( 298058 )  2025/06/10 06:39:31  
00

中国カンニング業者の呆れた実態(「5月18日のTOEICに向けて明日から(デバイス不正の)練習を始めますよ」と業者から連絡) 

 

 5月19日、警視庁野方署は昨年6月と今年3月のTOEIC試験会場で替え玉受験を行なっていたとして中国籍で京都大学大学院2年の王立坤容疑者(27)を建造物侵入容疑で現行犯逮捕したと発表した。同容疑者は替え玉受験だけでなく、マスクに隠した小型マイクで試験中に外部へ解答を送っていた可能性も伝えられている。報酬目当てによる犯行だったとも供述しており、組織的なカンニングビジネスが背景にあると見られている。 

 

 中国に詳しいライターの廣瀬大介氏が事件の一報を受け、日本での各種試験の「カンニング」を謳う中国側の複数の業者に接触を試みると、やり取りのなかで「王立坤容疑者に報酬を渡して替え玉受験を行なわせていた」と語る業者が現われた――。廣瀬氏がレポートする。 

 

 * * * 

 中国人向けSNS「小紅書」には今も多くのカンニング業者による広告が投稿されている。JLPT(日本語能力試験)、EJU(日本留学試験)、TOEIC、TOEFLなどで点数保証を行なうという内容である。いずれもスマートウォッチやマイクロイヤホン、替え玉受験による手口で費用の相場は2万元(約40万円)~4万元(約80万円)である。 

 

 TOEICカンニング事件の実態を取材するため、複数の業者に“サービス”の内容を問い合わせるDMを送ったところ、ある業者から重要な証言を得ることができた。業者が問い合わせ窓口としているウィーチャットに連絡をしたところ、担当者と思われる女性が中国語でこちら側の希望点数を聞いてきた。800点を希望しているが、どんな方法があるかを尋ねるとこう回答した。 

 

「今、ご提供出来るのはスマートウォッチを使った方法です。点数も800点前後になるように調整して解答を送ります」(日本語訳、以下同) 

 

 替え玉受験を希望すると告げてみたところ、「しばらく替え玉受験は行なう予定はありません」と返答があった。現在この業者が提供している点数保証はJLPT、EJU、TOEFLの3つの試験のみだという。TOEICの点数保証について詳細を聞く流れのなかで、意外な答えが返ってきた。 

 

「事件(京大留学生逮捕)の影響もありTOEICの点数保証の受付は一旦取り止めています。逮捕された学生は実は弊社からの案件も請け負っていたんです。今、彼には弁護士を手配して対応しているところです。彼はこの数年で一生困らないほどの報酬を得たと思いますよ。 

 

 今回の事件で恐らく強制送還となり中国に帰国することになります。ただ、弊社は彼と秘密保持契約を締結しているので、これまでの案件に関する受験生などの情報が外部に漏れることはありません」 

 

 さらにこの女性はこう続けた。 

 

「彼は弊社以外の業者からも替え玉受験を請け負っていました。また、我々のような業者を通さず個人的にも仕事を請け負っていたんです。毎月のように特定の会場で受験をしていたので運営側に顔を覚えられてしまいマークされていたようです。 

 

 こうした事件が起こってしまったため、しばらく替え玉受験の業務は中止することにしたのです。状況を見つつ数か月以内に再開出来ればと思っています」 

 

 

 その後も質問を続けようとしたところ、業者からは「何のために情報を集めているのか?」と怪しまれ、通話を切られる。その後、こちら側のアカウントはブロックされてしまった。この直後、業者が宣伝に使用していたSNSからは、TOEICの点数保証に関する投稿は全て削除されており、業者側の警戒心が高まっていることが想像できる。 

 

 数日後、別のアカウントから業者にメッセージを送り通話での質問を申し込んだところ、警戒しているのか業者からはチャットでの応答のみの受付に変更されていた。 

 

 そこで取材であることを伝えた上で、「逮捕された京大留学生への報酬」「逮捕された京大留学生以外にも替え玉を行なう人員はいるのか」「違法性の認識はあるのか」について質問を送った。だが、返信はなく、こちら側のアカウントもブロックされてしまった。 

 

 この業者が王容疑者を本当に“雇用”していたかの詳細は不明だが、SNS上にはこうした宣伝文句は今も多数掲載されており、今後もこうした試験でのカンニングビジネスを継続していく意志を感じさせる。逮捕者が出たことで、これから当局や試験運営側の監視体制が強化されていくことが予想されるが、それでも止める気配を見せないカンニング業者。今後、どうなっていくか注視したい。 

 

【プロフィール】 

廣瀬大介(ひろせ・だいすけ)/1986年生まれ、東京都出身。フリーライター。明治大学を卒業後、中国の重慶大学に留学。メディア論を学び2012年帰国。フリーランスとして週刊誌やウェブメディアで中国の社会問題や在日中国人の実態などについて情報を発信している。 

 

 

 
 

IMAGE