( 303045 )  2025/06/28 06:30:25  
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 日進月歩のクルマ界にあって、MTは「クラッチ踏んでカコッ、クラッチ踏んでカコッ」と、MT派の目から見ても進化しているようには見えない。もう進化の余地がないのだろうか?それとも目立たない進化を続けているのだろうか? 

 

※本稿は2025年5月のものです 

文:鈴木直也/写真:マツダ、日産、トヨタ、ベストカー編集部 

初出:『ベストカー』2025年6月26日号 

 

 電動化シフトが進む現在、内燃機関用のMTが進化しているかと問われるとキビシイ。一般的には「需要が少ない分野には開発のお金が回らない」と言わざるを得ないからだ。 

 

 ただし、残り物には福がある、という見方もある。日本車のMT比率は2%以下だが、ここまで減ると「好きだからMTを選んでる」人がほとんどだということ。 

 

 つまり「質が高くファンなMTドライビングを提供してくれれば、多少高価でも買いまっせ」という上客が付いている状況で、これならメーカー側にもMTを進化させるインセンティブが生じるわけだ。 

 

 ぼくの見るところ、このチャンスをもっとも生かしているのはマツダだと思う。 

 

 その白眉はいうまでもなくロードスターだ。まず2015年デビューのND用6速MTは、軽量コンパクトを重視したロードスター専用設計。こんな贅沢はかなり珍しい。しかも、マツダはMTドライビングの楽しさを表現するワザを熟知している。 

 

 MT単体で見れば、シフトフィールとかシンクロの強力さが注目されるが、最も重要なのはパワートレーン全体が心地よいハーモニーを奏でてくれること。 

 

 そのためには、エンジンのブリップレスポンスやクラッチのミートフィールなど、ドライバーとクルマのインターフェイスを丁寧に造り込む開発システムが不可欠なのだが、残念ながらそこまでこだわるメーカーは今やマツダくらい。 

 

 そういう意味でNDロードスターのMTドライビングは、日本一どころか世界一洗練されていると言っていい。 

 

 これに対し、フェアレディZの愛知機械製6MTや、GR86/BRZのアイシン製6MTなどは、原設計が20世紀まで遡るのがちと苦しい。もちろん、改良を重ねてはいるのだが、相方のエンジン出力が向上しているため、格別MTのフィールがいいとまで言えないのが残念。 

 

 個人的には、トルク51.0kgm(500Hm)クラスになると、MTは機械的に限界という気がしないでもない。 

 

 ほかには、電子装備でMTの取っ付きにくさをカバーする取り組みもあって、坂道発進を補助してくれるヒルホールドや、シフトダウン時にエンジン回転を自動調整してくれる日産の"シンクロレブコントロール"など、MTドライビングを進化させる取り組みも注目でしょうか。 

 

 

 シンクロレブコントロールはZ34で世界初採用された、シフトダウン時に回転を煽って同期させる機能。シビックタイプRのレブマッチシステムも同様の効果を狙ったもの。 

 

 iMTはカローラスポーツのエンストしにくいMTだ。そのほかMT車のブレーキホールドの登場によって、坂道発進時の不安は大きく解消された。 

 

 トヨタの開発部門がAE86をBEVにコンバートしたクルマは、BEVなのに6MTを組み合わせた。 

 

 動力源はモーターなのでミッションは不要だが、「クラッチを踏んで、シフト操作して走らせるのも面白いですよ!」がこのクルマの提案。そのために、モーターの制御系はかなり内燃機関MTっぽい挙動を表現するように造り込まれている。 

 

 で、これが笑っちゃうほどMTソックリのフィールで面白い。アクセルを煽ればエンジン音がレスポンスし、クラッチミートをしくじるとエンストする「ふり」をする。 

 

 こういう「お楽しみオンリー」だけでも、MTの存在意義はあるかも?と可能性を感じた一台でした。 

 

 

 
 

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