( 300838 )  2025/06/20 06:57:11  
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野田佳彦氏は財務省からどう見られているのか(時事通信フォト) 

 

 財務省の権力を語る際にかかせないのが政治家とのネットワークだ。財務省は立憲民主党代表の野田佳彦氏に早くから目を付けていたという。首相となった野田氏は2012年、財務省の悲願であった消費税の引き上げを決定した。夏の参議院選挙を控え、再び消費税と野田氏に注目が集まる中、その関係性について、元財務官僚で嘉悦大学教授の高橋洋一氏の著書『財務省 バカの「壁」 最強の“増税マシーン”の闇を暴く』より一部抜粋・再構成して解説する。 

 

 私が財務省を辞めて以降、現在まで消費税をめぐる議論の火種は相変わらずくすぶり続けている。そして、かつてないほど税に対する国民の意識が高まるなか、まるで計算しつくされた演劇を見ているかのように、絶妙なタイミングで“消費税劇場”の主要人物が舞台に戻ってきた。2024年9月、12年ぶりに政党トップに返り咲いた野田佳彦氏である。 

 

 12年前、民主党の党首だった野田氏は、一体財務省とどう向き合ってきたのか。その足跡から、今に至る消費税、呪縛の道筋が見えてくる。 

 

 小泉純一郎政権、続く第1次安倍政権のときには、かろうじてできていた増税派の封じ込めは、福田康夫内閣、麻生太郎内閣で崩れだし、民主党政権の誕生で完全に崩壊した。ご存じの方も多いと思うが、安倍さんの民主党政権に対する評価は辛辣だ。回顧録(注:『安倍晋三 回顧録』)では、当時、永田町は財務省一色だったといい、このように民主党政権の本質を突く。 

 

〈時の政権に、核となる政策がないと、財務省が近づいてきて、政権もどっぷり頼ってしまう。菅直人首相は、消費増税をして景気を良くする、といった訳の分からない論理を展開しました。民主党政権は、あえて痛みを伴う政策を主張することが、格好いいと酔いしれていた。財務官僚の注射がそれだけ効いていた。〉 

 

 財務省は、おそらく早くから野田氏にも目をつけていたのではないかと思う。現に、財務省内での野田氏のあだ名は「使い勝手佳彦さん」だ。そして野田氏は実際、「使い勝手のよさ」を買われて財務副大臣、財務大臣を経て総理の座に就任した。 

 

 

 野田政権は「社会保障と税の一体改革」を掲げた。これは、消費税引き上げ分は、すべて社会保障の充実と安定化に使うという方針のことだ。これに沿って、消費増税が進められていったのである。 

 

 ただ覚えている人は少ないかもしれないが、そもそも民主党は、4年間の消費増税凍結をマニフェストに据え、2009年の衆院選に勝利して政権を自民党から奪取したのだ。野田氏自身、選挙前は「マニフェストに書いていないことはやらない」「シロアリ退治が重要」「消費増税はしない」と言い続けていた。 

 

 ちなみに「シロアリ退治」とは、天下りなどで私腹を肥やす、いわば国家に巣食う“シロアリ”のごとき官僚を辞めさせることだ。ところが、野田氏はシロアリ退治をするどころか、むしろシロアリの言うがまま消費増税を決めてしまったのである。 

 

 その後、2012年8月、民主党、自民党、公明党の3党の話し合いとなった。当時の自民党総裁、谷垣禎一氏は財務大臣経験者で、政権構想の一環として消費増税を掲げていた。無論、財務省が千載一遇のチャンスと見て3党合意に持ち込んだのだろう。 

 

 安倍さんは、自伝でこのように谷垣氏を暗に批判している。 

 

〈当時の谷垣禎一総裁は、社会保障の財源を確保するには消費増税はやむを得ない、と説明していました。政局よりも政策を優先する良心的な谷垣さんらしい考え方で、立派だったと思いますが、その結果、首相になるチャンスを逸してしまったような気がします。〉 

 

 その結果、法律が可決されて消費税率の5%から10%への引き上げが決まるとともに、消費税法第1条に「消費税の収入については、地方交付税法に定めるところによる他、毎年度、制度として確立された年金、医療及び介護の社会保障給付並びに少子化に対処するための施策に要する経費に充てるものとする」という文言が追加されたのである。 

 

※高橋洋一・著『財務省 バカの「壁」 最強の“増税マシーン”の闇を暴く』(祥伝社)より一部抜粋・再構成 

 

【プロフィール】 

高橋洋一(たかはし・よういち)/株式会社政策工房会長、嘉悦大学教授。1955 年、東京都生まれ。東京大学理学部数学科・経済学部経済学科卒業。博士(政策研究)。1980 年、大蔵省(現・財務省)入省。大蔵省理財局資金企画室長、プリンストン大学客員研究員、内閣府参事官(経済財政諮問会議特命室)、内閣参事官(首相官邸)などを歴任。小泉内閣・第1 次安倍内閣ではブレーンとして活躍。2008 年に『さらば財務省!』(講談社)で第17 回山本七平賞を受賞。『高橋洋一のファクトチェック2025 年版』(ワック)、『明解!金融講義世界インフレ時代のお金の常識・非常識』(ソシム)、『財務省亡国論』(あさ出版)ほか著書多数。 

 

 

 
 

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