( 303355 )  2025/06/29 07:09:41  
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TBS CROSS DIG with Bloomberg 

 

9割近い自治体が待機児童ゼロである一方、いまだSNS上には保育園落選を嘆く投稿が多くみられる。その背景の一つに、隠れ待機児童の存在がある。 

 

国の待機児童の定義では、除外4類型と呼ばれる「(1)育児休業中の者」「(2)特定の保育園等のみ希望している者」「(3)地方単独事業を利用している者」「(4)求職活動を休止している者」は、待機児童にカウントされない。 

 

ここに該当する児童は「隠れ待機児童」と呼ばれ、その数は2024年は71,032人で近年高止まりしている。 

 

一般的に、自宅から徒歩20〜30分未満で通える保育園に空きがある場合は、「(2)特定の保育園を希望している」とみなされる。 

 

一方、毎日の通園の負担は重く、通いやすい保育園を選ぶことは、仕事と育児の両立や業務パフォーマンス向上に直結する。 

 

負担感は希望した子どもの数をあきらめる要因にもなりうる。 

 

「(4)求職活動を休止している者」とは、入園を申し込んだが求職活動を継続しておらず「保育の必要性」が認められない者を指す。 

 

しかし、保育園に預けられる見込みがないなかで求職活動を続けるのは困難である。 

 

待機児童ゼロでも、保育のニーズは満たされていない。 

 

隠れ待機児童の実態に基づいた保育政策を一層推進すべきである。 

 

たとえば、企業によるリモートワークの徹底や男女が交代で育児休業を取得する仕組みの推進が重要だ。 

 

後者は、キャリアブランクの短縮と同時に、保育士不足の軽減が期待される。 

 

自治体はAIやデータを用いた保育の質の向上や利用調整の効率化が求められる。 

 

待機児童ゼロは、保護者の「無理」で成り立っている面がある。保護者の送迎の負担やキャリア断絶、就労・昇進意欲の低下など、保育に起因した課題が残っている。 

 

保育は未来の人材を育てる場であるとともに、現役世代の就労や生産性向上に直結する場である。 

 

両立しやすい社会は、子を持つことを前向きに考えられ、人口減少対策にもなる。 

 

 

「入れればよい」という状態に満足せず、一層の保育の質向上が求められる。 

 

■待機児童ゼロなのに「保育園落ちた」 

 

2016年、「保育園落ちた日本死ね」との言葉が匿名ブログに書き込まれ、多くの共感を呼んだ。 

 

それから9年、保育所の新設などを進めた結果、9割近い自治体が待機児童ゼロ(2024年4月時点87.5%)となるなど、近年、待機児童問題は大幅に改善されたとみられる。 

 

しかし、今年もSNS上には入所申し込みの結果を緊張しながら待つ投稿や落選を嘆くコメントが多くみられた。 

 

待機児童は解消されつつあるのに、なぜいまだに「保育園落ちた」が保護者を悩ませているのか?その背景の一つに、隠れ待機児童の存在がある。 

 

■待機児童にカウントされない「隠れ待機児童」 

 

国の待機児童の定義は「保育園等の利用申込者数から、保育園等を実際に利用している者の数及び除外4類型<(1)育児休業中の者(2)特定の保育園等のみ希望している者(3)地方単独事業を利用している者(4)求職活動を休止している者>を除いた数」としている。 

 

一般的に、この除外4類型に該当する児童が「隠れ待機児童」あるいは「入所保留児童(以下、「保留児童」)」と呼ばれる。 

 

その数は2024年は71,032人で近年高止まりしている。 

 

自治体の例では、2025年4月時点で、大阪市は調査開始以降初めて待機児童ゼロを達成した一方、保留児童は2,528人と3年連続増加した。 

 

横浜市も12年ぶりに待機児童ゼロとなったが、育休延長希望者を除いた保留児童は1,511人と公表している。 

 

つまり、待機児童にカウントされないものの、保育園への入所希望が叶わなかった者が依然として相当数いるのである。 

 

以下では、隠れ待機児童の具体的な状況をみていく。   

 

■特定の園を希望するのはわがままなのか? 

 

隠れ待機児童の内訳で最も多いのは「類型(2)特定の保育園等のみ希望している者」で、過半数を占めている。 

 

「特定の保育園」をどう判断するかは自治体によって異なるが、自宅から一定の距離内の保育園に空きがある場合、特定の保育園を希望しているとみなす基準が多くみられる。 

 

 

一定の距離とは通常の交通手段により自宅から20〜30分未満が目安の一つとなっている。 

 

たとえば、徒歩で20〜30分、自転車だと10〜15分程度のケースで、毎日通園にかかる負担を考えてみる。 

 

首都圏は地価が高いこともあり、保育園は駅周辺とは限らない。最寄り駅と反対側の場合、いったん子どもを送り、また駅に向かって出勤するケースもあるだろう。 

 

迎えに行く場合も同様の負荷がかかる。 

 

さらに、兄弟姉妹が別園の場合はいっそう送迎に時間と手間がかかる。 

 

こうした毎日の負担は業務時間を圧迫する。 

 

通園しやすい特定の保育園を選ぶことは、仕事と育児の両立と業務パフォーマンス向上に直結するのである。 

 

さらに、希望した子どもの数をあきらめる要因にもなりうる。 

 

また、一度認可保育園に入園すると転園は容易ではないため、いったん入園して希望園の空きを待てばよいというわけではない。 

 

特に0〜2歳は定員が埋まっていることが多く、空いたとしても認可保育園に入っていない保育ニーズのある児童が優先される。 

 

こうした事情も復職を遅らせ、特定の園への入園を待つ動機となる。 

 

距離だけでなく、教育方針や保育所の広さ等で特定の園を希望するケースもある。 

 

こうした条件を絞って保育園を選ぶことは、時に「わがまま」という見方もされる。 

 

しかし、保育園は1日の大半を過ごす場であり、子どもにとって重要な学びの場でもあることを考えると、少しでも子どもに合うところを選びたいと思うのは親として自然なことではないか。 

 

また、類型(3)の地方単独事業は認可保育園に入れなかった人の受け皿となっている。 

 

特色ある教育等により、入園してみたらむしろよかったというケースもあるが、認可保育園が空き次第転園する人も多く、まさに待機児童といえる。 

 

保育料が認可よりも高い場合もあり、コスト面の負担も大きい。 

 

■求職活動を阻む保育の壁 

 

「類型(4)求職活動を休止している者」とは、入園を申し込んだが求職活動を継続しておらず「保育の必要性」が認められない者を指す。 

 

 

認可保育園は就労等を理由に保育ニーズがある者が利用対象となるため、求職していないと対象外となり待機児童から外される。 

 

しかし、保育園に預けられる見込みがないなかで求職活動を続けるのは困難である。就職先が決まっても、預けられなければ働けない。 

 

つまり、求職活動を休止しているから待機児童ではないとされているが、待機児童ゆえに求職活動を休止せざるをえないケースがあるのだ。 

 

■「落選狙い」はズルいのか? 

 

「類型(1)育児休業中の者」とは、復職意思がない=保育園の入園意思がなく申し込んだ者を指す。 

 

なぜ申し込むかというと、1歳以降も育休を延長し、育児休業給付金を受給するには、保育園に入れなかったことを証明する保留通知書が必要だからだ。 

 

自治体によっては、復職意思を確認する項目を設け、育休延長も許容できるといった欄にチェックした人は入所選考の順位を下げるようになっている。 

 

こうした人は、働く気のない「落選狙い」と否定的な見方をされることもある。 

 

ただ、1歳前後は夜泣きなどで十分な睡眠時間が確保できず、仕事との両立が困難なこともある。 

 

加えて、時短勤務を選ぶと給与が減少し、そこから保育料を差し引き、さらに夫の配偶者控除による節税効果を考慮すると、復職して得られる給与は受け取る育児休業給付金と大差がなく、育児休業の延長を選択する方が合理的な場合もある。 

 

復職意思のない育休中の者を待機児童としてカウントすることに違和感があるのは確かだが、潜在的な保育ニーズは存在しており、そうした選択をする背景にも目を向けるべきだろう。 

 

■隠れ待機児童の解消に向けて(1)企業 

 

以上のように、待機児童がゼロになっても、実際には保育に関するニーズが十分に満たされていない現状がある。 

 

隠れ待機児童の実態を正確に把握し、それに基づいた保育政策を一層推進すべきである。 

 

ただ、保育士不足や就学前人口の減少に伴う今後の需要減を踏まえると、地域にもよるが単に保育施設を増やすことは得策とはいい切れない。 

 

 

 
 

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