( 300523 )  2025/06/19 06:50:36  
00

​「お互いに悪意はないのに、すれ違うコミュニケーション」を「見える化」し、解決方法をお伝えします(写真:tabiphoto/PIXTA) 

 

「Z世代は何を考えているかわからない」――。そんな迷いを抱えるマネジメント世代も多いのではないだろうか。 

何を考えているかわからない、となると、どう接していいかわからないものだが、実際のリアルな姿を知れば、なんだそうだったのか、と拍子抜けすることも多く、なによりお互い深刻にならずにすむ。 

『Z世代コミュニケーション大全』を上梓した野村総合研究所でコンサルタントとして消費者マーケティングに携わる松下東子氏が、アンケートやヒアリングなどの豊富なデータに基づき、「お互いに悪意はないのに、すれ違うコミュニケーション」を「見える化」し、どうすればすれ違いが解決するか? について具体的にお伝えする。 

 

■いまどき見て覚えろって、引く 

 

 Aさんは今年大学を卒業し、IT関連企業に入社した社会人1年生。学生時代はコロナ禍でさんざんだったが、社会人になってからでなくて助かったとも思っている。少し上の先輩たちは仕事を教わるのも苦労したみたいだが、今はちゃんとインストラクターやチームリーダーが対面で、仕事を手取り足取り教えてくれる。 

 

 「ここはこういうふうになっていて、ここはこうつまずくことも多くて」ってやってみせながら丁寧に指導してくれるのはありがたいけど、「マニュアルないんですか」って聞いてしまったら、少し嫌な顔をされた。 

 

 でも、全体像がわからないまま口頭で伝授するのって非効率的だし、コロナ禍のときみたいに対面で伝えられないときだってある。人によって伝えられる情報量も違うから公平でもない。いまどき「見て覚えろ」って、ちょっと引く……。 

 

 これは、日頃仕事をしている中で、「世代による常識の違いを感じたエピソード」について、消費者アンケートで自由回答として記入してもらった結果をフィクションストーリーにしてみたものです。具体的には、以下のような回答がありました。 

 

 「(上の世代は)マニュアルがあるのにもかかわらず、自分が一番効率が良いと思った方法を教えてくること。マニュアルに従って作業していると怒られる。」(22歳) 

 

 「いまどき見て覚えろ的な対応をされることってそうそうないと思うけれど、未だに昔の仕事体制を持ち出してくる人がいると『うわ〜昔の人だなぁ』って引く。」(25歳) 

 

■マニュアル主義と言いたくもなる 

 

 そんなことをZ世代に言われているのは40〜50代の団塊ジュニア世代、まさに私自身の世代です。 

 

 

 私たちにしてみれば、コロナ禍で対面指導ができなかったときには、正直どこまで伝わっていて、どこまで理解してもらえたのかわからない、歯がゆい思いがありました。ようやく顔を見て指導できるようになり、丁寧にやってみせながら反応を見ているのですが、結局今も、何がどこまで伝わっているのかわかりません。 

 

 「わからないことがあったら聞いて」と言っても質問も出ないし、メモも取らず、代わりにするのは録音・録画にカメラで撮影。そんなふうに散漫に記録していても、どこがポイントなのか、しっかりわからないのではないかと心配になっているところへ「マニュアルないんですか」と言われてがっかりしてしまいます。 

 

 実際、上の世代からZ世代への違和感としては「マニュアル主義。言われたことしかやらない」などのコメントも多かったのです。 

 

 この背景には、「効率」の考え方が異なるということがありそうです。 

 

 上の世代にしてみれば、仕事の手順というのはゼロから身に付けていくもので、実際につまずいて、創意工夫して、自分なりのやり方を見つけていくものだという思いがあります。 

 

 そこで、つまずきがちなポイントや、自分自身がやってきた工夫を丁寧に伝えることで、若手が効率よく、自分なりの解決方法にたどり着いてくれるのでは、と考えるのです。 

 

 一方、Z世代はデジタルネイティブ。インターネットという集合知を活用して、効率よく「正解」にたどり着くことに長けた世代です。何度も前の人がつまずいたようなポイントに、なぜ自分がさらにつまずかなければならないのか、解決策があるなら共有してくれたほうが、無駄な苦労が省ける分、そこからさらに先に進むことができて効率的だと考えます。 

 

 経験から自分なりの解決方法を見つけてきた上の世代と、既存の解決策を参照・応用して無駄を省きたいZ世代では、ここがすれ違っているのです。 

 

 また、Z世代がマニュアルを求めるのも、ネガティブな意味ばかりではありません。 

 

 実際に話を聞いてみると、「明文化されたマニュアルがあれば、いちいち先輩の手をわずらわせずに済む」「マニュアルで全体像がわかっていれば、自分が理解できない箇所が特定できて、効率よく指導が受けられる」など、忙しい上司や先輩を思いやる気持ちもうかがえるのです。 

 

■「言わなくててもわかる」は通じない 

 

 日本社会は世界で最もハイコンテクストな社会といわれています。ハイコンテクストというのは、常識や価値観、知識、言語、背景理解などが共通認識となっていて、言葉で詳細に説明しなくてもわかり合えることを指します。簡単に言ってしまうと、「言わなくてもわかるよね、普通こうだよね」でわかり合える社会ということです。 

 

 

 上の世代が自分の「普通」に従って、「まずはあなたの思う通りにやってみて」と指示を出してもZ世代には伝わりません。上の世代が「マニュアル主義」と思おうが、Z世代にとっては指示とは手順や達成すべきステータスが明文化された状態で与えられるのが「普通」だからです。 

 

 いったん自分の「普通」を忘れて、どんな思いで指示を出しているのか、言葉にしてみてはどうでしょうか。 

 

 「自分で実際につまずいてみて、自分なりの解を考えることで、能力の幅を広げてほしい」「マニュアルに書いてあることだけにとどまらず、若い視点で自分なりの工夫をどんどん見つけてほしい」、そんなふうに、指示の背景にある期待をきちんと言語化することで、Z世代は安心して取り組むことができますし、異論があるときにも「でも、自分はこんなふうに考えます」と、口に出しやすくなります。 

 

 言葉にしなければすれ違ってしまうお互いの「普通」を、しっかりと伝え合い、理解しようとすることが重要です。世代間ギャップは拡大し、「言わなくてもわかる」は通じない時代になったということでしょう。 

 

松下 東子 :株式会社野村総合研究所シニアプリンシパル 

 

 

 
 

IMAGE