( 301370 ) 2025/06/22 06:17:10 0 00 タレントの国分太一氏の番組降板について報道陣の質問に答える日本テレビの福田博之社長(写真:時事)
6月20日朝、日本中の人が驚いた(に違いない)。日本人なら知らぬ人はほとんどいないであろう人気アイドルグループ「TOKIO」の国分太一氏が、出演するすべてのテレビ番組を降板するとの報道が駆けめぐったからだ。
グループの看板番組「ザ! 鉄腕! DASH!!」を放送する日本テレビが「コンプライアンス違反に関する事案」で会見を行うことがわかると、世間の妄想が加速。ただ事ではないことは明らかだった。気さくで優しいキャラクターで多くの人に愛された国分氏が、いったい何をやらかしたのか? 関心が大いに高まった。
■いったい何のための会見だったのか
だが、日テレの福田博之社長の会見が始まる13時になっても、同局はいつもどおり、昼の情報番組「ヒルナンデス!」を放送している。そこでTBSテレビの「ひるおび」を見ると、「13時から会見が始まっていますが少し遅れて放送します」と説明があった。
フジテレビの会見がそうだったように、コンプライアンス違反の事案では関係者のプライバシーを侵害する可能性のある発言がそのまま配信されないよう、問題のある部分を外して、時間差で放送するようだ。
13時から10分ほど遅れて福田社長の会見が放送され始めたが、その発言を聞いても要領を得ない。国分氏にコンプライアンス違反に当たる事案が判明したので番組を降板させたことはよくわかったが、誰に対して何をした事案なのかは「プライバシー保護の観点から、詳細はお話できません」としか言わない。
会見にかけつけた報道陣が次々に質問をするが、何を聞かれても「詳細はお話しできない」「プライバシー保護のため」を繰り返すだけ。ある記者が「あなたは何のためにいるのか」などと言っていたが、思わず共感してしまった。一体これは何のための会見だったのか。
「これなら会見する必要ないじゃないか」と私もその場にいたら叫んでしまったかもしれない。詳細を説明できないなら、リリースを出すだけでよかったはずだ。
終了後、モヤモヤした心持ちでテレビ業界の知人から情報収集すると、今回の一件は日テレ社内でも役員とコンプライアンス部門以外にはまったく伏せられていたらしいとわかってきた。
それを知って、「なるほど」と思った。日テレの対処は、フジテレビの中居正広氏の事案とは正反対の動きをたどっている。
フジテレビは中居氏の事案を知ると、当時の港浩一社長と大多亮専務だけで対応し、コンプライアンス部門と情報を共有しなかった。メディアに何も発表せず、『週刊文春』にスクープされるまで中居氏を番組から降板させなかった。
一方、今回の日テレはまったく逆に、役員とコンプライアンス部門で情報を共有し、弁護士と相談して対処を決めた。自分たちで発表を行い、国分氏を番組から降板させた。まるでフジテレビの事案を反面教師としたかのように「正しい」対処を行ったのだ。
詳細を話せないのにリリースで済まさずに社長が会見を行ったのは、過剰なコンプライアンス対応のようにも思われたが、フジテレビではお粗末なメディア対応を繰り返した結果、スポンサーが一斉にCM出稿をやめて経営に大打撃を与え、体制の一新を迫られた。過剰と言われようと「正しい」対処をするのは当然なのだ。
■リリースににじむ他局の恨み節
ただ、これで済むとは言いがたい。
まず、他局からすると、今回の日テレの対応には非難轟々だろう。とくにテレビ東京は日曜日に国分氏が出演する「男子ごはん」の放送を控えている。TBSテレビも来週水曜日に「世界くらべてみたら」が放送予定。どちらの番組も差し替え作業でてんてこ舞いになっているはずだ。
通信販売のジャパネットホールディングス(HD)は国分氏を起用しているCMを差し替えねばならないうえに、同社グループが運営するBS10では「国分太一のTHE CRAFTSMEN」を20日22時から放送予定だった。結局は俳優の美木良介がダイエットを指導する番組に差し替えられていたが、そうとう大変な作業だっただろう。
ジャパネットHDの企業サイトにはコメントが掲載されており、「詳細な事実がわからない状態ではあるものの、コンプライアンス上の問題行為ということ、活動休止となることを受けこのような判断といたしました」とある。かすかな恨み節がにじむ。それに続く「既に展開している広告についても、順次差し止めの対応をしてまいります」の部分が「17:53追記」となっていることにも、苦労が感じられてしまう。
■「正しい」対処がもたらす危険な余波
日テレの対処について、業界関係者は「日テレの読売グループらしさが出た」と苦笑する。一時期はプロパーで制作畑出身の小杉善信氏が社長になり、日テレ色が強い自由な雰囲気になっていたが、その後は読売新聞出身が経営陣の多数を占め、読売グループっぽさがここ数年で高まっていた。
福田社長自身はプロパーなのだが、その上には読売新聞から来た山口寿一氏が親会社・日本テレビHDの取締役会議長としてがっちり手綱を握っている。今回の国分氏をめぐる対応が、危機管理がガチガチの読売らしい対処になった背景には、そうした事情もありそうだ。
日本テレビHDの株主総会が来週27日に迫っているので、その場を荒らさないためにも「正しい」対処が絶対必要だったのだろう。だが、正しすぎて、逆に余波が心配になる。
SNS上ではすでに、「日テレは24時間テレビの寄付金使い込みの謝罪という重大な案件はアナウンサーにさせるくせに、今回の国分太一の件には(中略)なぜか社長が出て来てその結果重要なことは何も説明できないってなんだそれ」「セクシー田中さんの原作者の自殺について公の場での記者会見を開かなかった日本テレビなのに、国分太一のコンプラ違反で公の記者会見をやるとかおかしな話」という疑問が噴出している。
さらに、日テレが会見で事案の詳細について説明しなかったことから、事案の中身を臆測する動画、考察する投稿がどんどん出回ることも懸念される。そうなると、肝心の株主総会が大荒れになる可能性もある。
完璧だった日テレの社長会見が、逆に騒動を生まないか、心配だ。
境 治 :メディアコンサルタント
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