対策に当たる進次郎が政権の命運を握ったと言っても過言ではないのですが、森山幹事長は周囲に“張り切り過ぎるのも困りますね”と渋面を作っています。特に、進次郎が農林部会長時代に共にJAグループの改革に取り組んだ奥原正明元農水次官(69)をブレーンに招かないか、警戒しています」 

 

 政治ジャーナリストの青山和弘氏も言う。 

 

「森山幹事長は5月24日に開催された自民党宮崎県連大会の講演会で、コメの価格に関して“安ければいいというものではない”と発言しました。小泉農水相に対するけん制とも受け取れる言葉です。実際、森山幹事長は周りに“進次郎に変なことはさせないですから”と話しており、自分が手綱を握らねばならないと考えているようです」 

 

 そこで、森山幹事長本人に話を聞くと、 

 

「進次郎さんは発信力もありますし、農林部会長もやっていましたから全くの素人ではなく経験があります。JAの関係者の中にはアレルギーのある方も一部いるかもしれませんが、誤解もあるでしょう。気にする必要はないと思いますよ」 

 

 と、小泉農水相にエールを送るのである。さらに、 

 

「今度放出することにした令和4年産の備蓄米については、まず大手流通と2000円台で販売できるような随意契約を交わして売りますので、2000円ちょっとで間違いなく出回ると思います」 

 

 とも語り、小泉農水相の方針を後押しするのだが、 

 

「今回の2000円台というのは4年産の備蓄米のことであって、新米ではありません。そこは農家さんもよく分かっていると思います。新米は新米で、適正な価格で販売していかなければなりません。今まで新米はあまりにも安過ぎましたが、米価が高騰するのも農家は望んではいません。新米は5キロ2800円から3000円くらいが生産費も賄える適正な価格だと思います」 

 

 あくまで、小泉農水相が示す「2000円」という数字は備蓄米に限ったもので、新米の値段には当てはまらないとくぎを刺すことも忘れないのだ。 

 

 

 しかし、前出のデスクは、 

 

「小泉農水相は各局の番組などでまるでバナナのたたき売りのように『5キロ2000円』と繰り返しており、国民に新米の価格も下がるかのような誤解を与えているとの声も上がっています」 

 

 と指摘する。 

 

「小泉純一郎元首相も『自民党をぶっ壊す』など、強い印象を与える短いフレーズを使って、自身の政治姿勢を印象付ける“ワンフレーズ・ポリティクス”を得意としました。小泉農水相が『5キロ2000円』を連呼するやり方は、父親の政治手法を踏襲したものだといえます」(同) 

 

 この点、先の青山氏も、 

 

「たしかに、小泉農水相のやり方は小泉元首相の郵政改革を彷彿させるものです。小泉元首相は特定郵便局長会という業界団体を相手に大立ち回りを演じましたが、小泉農水相も農水省や業界団体のJAが進めてきた備蓄米の競争入札方式を随意契約方式に大きく転換し、改革姿勢をアピールする狙いがあります」 

 

 前出のデスクが重ねて言う。 

 

「小泉農水相は大臣就任の直前まで自民党の政治改革本部の事務局長として企業・団体献金の見直しに関する議論を取り仕切る立場にありましたが、実際は企業・団体献金の禁止に後ろ向きな党の姿勢を代弁して“禁止より公開”という言葉を繰り返していただけで、なにもできませんでした。企業・団体献金の見直しは先送りの気配が濃厚です」 

 

 政治アナリストの伊藤惇夫氏は手厳しい。 

 

「小泉農水相は父親譲りのアピール力で、国民に期待感を持たせるのは抜群にうまいのですが、実行力は正直心もとない印象です。農林部会長時代にはJAグループの改革に乗り出したものの、最終的に提言は骨抜きになりましたし、環境相時代もポリ袋を有料化したくらいで功績はありません。ワンフレーズで国民を引きつけるのはいいですが、実態が伴わなければ結果的に国民をだますことになります」 

 

 後編【「JAは供給量を絞る可能性が高い」 備蓄米放出でもコメ全体の値段が下がらない理由 小泉進次郎氏の農水相就任に叔父は「予感が当たっちゃった」と歓喜】では、備蓄米放出でもコメ全体の価格が変わらない理由などについて詳しく報じる。 

 

「週刊新潮」2025年6月5日号 掲載 

 

新潮社 

 

 

 
 

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