( 299683 )  2025/06/16 06:30:55  
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介護による離職がなくならない。国は今年4月、企業に従業員への介護休業制度の情報周知を義務付けるなどの法改正を施行した。介護離職防止には当事者と企業、社会とのコミュニケーションが欠かせない。専門家は「事前の準備や相談が仕事と介護の両立につながる」という。 

 

「介護のために会社を辞めました」。社会保険労務士の山本武尊(たける)さんは、地域包括支援センターでセンター長をしていた数年前、こう言って親の介護の相談に来る子供世代に多く出会った。 

 

「準備のないまま介護に直面し、辞めてしまったのだろう。辞める前に相談に来ていたら両立への支援ができたのに…」。当時を振り返り、山本さんは悔しそうに話す。 

 

介護・看護を理由に離職する人は、厚生労働省の雇用動向調査によると令和5年で7.3万人。長期的には増加傾向にあり、50代以降が多い。 

 

国は仕事と介護の両立を支援しようと育児・介護休業法を改正した。介護休暇を取得できる条件を緩和したほか、介護に直面したと申し出た従業員には情報を周知し、意向を確認するよう義務付けた。山本さんは改正法に盛り込まれた「40歳になる従業員への情報提供の義務化」に注目。「介護に直面する前からの準備につながる」と評価する。 

 

介護休業は介護が必要な家族1人につき93日、介護休暇は年5日まで取得できる。ただ、介護休業の意味を正しく理解していないケースが多いという。「介護休業はあくまで介護体制を整えるための日数なのに、育児のようにつきっきりで世話をする日数と捉えられがちだ。そのため『93日では足りない』と離職してしまう」(山本さん) 

 

介護は周囲に言い出しにくい傾向が強く、企業も把握しづらい。山本さんは「企業には『介護状況の把握は労務管理の一環だ』とアドバイスしている。介護の話ができるようなコミュニケーションがあれば、介護に限らず、働き方全般に良い影響が及ぶ」と話す。 

 

山本さんは、不本意な介護離職をした子供が親を虐待したケースも経験した。「『仕事を辞めたのに』という後悔があると、親に感情をぶつけてしまうことがある。親子ともに不幸になる」という。 

 

公的介護保険のほかに民間の介護保険を調べてみる、エンディングノートを書いてみる-など、介護離職予防としてできることは多い。山本さんは「介護に直面したら企業に相談するとともに、実家の地域を担当する地域包括支援センターに相談してほしい。離職しないで両立できる道は必ずある」と訴える。 

 

 

■休みづらい…企業風土もネック 

 

介護離職をしないための処方箋を、大和総研政策調査部の石橋未来(みく)・主任研究員に聞いた。 

 

◇ 

 

今年、団塊の世代がすべて75歳以上の後期高齢者になる。子供世代は共働きが多く、一層、働きながらの介護が増えるだろう。 

 

子供世代などが介護離職をしないためには、まず必要な介護サービスをためらわずに使い、働き続けるための環境を整えることだ。介護離職は他の理由での離職に比べ、復職率が低い。離職時の年齢が高く、介護期間が長期にわたるからだ。 

 

企業が従業員に対し、介護休業について法律や制度を周知徹底することも肝要だ。この点は今回の法改正で義務化され、どれだけ現場に浸透させられるかが注目である。 

 

厚労省の委託調査で、介護離職の最も多い理由は「勤務先の両立支援制度の問題や介護休業などを取得しづらい雰囲気などがあった」だった。介護休業や介護休暇の取得率も低い。「休むと迷惑をかける」と思ってしまうような企業風土の払拭が欠かせない。事由を問わずテレワークを認めるなど、柔軟な働き方を定着させることも重要だ。 

 

加えて、介護サービスのさらなる充実が求められる。総務省の調査では、働きながら介護をしている人の4割以上が、介護保険サービスを利用できる日・時間を「不十分」「やや不十分」と感じていた。介護人材が不足する中、介護ロボットの活用など効率化を図る工夫が必要だ。介護保険以外のサービスを利用しやすい環境も整備すべきだろう。 

 

いずれにしても介護離職をしないためには、早いうちから相談窓口や介護サービスについて情報収集をしたり、家族で話し合ったりしておくことが大切になる。(小川記代子) 

 

 

 
 

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