( 298223 )  2025/06/11 05:00:14  
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備蓄米の販売店を視察する小泉進次郎農水省 

 

 米価の高騰が続き、政府が放出した備蓄米が各地のスーパーなどにも並び始め、消費者が列をなした。全国的な品薄状態に、農林水産省は凶作や災害時のための備蓄米制度の運用ルールを見直し、今年2月、米価高騰を抑えるための放出を表明した。スピード感の重視を掲げるが、本来意図していた用途からは離れた理由での放出が続いていいのだろうか。九州大学大学院の渡部岳陽准教授(農業経済学)に聞いた。 

 

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■「あらゆる選択肢を持つ」 

 

「備蓄米はそもそも緊急事態の際の備えとしてためているもの。仮にこの先、有事が起きた際にどう対応するのかについてはあいまいなまま、大盤振る舞いで放出している印象です」 

 

 そもそも備蓄米の「適性備蓄水準」を農水省は年間需要の2カ月分に相当する量の100万トン程度としているが、今年1月時点で、全国の倉庫に蓄えられていた備蓄米は約91万トン。その後、計31万トンの備蓄米を競争入札で放出した。さらに新任の小泉進次郎農水相のもと備蓄米の入札が随意契約に変更され、新たに計30万トンの放出が決まった。放出の規模について小泉農水相は「需要があれば無制限に出す」とも話していたとおり、6月10日にはさらに20万トンを追加で放出すると表明した。 

 

 残る備蓄米は10万トンとなる。入札分の備蓄米は、同量を落札した業者から国が買い戻す要件がある。農水省は期間を原則1年以内としていたが、「原則5年以内」に変更。備蓄米の補充は不透明なままだ。 

 

 今年産のコメが凶作になれば、生産量の減少を備蓄米で補えず、価格が急騰するどころか、店頭からコメが消える異常事態にすら陥りかねない。 

 

「農水省は2025年産の主食用米の生産量が前年産から40万トン増えると見通していますが、備蓄米100万トンを確保できる量ではないし、コメ不足が続く中では25年産米はすぐに売れていくことが予想されます。備蓄どころではないですし、逆に『備蓄が必要だから備蓄します』と囲い込めばこれまたコメ不足になります」と渡部准教授。 

 

 6月6日には、小泉農水相がコメの緊急輸入について言及しており、「あらゆる選択肢を持つ。聖域はない」と発言した。 

 

 

■コメ輸入の議論 もっとオープンに 

 

「安易にコメを輸入するという考えは基本的に私は反対です。輸入が根付いてしまえば米価は輸入米に引っ張られて下がり、国内のコメ生産者にとってメリットがないですし、輸入が万が一止まった際にはそれこそ食料危機が起き、消費者にとっても望ましくないからです。ですが、今はコメの倉庫がすっからかんになりかねず、そうも言っていられない状況。“国民の胃袋を常に満たすこと”が政府の責任とするのであれば、『一時的な措置』にとどめることを前提として、コメの輸入についてはもっとオープンに議論されるべきだと思います」 

 

 ただ、小泉農水相のコメ輸入発言は大きく踏み込んだように見えて、物足りなくも映る。米価の抑制ばかりがフォーカスされ、全体像が判然としないからだ。 

 

「コメに関しては何かと政治的なネタにされがちです。確かに米価が高すぎるのは問題ですが、対策を打った先に、日本でのコメ生産能力をどう維持・向上していくべきか、国内の生産者をどのように支援し、コメ需給全体をどうコントロールしていくか、日本農業をどうしていきたいかが見えてこない」 

 

 渡部准教授は、国産米の生産拡大や流通、コメの備蓄のあり方を改めて検討すべきと続ける。 

 

「コメは野菜などの農作物とは違い、収穫したものを1年間を通して平準化しながら出荷していきます。売れるから出せばいいというものでもなく、一定のコントロールが重要です。流通に関して制度的には自由化されているので、届け出さえすれば誰でもコメが売れます。ですが、極端な価格急騰や下落があった場合にどうするのか。コメの生産や流通に対して国の関与は今、『最低限の備蓄はします』『生産数量目標はアナウンスします』くらいのものなので、不測の事態に備えることはもちろん、安定的な国内生産体制を構築するためにも、国が適切に介入、管理するという仕組みを整えることが必要になってくると思います」 

 

 令和の米騒動は、消費者にとって不透明だったコメ生産や流通に関する流れを可視化したともいえる。コメの安定供給を多くの国民が望んでいるのだが……。 

 

「コメを単なる商品ではなく、主食として、国の礎として位置付けるのであれば、米価が急落して生産者の手取りが下がった場合にはしかるべき価格で国が買い取るなどの措置が必要。食料安全保障という観点からも国がもっと、お金をかけて取り組むべき問題です」 

 

(AERA編集部・秦正理) 

 

秦正理 

 

 

 
 

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