( 299953 )  2025/06/17 06:43:09  
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ガソリンスタンド(イメージ写真) 

 

 「日本一高い」と言われ続けた長野県のガソリン価格。海沿いの製油所から遠く輸送費がかかることや、販売量が少ない中山間地のガソリンスタンド(GS)の維持などが理由とされてきた。それだけに、県石油商業組合(長野市)を巡るカルテル疑惑の衝撃は大きく、県民は不満を募らせている。公正取引委員会による調査が水面下で続く。真相解明に向けた動きを追った。(ガソリン問題取材班) 

 

 ダークスーツの公取委関係者の女性に付き添われ、男性がうつむきがちにビルへ向かう。4月上旬の長野市街地。ビルの一室で、公取委による事情聴取が行われていた。 

 

 男性は石商北信支部に加盟するGSの経営者。聴取は幅広い経営者や担当者に及んでいるとみられ、男性以外にも数人がビルに入っていった。 

 

 関係者によると、聴取は1回4~6時間にわたり、何度か呼び出された人も。このうち複数人が公取委に対して、GS間で交わされていた電話連絡の存在を認めたという。 

 

 疑惑は信濃毎日新聞の2月5日の報道で発覚した。本紙は石商に加盟する長野市内のGS間の電話連絡の音声データを入手。「(1月)17日から全油種プラス3(円)です」と具体的な値上げ幅を指示していた。2月3日の値下げについても「月曜から全油種マイナス3(円)です」と伝えており、電話を受けた多くのGSがその通りに店頭表示価格を変更した。 

 

 電話のやりとりは、わずか数十秒。電話を受けたGS従業員は「分かりました」と当然のように応じた。こうした価格調整は20年以上前からあった―との証言もある。GS関係者の一人は取材に「昔からなので、何とも思わない」と言い切った。 

 

 最初の報道から2週間足らずの2月18日、公取委は独占禁止法違反(不当な取引制限など)の疑いで長野市の石商事務局を立ち入り検査するなど異例の速さで調査に乗り出した。事業者間のカルテルを禁じた同法3条違反の他、事業者団体が会員事業者間の競争を実質的に制限することを禁じる同法8条違反の疑いも含めて調べる―と、公取委は3月に国会で明言した。 

 

 

 複数のGS関係者は、公取委の聴取で、誰から電話を受け、ガソリンなどの店頭表示価格をいつ変更したか―などを聞かれたとする。聴取対象者間で「既に公取委は全てをつかんでいるようだ」との情報が出回り、価格調整の電話連絡に使う支部の連絡網などを持参した人もいた。別のGS関係者はガソリンの日別、月別、年別の売上高を記載した書類を提出した。「値動きを見ているんだろう」と推測した。 

 

 立ち入り検査や聴取などを経て、公取委は違反行為の差し止めなどの排除措置命令、課徴金納付命令といった処分を出すか判断する。 

 

 石商は疑惑について「青天のへきれき」(幹部)として、一貫して関与を否定している。高見沢秀茂理事長(高見沢社長)は2月下旬、疑惑の解明を求めた阿部守一知事に「事実確認はできなかった」とする内部調査の結果を報告。その際、価格調整があるとすれば「(連絡を回す)本人たちの意識の低さ」に問題があるとした。 

 

 ただ、2月の報道をきっかけに電話連絡が途絶え、北信支部の役員からは「(石商)本部から何の連絡もなく、今後どうやって価格を決めていったらいいか分からない」との声も漏れた。疑惑発覚前の本紙調査で一致率が8割超だった石商加盟の長野市内のセルフ式GSの店頭表示価格は、6割近くに急低下してばらつきが生じた。 

 

 価格調整は一部GSの問題か、それとも組織的だったのか。店頭表示価格をそろえるよう石商から圧力を受け続けてきた―と主張するGS関係者は「『支部が勝手にやった』なんて言い訳は通用しない」と憤った。 

 

 

 
 

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