( 297503 )  2025/06/08 06:39:05  
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Kevin Carter/Getty Images 

 

イーロン・マスクはトランプ米大統領との間で非難の応酬を開始したが、2人の「決裂」は、彼が率いる電気自動車(EV)大手のテスラに壊滅的な打撃を与える可能性をもたらしている。 

 

連邦政府の権限を完全に掌握しているトランプは今、複数の当局を通じてテスラにプレッシャーを与えることができる。米国道路交通安全局(NHTSA)は、テスラのオートパイロット機能およびフルセルフドライビング機能に関して、複数の死亡事故との関連で長期的な調査を行っている。トランプは、マスクの会社に関する公的発言の信憑性について米証券取引委員会(SEC)に再調査を促す可能性もあり、さらには中国に大きく依存している生産体制にまで非難の矛先を向けることも考えられる。 

 

テスラはまた、今月、オースティンでロボタクシーの試験運用の立ち上げを計画しているが、トランプはテキサス州のグレッグ・アボット知事に圧力をかけて、この計画を阻止する可能性もある。 

 

2人の対立は、トランプが掲げる大型の税制・歳出法案の「ワン・ビッグ・ビューティフル・ビル(大きく美しい法案)」を、マスクが繰り返し非難し、「法外で醜悪な利益誘導の塊」「おぞましく忌まわしき法案」とまで呼んだことから激化した。 

 

トランプは6月5日に記者団に対し、マスクから批判を受けていることについて「非常に失望している」と語った。マスクは、これを受けて「トランプは私の助けがなければ当選していなかった」「恩知らずだ」などと立て続けにX(旧ツイッター)に投稿し、トランプの弾劾に賛成するかのような投稿までしていた。 

 

これに対しトランプは、「イーロンへの政府補助金と契約を打ち切る」と脅し、スペースXが得ている数十億ドル規模の連邦契約をターゲットにすると宣言してる。 

 

トランプからの報復は、テスラの歴史において最も深刻な打撃となる可能性がある。彼は、自分に敵意を向ける者や侮辱した者に対して、あからさまな攻撃に乗り出すタイプであり、テスラに不利な政策や連邦機関の調査を通じて、実際に権力を行使する可能性がある。 

 

■株価急落で22兆円が消失 

 

現時点で最も壊滅的な打撃は、テスラ株の急落によって具体化した。5日の株価は14%急落し、時価総額から1520億ドル(約22兆円)が吹き飛んだ。この金額は、ゼネラルモーターズ(GM)とフォード、ステランティスの3社の時価総額の合計を超えている。 

 

テスラの投資家でかつてマスクのファンだったが、現在は批判的な立場を取るロス・ガーバーは、Threadsに次のように投稿した。 

 

「イーロンがトランプにブチ切れて、テスラ株はボロボロだ。トランプは新しいテスラを返品すると言い出して、『マスクにやられた』と怒っている。こんなのはテスラの株主としては最悪だ。誰か彼のスマホを取り上げてくれ! ふざけるな! テスラはめちゃくちゃだ」 

 

 

テスラはすでに、厳しい四半期を迎えており、米国だけでなく欧州と中国でも販売不振に直面している。そして、トランプが来月にも署名しようとしている予算案は、EV購入に対する連邦税額控除や各種のインセンティブを廃止する内容となっており、テスラにとってさらなる痛手となる。 

 

■EV向けの税額控除が復活する可能性はさらに低下 

 

トランプは5日の自身のSNSの投稿で、マスクがこの法案に反対しているのは税額控除の廃止に不満を持っているからだと主張したが、マスクはこれまで一貫して税額控除の廃止を支持すると公言してきた。それでも、最終的な法案においてEV向けの税額控除が復活する可能性は、今回の対立によりさらに低くなったと見られている。 

 

「マスクがトランプやほとんどの共和党に喧嘩を売ったことで、下院も上院も、マスクやテスラへのお情けとして税額控除を残すという判断はまずないだろう」と専門家は述べている。 

 

マスクは、以前から公の場での発言を制御できておらず、さまざまな問題を引き起こしてきた。彼は、2018年に「テスラを非公開化するための資金を確保した」と虚偽のツイートをしたことでSECから罰金を科され、会長職を失った。また、批判者を「小児性愛者者」と呼んだことで名誉毀損で訴えられ、法廷に立つことにもなった。こうした言動は投資家の間でも懸念されており、特に公的年金基金などは、テスラの取締役会がマスクの行動を制御できていないことに強い不満を抱いている。 

 

「マスクのように日々の業務をここまで放棄してきた上場企業のCEOは、他に誰もいない」とイリノイ州の投資を監督する州の財務官のマイケル・フレリクスはフォーブスに語った。「そして、個人的な言動によって企業やブランドの評判をこここまで傷つけた人物が、ここまで許されてきたケースが他にあるだろうか?」と彼は問いかけた。 

 

トランプの怒りを買ったマスクとテスラは、今後さらに厳しい状況に追い込まれる可能性がある。当局による調査の再開から、マスクが大々的に宣伝してきたテスラのロボタクシー計画への妨害まで、あらゆるかたちでの報復が考えられる。 

 

「トランプは、テスラのロボタクシーを妨害するために、あらゆる手を尽くす可能性がある。『ウェイモこそが最高だ』『テスラはウェイモに比べて悲惨なほど遅れている』と言い出しても、まったく驚かない」とEV業界のデータ会社Parenの主任アナリストのローレン・マクドナルドは語る。 

 

Derek Saul 

 

 

 
 

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