( 299258 ) 2025/06/15 03:35:31 0 00 6月10日、記者会見に臨んだ山尾志桜里氏(撮影/上田耕司)
今夏の参院選で国民民主党から出馬予定だった山尾志桜里氏(50)が6月10日の会見翌日に、同党から公認を取り消されるという前代未聞の騒動は、各所に大きな影響に与えている。山尾氏は12日、自らコメントを発表し党への不満をあらわにしたが、政界関係者は「人権問題になりかねない」とまで言う。収まりを見せない公認取り消し騒動の裏側を取材した。
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公認取り消し後の6月12日。山尾氏はコメントを発表し「代表・幹事長の同席を希望しましたが、辞退会見であれば同席するとのお答えは大変残念でした。ただ私には辞退の意思はありませんでしたし、会見するという自分の言葉を守る責任がありましたので単独で臨んだ次第です」とつづった。これが事実だとすれば、すでに会見前から国民民主党内では“山尾下ろし”が決まっていたことになる。
6月10日、記者は2時間半の会見を終えた山尾氏に話しかけた。「党内に出馬を辞退してくれという声はあるのですか?」と尋ねると、「そういうことはないです。ちゃんと会見をやるのが大事だねという声はあります」と答えた。だが実際は、山尾氏は執行部から“出馬辞退”を迫られた状態にもかかわらず、出馬会見を開くという異様な事態になっていたのだ。
玉木雄一郎代表をはじめ、国民民主党執行部の対応には内外から批判の声が上がっているが、国民民主党の元議員もこう憤る。
「ひどい話ですよね。SNSでの反応やイメージだけを優先して、簡単に人を切り捨てるのが国民民主党なんです。昨年も公認を取り消されて自殺した女性がいました」
昨年4月の衆院補選で国民民主の公認候補予定者だった20代の元アナウンサーの女性は、生活保護を受給しながらラウンジに勤務していたという疑惑がSNSで批判されて炎上。女性はこの疑惑を否定したが、結果として国民民主党は「法令違反の可能性がある行為があった」として公認を取り消した。そして昨年9月、女性は都内の自宅マンションの敷地内で死亡しているのが見つかった。自殺とみられている。
「その事件も山尾さんの件も、党は実態調査をするでもなく、何か面倒なことが起きると切ってしまう。そもそも、山尾さんの不倫騒動も、ガソリン代不正計上の問題も、議員パスの私的利用疑惑も、玉木代表は公認する前から全て知っていたわけです。新しく出たスキャンダルでもないのに、世間から批判が殺到すると平気で切ってしまう。これで山尾さんが精神的に追い詰められたら、どうするのかと思いますよ」(同)
玉木氏は内定取り消しに至った理由について「街頭でも厳しい声があり、なかなか選挙戦を積極的には展開できないという厳しい声を全ての都道府県県連からも、多くの地方議員からもいただいた」と記者団に語った。
■公認取り消しは「非人道的な行為」
ある永田町関係者は「裁判ざた」になる可能性にも言及する。
「はっきり言って、これは人権問題ですよ。玉木代表は『(山尾氏に)記者会見をやらせます』と言っていた。だから山尾さんは会見を開いた。それにもかかわらず、会見から24時間もたたないうちに公認取り消しというのは非人道的な行為です。山尾さんが国民民主党を訴えてもいいくらいの人権侵害だと思います」
選挙で公認を取り消された候補者が党を訴えるという例はこれまであまりないと思われるが、山尾氏が人権侵害訴訟などを起こすことはできるのだろうか。
元東京地検特捜部検事の郷原信郎弁護士はこう語る。
「訴訟にはなじみにくいケースですね。公認するかしないかは、最終的に政党に裁量があるうえ、公認内定にどれだけの確実性があるのかという話にもなる。法的には選挙の公示前の段階で公認の“内定”を出しているだけですから。もし事実上、公認決定のように受け取られていたとしても、公示前は選挙運動はできないので、あくまで国民民主党所属議員としての政治活動を行っていたに過ぎません。つまり、公認取り消しで被った実害を認定しにくいのです」
山尾氏は選挙に向けてすでにチラシや名刺を作り、事務所開きもしていた。それに使った費用の補填を求めることはできるのか。
「公認前提で諸費用をかけたと言っても、それは自分の見込みで公認が得られそうになったから選挙に向けての政治活動をやっていたということにしかならない。法的には自分の政治活動上の判断としてやっていたものとみなされると思います。おそらく、国民民主党側が何らかの補填は考えるでしょうが、仮に党から『すでに使った費用の責任は持てない』と言われたとしても、これを不法行為で賠償請求することは容易ではありません」(同)
むしろ、今回の公認取り消しは道義的責任が大きいと、郷原弁護士は説明する。
「不法行為として法的責任を問いにくいぶん、逆に党幹部の道義的、社会的責任は一層大きいと言えます。法的に問題がなければ何でもやっていいのかということではなく、公認に関する党執行部の判断や対応に重大な問題があったことは確かです。法的責任では決着がつかない問題であるだけに、余計に党幹部の政治的責任が重いと言えます」
山尾氏の公認取り消し騒動は、これからの都議選、参院選とまだまだ尾を引きそうだ。
(AERA編集部・上田耕司)
上田耕司
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