( 299363 )  2025/06/15 05:37:32  
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複雑な施設案内を外国人が"解読”するのは難しい(イメージ) 

 

 観光庁が2024年6月に公表した訪日外国人旅行者の受入環境に関する調査結果によると、訪日客が旅行中に困ったとの回答が特に多かった項目は「ごみ箱の少なさ」(30.1%)と「施設等のスタッフとのコミュニケーション(英語が通じない等)」(22.5%)。この2項目の回答は、前回2019年度調査から5%ポイント以上増加している。特に後者の「英語が通じない」問題について危機感を持つのは、ネットニュース編集者の中川淳一郎氏だ。中川氏が訪日外国人とやりとりした経験を踏まえてレポートする。 

 

 * * * 

 私は1ヶ月に1回ないしは2ヶ月に1回、出張で佐賀県から東京に出るのですが、先日、東京の交通機関で迷っている外国の人に2回声をかけられました。オーストラリアのロックバンド・AC/DCのTシャツを着ていたから、「こいつは英語が分かるかも」と思われたのかもしれません。 

 

 羽田空港から成田空港まで行きたいアメリカ人女性は「私の電子マネーではチケットが買えない」と困っていました。この時、成田空港行き直行バスの時刻は過ぎていました。それまで日本で使っていた電子マネーなのでしょうから、彼女は使えると思ってチケットを買おうとしていた。クレジットカードなど代替手段はあるはずなのですが、いかんせんカウンターの担当者に話があまり通じず、彼女はイライラしている様子。 

 

 そこで私が、「だったら京急で品川方面に向かい、途中、成田空港直通の快速特急に乗ればいい」と伝えました。しかし彼女は、なぜかモノレールの窓口へ行き、スマホをいじっている。いや、そこじゃないんだよ。浜松町に行って大門で乗り換えて成田まで行くのもアリだけど、ここは京急でしょうが……と思ったものの、ナンパや詐欺目的だと思われたくない私は、それ以上声をかけられませんでした。 

 

 この場合、目の前にバスのカウンター担当者とモノレール担当者がいるのに彼女はその人達に声を掛けられず、AC/DCのシャツを着た男に頼らざるを得なかった。観光庁の調査で、「施設等のスタッフとのコミュニケーション」に困る訪日外国人が多いという結果が出ていますが、まさにその通りのことが目の前で繰り広げられたのです。 

 

 

 あと、時に「ダンジョン」とも称される渋谷駅や新宿駅もそうですが、そこに限らず、他のターミナル駅も意外と複雑です。羽田からモノレールに乗って浜松町に行った時は、駅員と何やら喋った後、スーツケースを引っ張る白人女性と、南アジア風の女性が大声で英語でやりとりしているのを聞きました。 

 

「なんで彼は私たちの行きたい場所を案内できないの!」 

「もう知らないけど、とにかく外に出ればいいんじゃない」 

「でも、外にどうやって出ればいいのよ!(怒)」 

 

 モノレール/JR浜松町駅もそれなりに複雑な構造になっています。そこから近くの都営浅草線・大江戸線大門駅までは徒歩ですぐなのですが、とにかくいかにして外に出るかで戸惑っている。私はその会話を聞いており、私が大門駅方面に出る方向を指さし、「あちら側に行けば外に出られますよ」と階段を下りながら伝えました。 

 

 この場合、駅員の英語力も、標識の難しさもあったと思うのですが、そろそろ日本でも本気で英語力を高める努力を進めるべきではないでしょうか。観光立国になるのであれば、語学ができることが必須。「いやいや、AIも翻訳アプリもあるからいらないでしょう(笑)」と言いたい人もいるかもしれませんが、やはり人間には敵わない。 

 

 最近はかつてに比べて標識の英語表記も増えていますが、未だに交番のことを「Koban」と書いている。「Koban」が実は「Police station」のことだと分かるでしょうか。あとは「Uo-ichiba」なんて書いても仕方がない。「Fish market」と書くべきなんですよ。 

 

 こんなことを言うと「日本に来るの外国人は日本語を学習してから来るべきだ!ここは日本だ!」みたいな反論も予想されるわけですが、私がこれまで行った国を振り返ってみると、英語が公用語ではないイタリア・ドイツなどヨーロッパの国々では、まず英語が通じました。現地なまりの激しいタイ・ベトナム・カンボジア・ラオス・トルコなど東南アジアの国々でも(文法が正しいかどうかは別にして)英語が通じます。何しろ大抵の飲食店には英語メニューがある。 

 

 振り返って今の日本。これだけ海外からの観光客が増えていて、しかもG7加盟国にもかかわらず、この英語力の低さは何とかした方がいいですよ。訪日客は日本の一般人に道すら聞けないんですよ? 今回、私が喋ったアメリカ人女性にしても「日本人に声をかけて助けを求めても何も答えてくれないんです」と悲しんでいました。衰退する日本を出て海外に行くにしても、海外の上客相手に国内で商売するにしても、英語は必須です。「日本に来るなら日本語喋れ!」はあと5年もすれば通用しなくなるんじゃないですかね。 

 

【プロフィール】 

中川淳一郎(なかがわ・じゅんいちろう):1973年生まれ。ネットニュース編集者、ライター。一橋大学卒業後、大手広告会社に入社。企業のPR業務などに携わり2001年に退社。その後は多くのニュースサイトにネットニュース編集者として関わり、2020年8月をもってセミリタイア。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』(光文社新書)、『縁の切り方』(小学館新書)など。最新刊は倉田真由美氏との共著『非国民と呼ばれても コロナ騒動の正体』(大洋図書)。 

 

 

 
 

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