( 297458 )  2025/06/08 05:50:39  
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どんどん高くなっている印象のココイチ。今や3000円を超えるメニューもあるなど、「高級カレー店化」が進んでいる(筆者撮影) 

 

 CoCo壱番屋に「3280円のカレー」があるらしい。メニューの名前は、 

 

 「ホロ肉ドカンとガーリック&ペッパーカレー」 

 

 いったい、どんなカレーなのだろう。ルーにこだわっているのか、高級食材を使ったトッピングが乗っているのか、はたまた超大盛りなのか……。いろんな想像が膨らむが、とにかく行ってみよう。 

 

 今回は、ココイチの「3280円カレー」を食べながら、CoCo壱番屋の「今の姿」を考えてみた。 

 

■変わらないココイチ、値段だけ変わった?  

 

 さっそく店に訪れてみた。思い返すと、最近ココイチ行ってないかも。久々に訪れた店の看板は、昔と変わらず黄色に光っていた。 

 

【画像16枚】高い? 妥当? ココイチの「3280円カレー」はこんな感じ 

 

 店内に入ると、内装は変わらず、昔のまま。茶色を基調としたシックな店内に、レジ横にはマンガが並ぶ。この、アットホーム感が、なんだかいい。 

 

 唯一変わったのは「お値段」。メニューを見ると、プレーンのカレーは税込646円。ココイチといえばトッピングだから、ここにいろいろつけると簡単に1000円を超えてしまう。「カレー1000円の壁」ってところか。 

 

■「3280円カレー」はこんな感じ 

 

 そんな中でも一際異彩を放っているのが、「3280円カレー」だ。 

 

 これは「ホロ肉ドカンとガーリック&ペッパーカレー」というメニューで、そのトッピングの肉をMaxにした時の値段である。 

 

 このカレーは肉のトッピング量、通称「肉塊レベル」が1から4まで選べる。レベル1では一つの肉の塊がカレーにトッピングされているのに対し、レベル4ではその量が2.5倍になっている。ちょっとした大食いメニューである。 

 

 レベル1は税込1690円で、レベル2は税込2220円、そして最上級の肉塊レベル4が税込3280円なのである。 

 

 もっとも量が少ないレベル1でも1690円なのだから、かなり強気の値段設定と言ってよさそうだ。 

 

■肉塊とご対面 

 

 さっそく、「肉塊LEVEL4」を注文。これを頼む猛者はなかなかいないらしく、厨房がザワついていた。 

 

 待つこと10分ほど。肉塊がやってきた。それがこちら。 

 

 圧巻である。肉の上に乗るのは、フライドガーリックとペッパー。カレーのスパイシーな匂いに混ざって、ペッパーのはじけるような匂いも感じる。 

 

 

 さっそく食べてみよう。肉は豚肩ロース肉。結構なお値段だが、さすがに牛ではない。 

 

 しかし、スプーンを入れるとほろっと肉がくずれて、カレーのルーにとけていく。 

 

 肉はトロトロとしているが、しっかりと食べ応えはあり、噛むと甘い肉汁が口を支配する。 

 

 そこにカレーのルーとフライドガーリックをほうりこむ。辛さと香ばしさを甘さが迎え入れる。正直、食べる前は「どんなもんじゃい」と思っていたのも事実なのだが、実際に食べてみるとチェーンのカレー店とは思えない、プレミアム感。予想外の(? )、至福のひとときを過ごすことができた。 

 

■味わうだけなら、レベル1で十分かも 

 

 しかし、レベル4は味だけでなく、量もすごい。肉塊を2個制覇したぐらいから、だんだんと腹に翳りが見える。 

 

 これ、オススメは複数人で1プレートを頼んでシェアするのがいいかもしれない。まあ、レベル1にすればその悩みは最初からないのだが……。 

 

 食べつつちょっと休憩……と思ってメニューに目をやると、メニューの説明が堂々と書いてある。 

 

 ココイチがこのメニューにかける自信のほどがうかがえるようだ。 

 

 休憩しつつ、おなかがいっぱいいっぱいになりながらも、なんとか完食することができた。 

 

■「高付加価値」な店を目指すココイチ 

 

 ココイチで3280円とは、かなり攻めた値段設定である。 

 

 この背景には、最近のココイチが「高付加価値路線」を目指していることがある。ココイチを運営する壱番屋の2025年2月期決算では「営業施策」として、さまざまな期間限定メニューが紹介されている。 

 

 「カシミールチキンカリー」や「ローストチキンスープカレー」など、普通のカレーとはテイストの異なるメニューを立て続けに開発しているのだ。 

 

 今回の「肉塊カレー」も2024年から提供されており、そこでの人気からシリーズ化。登場するのは半年ぶり5回目で(毎回名前が変わっていることに注意)、初回はレベル3までしかなく、2371円が一番高いメニューだった。 

 

 こうしたカレーは素材にこだわっていたり、プレミアム感があったりして、往々にして少し値段が張る。それでも来たくなるメニューを目指しているのだろう。 

 

 これら「高付加価値路線」と連動するように、ココイチはここ数年でたびたび、グランドメニューの値上げを実施している。 

 

 

 喫緊では、昨年8月の値上げがある。これによって、同社のメニューの中でもっともシンプルなポークカレー(ライス300g)は、東京都・神奈川県・大阪府で591円から646円と55円の値上げ。その他の地域では570円から646円と76円の値上げになっている。かなり攻めた値上げ幅である。 

 

 また、カレー以外のトッピングも、50種類のうち45種類が平均13.5%の値上げとなり、トッピングとカレーを合わせるとさらに値段は高くなる。 

 

 それ以前にも、2022年の6月と12月にもグランドメニューの改定が、2023年12月にはウーバーイーツなどの配達代行価格の改定、2024年3月にはテイクアウト価格の改定が行われた。 

 

 イートイン、テイクアウト、デリバリーを合わせると、3年で5回の値上げが行われているわけだ。 

 

 こうした値上げの背景には、相次ぐ原材料費の値上げや人件費の高騰などの要因がある。一方で、そのように値上げをしても「選ばれるカレー店」になろうとする同社の思惑もある(と筆者は感じている)。 

 

 だからこその「高付加価値メニュー」だし、「高くてもココイチだから行こう」という状態を作り出そうとしているのだ。ここで紹介した「ホロ肉ドカンとガーリック&ペッパーカレー」もまさにそんなメニューの一環だろう。 

 

■一方でココイチから離れる人も?  

 

 一方で、こうした「値上げ」の波から離脱する人が出てきていることもまた事実だ。 

 

 同社が毎月発表している月次データによれば、客数は昨年9月から8カ月連続で前年割れを起こしている。 

 

 同社は、この客足の減少に伴う利益減の理由について「配達代行やテイクアウトの注文数が減少」したことを挙げているが、グランドメニュー改定を行った8月以降から前年割れが始まっていることを見ると、この改定が及ぼしている影響が大きいことは容易に想像がつく。 

 

 もっとも、ココイチはそのように客足が減ってはいても2025年2月期決算では営業利益が前年より2.1億円もアップしており、経営には何ら問題がない。 

 

 それでも、同決算の数値は計画よりも下振れしており、「完全に好調」とまではいえなくなってきたことも確かである。 

 

 

 それまで、ココイチはどちらかといえば値上げをしても客足が離れず、「値上げの優等生」と見られていた側面もある。 

 

企業調査の分析広報研究所・小島一郎チーフアナリストは日経ビジネスの取材に対して「ココイチは外食業界の中でも先んじて値上げを実施してきたが、消費者側が上昇する価格に追いつくことができなくなっているのではないか」と述べている(ココイチ、カツカレー1000円で遠のく客足 限界近づく外食の値上げ)。 

 

 相次ぐ値上げと高付加価値路線に対し、「この価格ならココイチ行ってもいいな」と考える層の離脱が始まっている可能性があるのだ。 

 

■ココイチは今、変化している最中だ 

 

 以前、私が上記のようなココイチの状況を書いたとき、ネット上では「ココイチはもう庶民の味方ではなくなった」というようなコメントが相次いだ。 

 

 その数はあまりにも多く(Yahoo! のコメントでは5000件近くのコメントが集まっていた)、少なくない人がココイチの値上げに対して思うところがあるんだな……と感じた。 

 

 ただ、だからといってココイチがよくない、と言うつもりはまったくない。むしろ、これまでのように「少々安めで客を多く取って利益を上げる」モデルから「客単価を上げて利益を取っていく」モデルへと方向転換をしようとしているのが現在のココイチだろう。 

 

 「薄利多売」から「厚利少売」モデルへの進路変更だ。現に利益は上がっているのだから、これは企業の選択として間違っているものではない。 

 

 企業である以上、利益を求めるのは大事なことだ。庶民の味方でい続けて儲からないなら、「ココイチに1000円?  高すぎ」と言う消費者は、もう過去に置いていくしかないのだ。 

 

 大事なのは「選択と集中」。置いて行かれる庶民にとってはなんとも残酷な現実だが、そもそも物価高騰の昨今だし、とりわけ米の価格上昇は誰もが知るところだ(もちろん、高くなることと、高級化路線に見合う商品を提供できているかは別の話だが)。 

 

 そんなココイチの“大転換”を顕著に表しているのが、今回レポートした「ホロ肉ドカンとガーリック&ペッパーカレー」なのではないか。庶民にとって、この肉塊はもはや「夢の存在」になったのか。 

 

 「庶民的カレー店」の今後の姿が、その肉塊の中に浮かび上がっているのかもしれない。そんなことを感じながら食べたカレーは、いつもより少し辛い気がしたのであった。 

 

【もっと読む】6月末に「都内で大量閉店」の天下一品。久々に訪れると味は昔のまま…なのに、昨年にも多数の閉店が。一体なぜ「縮小」が続いているのか?  では、都内で閉店が続くラーメンチェーン「天下一品」縮小の背景について、チェーンストア研究家の谷頭和希氏が詳細に解説している。 

 

谷頭 和希 :都市ジャーナリスト・チェーンストア研究家 

 

 

 
 

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