( 302801 ) 2025/06/27 07:18:19 0 00 日本郵便ならびに日本郵政グループは今後どうなるのか(Photo:TK Kurikawa / Shutterstock.com)
日本郵政の完全子会社である日本郵便は、不適切な点呼や記録改ざんが発覚した問題で今月25日に行政処分を受けた。これにより、トラックやバンなど、保有する一般貨物自動車約2500台が使えなくなったほか、違反が見つかった局の一部の運行管理者に対し資格証の返納も命じた。もっとも、郵便事業は赤字で、日本郵政グループ全体の収益を支えているのは銀行業と生命保険業の金融2事業であり、現在の収益構造の脆さが課題となっている。苦しい収益構造を改善しようと動き始めているが、そこに待ったをかけるのが自民党だ。ややこしくなりそうな今後の展開を読み解きたい。
配達員の酒気帯びなどを確認する点呼を適切に実施していなかった問題が 25年1月、兵庫県の郵便局で発覚した。貨物自動車運送事業者は法律上、運行時に車両状態やドライバーの酒気帯びの有無、疾病・睡眠不足などの有無を「点呼」する必要があるが、日本郵便では未実施があったほか、記録の改ざんなどが行われていた。社内調査では全国の郵便局3188カ所のうち、75%にあたる2391カ所で不適切な点呼の実施や、記録の改ざんなどの違反行為が確認されたという。これを受けて国交省は特別監査を実施、今月中に行政処分を下す予定だ。
国交省は自動車貨物運送の事業許可を取り消す方針で、処分が下されれば日本郵便はトラックやバンなど約2500台が使えなくなる。これらの車両は拠点間の輸送に使われていたものであり、月12万便への影響が予想される。日本郵便はすでに、下請け企業や佐川急便など他社への委託を進めている。
また、乗務割の作成を行う一部の運行管理者に対して、資格証の返納を命じる方針だ。なお、3万台以上ある軽バンは届け出制であるため処分される可能性は低く、8万台超の原付バイクは貨物自動車運送事業法の対象外である。郵便局から各地への配送については、処分による影響が小さい。
日本郵政グループは主に郵便・銀行・生保の3事業を展開するが、郵便事業の業績は2期連続の赤字であり、今回の不適切点呼問題がさらに業績を悪化させる可能性がある。ここで一旦、グループの事業内容と関係性を整理しよう。
資本関係は日本郵政の傘下に、日本郵便・ゆうちょ銀行・かんぽ生命保険が位置する構造だ。日本郵便は日本郵政の完全子会社で、郵便・物流事業や郵便局窓口事業を展開する。郵便局窓口事業は、銀行業と生保業の委託を受けて事務手続きを行う事業だ。
銀行業は傘下のゆうちょ銀行が担う。24年度末時点の預金高は190兆円。200兆円の三菱UFJに続く国内2位の規模であり、みずほ・三井住友と続く。本来の銀行業は個人や企業の預金を他者に貸し出して金利で儲けるビジネスだが、ゆうちょ銀行では民業圧迫を防止するため法人融資は行っていない。個人融資のほか、国債や株式による運用益で利益を得ている。かんぽ生命保険は旧簡易生命保険から続く生命保険事業を展開し、終身保険や定期保険、学資保険などを提供している。
日本郵政は3事業を中心に展開しているが、郵便事業の利益は小さい状況だ。
郵便・物流事業は2兆円の売上高を有するが、利益率の低い事業であり、25年3月期は前年に続き経常赤字となった。ECの伸びでゆうパックの取扱量が増える一方、ペーパーレス化で「郵便物」の取扱量は年々減少している。直近では人件費や委託業者への委託料が上昇し、利益を圧迫する。
国際物流事業は日本郵政が2015年に6,200億円で買収した豪トール・ホールディングス(HD)による事業だ。同社は豪州を拠点にフォワーディング事業を展開する。ドイツポストによる米・国際宅配会社、DHL買収に倣いグローバル化の波に乗ろうとしたが、買収後に業績が悪化し、現在も利益を出せていない。トールHDは合併を重ねたため効率のムダが多く、オーストラリア経済悪化の影響も受けた。豪州を主力とするため、日本郵便が展開する国内事業とのシナジーも限定的である。
郵便・物流が苦戦する一方で、銀行・生保の金融業は比較的堅調だ。両社を合わせた25年3月期の経常利益は7,500億円に及び、日本郵政グループ全体の9割を占める。銀行業は市場に連動する形で有価証券の運用益が増えた。生保事業は96年をピークに保険契約件数が減少し、長期では減収減益傾向だが、1,000億円以上の利益を確保している。ちなみに16年3月期における生命保険業セグメントの経常収益は9.6兆円、経常利益は4,115億円だ。
郵政民営化法では、政府による日本郵政株3分の1超の保有、および、日本郵政による日本郵便株100%の保有が義務付けられている。一方で、日本郵政によるゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株は全株処分することが既定路線だった。インフラの郵便は国が関与するものの、銀行業と生命保険業は独立させる方針だ。しかし、郵便事業の業績悪化を受けて、流れは逆行している。
自民党、公明党、国民民主党の3党は6月17日、郵政民営化法の改正案を衆院に提出した。同改正案では、日本郵政が「当分の間」、ゆうちょ銀行とかんぽ生命保険の株を3分の1超保有することを義務付ける。また、国が郵便局網を維持するために、国が日本郵政から受けとる株式の配当金などから年650億円の公的資金を投じる内容を盛り込む。つまり、国と郵政3事業の関係を維持する形だ。
郵便事業は衰退産業にある。生命保険業は利益をあげているが、前述の通り年々規模は縮小している。頼みの綱は銀行業だ。日本郵政全体の業績を振り返ると、15年3月期は売上高(経常収益)14.3兆円で、経常利益は1.1兆円。25年3月期は各11.5兆円・8,146億円だ。銀行業と公的資金に頼りながら、日本郵政は今後も収益規模を縮小し続けるだろう。
執筆:山口 伸
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