( 298308 )  2025/06/11 06:37:32  
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コメダ珈琲店のコーヒーカップは、味わいのあるプリントだ(筆者撮影) 

 

 カフェ・喫茶店チェーン店で“3強”といえば、「スターバックス」「ドトール」「コメダ」。そのうち、名古屋市発祥の「コメダ珈琲店」が、直近の決算で過去最高益を叩き出したようだ。 

 

現在拡大中の和喫茶業態である「おかげ庵」の魅力に迫った前編記事に続き、後編ではコメダの「経営の強さ」を深堀りしていこう。 

 

■コーヒー豆が高騰、それでもコメダは最高益!  

 

 「コメダ珈琲店」を中心に、世界に1000店舗以上を運営する「コメダホールディングス」(以下:コメダHD)の、直近の通期決算(2025年2月期)を見てみよう。 

 

 通期の売上収益は470.5億円と、前年度から38.2億円もアップ。営業利益も88.2億円と、過去最高を記録している。 

 

 売り上げを押し上げた要因は「既存店の好調」だ。昨年4月の値上げ実施後に落ち込んだにもかかわらず、フランチャイズ店への卸売り収入は「前年比で既存店105.1%増」を記録。2024年12月・2025年1月には108.3%・112.5%に上昇するなど、調子の良さが続いている。 

 

 また、コメダお得意のフードも、限定商品の「シロノワール 天空の抹茶」「クラブハリエ監修・ショコラノワール」などが次々とヒット、既存店がしっかり高単価を獲る原動力ともなった。 

 

 ただ、コーヒー豆の世界的な高騰の影響を受け、前年より6.9億円も原材料費がかかっている。「逆風の中で掴んだ」最高益とは大きな意味を持つものの、営業利益は過去最高といえど前年比1%増にとどまっており、好調だった売り上げを見事に吹き飛ばされた状態だ。 

 

■「食事・コーヒー=1500円突破」それでも満足させるコメダの強み 

 

 コメダ珈琲店が、スタバ・ドトールより優れているもの。それは「コーヒーを楽しめる、くつろげる環境」にあるだろう。 

 

 スタバ・ドトールだと、席によっては背もたれもなく、やや簡易ないすでコーヒーを飲む。 

 

 しかしコメダ珈琲は、60cmも深くかけられる背もたれ・クッション付きチェアに腰かけ、ひとり席だと約95cmも幅のある座席で肘を広げて、コンセント付きの座席でスマートフォンを充電しながらくつろげるのだ(いずれも数店舗で実測)。 

 

 スタバの店づくりが「家庭でも職場でもない『サードプレイス』」を目指しているのに対して、「自宅の延長線のような『街のリビングルーム』」を目指しているのがコメダ。 

 

 

 1時間以上の滞在も多く、回転率も高くはないもの、コーヒーだけでなく“くつろぎ”を求める顧客層には、高確率で選ばれる。 

 

 また、フード類の注文もスタバ・ドトールより格段に多く、単価・利益をしっかりとれる武器となっている。 

 

 特に、温かいデニッシュパンの上にソフトクリームを乗せた「シロノワール」や、名古屋名物・味噌カツを挟んだ「カツパン」などは、メニュー表の写真より実物のほうがボリューム満点な「逆詐欺」商品として人気。 

 

 コメダは店舗によって価格が異なるため、一概には言えないものの、最近ではコーヒーと合わせると余裕で1000円を超えてしまうのが基本。都心の店舗だと、スナックメニューを選ぶと平気で1500円を超えてしまう。 

 

 それでも選ばれているからこそ、スタバ・ドトールで500〜600円止まりの客単価を、コメダは850円も獲れているのだ。 

 

 さらにモーニング・食事・スキマ時間の暇つぶしと、まんべんなく来客が続くため、アイドルタイムらしいアイドルタイムが存在しないのも特徴だ。 

 

 好立地ながらテナント料が高い物件でも利益を出せる。コメダ珈琲店のスタイルは、「顧客の支持」「採算性」「競争力」をまんべんなくとれる、外食ビジネスとしてきわめて“オイしい”といえるだろう。 

 

■「少しのロイヤルティ+卸売り販売」収益を支える“コメダ流・フランチャイズ” 

 

 そんなコメダの成長を、フランチャイズ制度が支えている。 

 

 実は、海外含め1004店の「コメダ珈琲店」のうち、41店の直営店を除くとすべて「フランチャイズ加盟店」だ(2025年2月期末時点)。 

 

 ただ、コメダのフランチャイズは、少々変わっている。一般的な外食のフランチャイズが「収益から一定分のロイヤルティ(ブランド・ノウハウの使用料。だいたい3〜10%程度)を本部に収める」のに対して、コメダのそれは「席数×月1500円」。いわば「売り上げに比例して持っていかれるか、固定か」の違いだ。 

 

 「100席・月商1000万円」の店で例にとると、ロイヤルティが5%のフランチャイズ店は、月50万円を本部に支払う。頑張って月商1500万円に引き上げると、本部に収める金額も75万円に上がる。 

 

 

 これがコメダだと、1500円×100席で15万円。経営努力で月商が大きくなっても、本部に支払うロイヤルティは15万円ポッキリ。だからこそ、コメダのフランチャイズ店は、サービスレベルの向上や顧客・売り上げ獲得に力を尽くすのだ。 

 

 かつ、300万円の加盟金が2店舗目から半額となるため、コメダのフランチャイジー(営業権を与えられた事業者)は「もっと売り上げを上げよう!」「2店、3店目を出そう!」と、少し高めに経営目標を置き、長期的な人材育成まで取り組んでくれる。長時間営業する店が多い理由も、「その分の利益がロイヤルティで減らないから」といった面もあるだろう。 

 

 かわりに加盟への審査や研修が厳しいとされており、簡単に経営権を獲得できないものの、コメダのフランチャイジーは「トラフィコーポレーション」(Tグループ)が31店舗(名駅ユニモール店・鳥居通店など)、「Canty」が13店舗(浅草橋駅前店・カインズ市原店など)など、多店舗展開・積極経営に力を尽くしてくれる。 

 

 ただ本部としては、このロイヤルティと、わずかな直営店の売り上げで成り立つのか?  実は、コメダHDの収益のもうひとつの柱は「フランチャイズ店舗への食材・備品販売」だ。 

 

■コメダの収益源は「フランチャイズへの卸売り販売」にあり!  

 

 コメダ珈琲店は全国に5カ所のコーヒー工場(愛知県一宮市、千葉県印西市、沖縄県糸満市など)やパン工場(愛知県春日井市など)などがあり、コーヒーやシロノワールのデニッシュパン、モーニングの山食パン・ローブパンなどの食材はすべて、工場から毎日配送されている。 

 

 品質安定を目的としたコメダなりの施策ではあるが、例えば2025年2月期だと、コメダHDは売り上げ470.5億円のうち347億円を、こういった卸売り収入で上げている。それに対し、直営店収入は5.1億円と、実は圧倒的に卸売りが占める割合が多いのだ。 

 

 

 かつ、2025年2月期に前年比プラスで得た38.2億円の売上のうち、32.7億円が「フランチャイズ店への卸売収入」の増加によるものだ。 

 

 コメダHDは、通常のフランチャイズ料を安く抑えつつ、卸売り収入をフランチャイズからいただくことで成立している。フランチャイズの成長がコメダ本部の売り上げに直結するため、本部は全力で新メニュー開発・店舗へのサポートに力を入れ、フランチャイズも自分たちや、従業員への還元のために、売り上げや利益をとろうとする。 

 

 こうしてみると、コメダ独自のフランチャイズ制度は、フランチャイジー・本部の“win-win”な関係と言ってもいいだろう。 

 

■コメダは成長を維持できる? 課題は「都心出店」「『おかげ庵』強化」「海外展開」 

 

 そんなコメダHDにも課題はある。まずは、スタバ・コメダに次ぐ「3強」の一角を確保しつつ、中期目標「1200店」を達成するための「都心・海外への出店」策だ。 

 

 コメダ珈琲店は、2024年度には国内46店・海外11店を出店、閉店を差し引いて51店が純増した。 

 

 ただ、もともとコメダHDは「郊外・ロードサイド、100席以上、駐車場アリ」といった郊外型店舗を得意としており、これまで手薄であった「都心・ビルテナント」(新橋烏森通り店・梅田HEP通店など)といった条件の出店も増加させていく必要がある。物件の確保だけでなく、「都心のテナント料を払えるフランチャイズ企業の育成」も、課題となってくるだろう。 

 

 また海外は、2025年3月にシンガポールのカフェチェーン「POON RESOURCES」を子会社化しており、コメダHDは2026年2月期に、「POON」込みで「売り上げ16.6%プラス(548.8億円)、純利益16.4%プラス(67.7億円)」を見込んでいる。これが、海外出店、1200店達成の成否にかかわってきそうだ。 

 

 もうひとつの課題は「セカンド・ブランドの養成」だ。いまのコメダHDは「コメダ珈琲店・1055店、コメダ和喫茶おかげ庵・16店、その他(米屋の太郎・ジェリコ堂など)6店」。コーヒー豆がの仕入れ値が高騰する状況では、全体の97%にもおよぶ「コメダ珈琲店・一本足打法」から、リスクを分散させる必要がある。 

 

■さらなる成長の鍵を握る「おかげ庵」 

 

 ここでカギを握るのは、ブランド立ち上げから25年以上が経過し、コメダとの棲み分けが図れている「おかげ庵」だ。 

 

 

 
 

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